第二十五話:畔河までの伝令
どうでもいいけど、分隊長とその部下の名前が明らかに……。
「では、先の二人をここに――!」
畔河の兵達を一旦片付けた月清は、件の分隊長とその部下を呼ぶ。すると自身の部下達が件の二人を自身の目の前に連れてきた。
二人は酷く怯えており、両者の目には希望という光が全く宿っていない。
――俺達、何されるんだろう……? という不安だけが今の二人を支配している……。
「お前達、名はなんと申すか!?」
いきなりの月清の問いに、二人の内の分隊長の方から――
「はい、私は氏が『糸』、名は『申竜』と申します! 字はございません!」と名乗った。字はないことから、本当に只の分隊長のようだ。
続いて彼の部下も、「私は氏は『竹太』、名は『洲漕』と申します! 私も字はございません!」と名乗る。こいつも只の兵士のようだ……。
「『申竜』と『洲漕』か……」
二人の名を覚えるように、彼らの名を復唱していく月清。名の方を復唱しているところから、その方が覚えやすいと思われる。著者もそちらが分かりやすいので、今後から二人の呼び名はそれらで記すことにする。
「あ、あの……私達は……」と命惜しさにビビりながら口を開く申竜。
「何をすれば……よろしいので……?」と洲漕も口を開いていく……。
この二人の発言に呼応するように、月清は――
「そうだな……先ずは――地に転がれ!」と二人に命令を下した!
いきなり「地面に転がれ!」と命じられた二人。
彼らは双方とも「キョトン」と呆けてしまいそうになるが、かろうじて申竜が――
「あ、あの……手が縛られてる状態のままでしょうか……?」と月清に尋ねる。
もし反応しなかったら、斬られると思っているのだろう。
実際に何時切られても文句は言えない立場にいるので――無理もない。
「そうだ! それが終われば手の縛りを解く!」
この月清の答えに、洲漕は「分かりました!!」と応じて、即座に地面を転がっていく!
この直後に、「あっ、お前ずるいぞっ!」と部下に先を越された申竜。
それから二人が「ゴロゴロゴロゴロッ!」と地面を転がり初めて一分弱たった頃――
「良し! もういいぞ!」と月清から許可が下りた。
これに二人は何とか起き上がろうとするが……。
「「――うっ、うっ……!」」
手が縛られている状態なので、スムーズに起き上ってくれない。
一分一秒が惜しくない訳ではないがじれったいので、月清は片手を挙げて自身の傍に控えていた騎兵(下馬状態)達に合図を送る。
すると兵達は、二人を地面に押さえ付けた状態で双方の縄を解いていく。
申竜が「痛い痛い痛い痛いっ!」、洲漕が「やさしく! やさしくっ!」と喚いても、兵達は二人を押さえ付ける手を一切緩めてくれないが……。
「「ふーっ……!」」
縛られていた手がやっと解かれて、溜め息を吐きながら立ち上がる二人。
「「!!」」
しかし、安堵したのもつかの間。先程二人の手を解いた兵達が、真顔で二人の首元に剣を据えている。今も二人の命は“物理的”に縛られたままだ……。
「……!?」
「あっ、あの……。ほっ、他には何をっ……!?」
恐怖の余り声が出ない洲漕に代わって、申竜は必死に声を絞り出して、月清に尋ねる。
この時点で申竜は内心では泣きに泣きまくっており、洲漕に至っては目に涙を浮かべている……。きっと――自分はもう助からないだろう……。と思っているのだろう……。
申竜に至っては、罪人に無理やり自決させる国も実在すると聞いている……。
悪い意味で心が真っ青に染まっている申竜と洲漕の二人。
月清はそんな二人の心を全く意に介することなく、自軍に向かって――
「かの二人に付いていない者は――全員ここで休め!」と命令を放った。
――すると、どうだろうか!
初戦から威勢を放っていた騎兵のほとんどが、しゃがみ込んで談笑を始めている!
しかも、緊張感がほとんど漂っていない笑顔で! 無防備とも言えるほど!
「「……!?」」
突然の光景に我が目を疑うことしかできない申竜と洲漕。
そんな二人に「お前達は畔河との伝令を担っていたな!?」と月清の声が跳んでくる。これに申竜が慌てて「はい、仰る通りでございます!」と畏まる。洲漕も然り。
「ではその役目を以て、この光景と我らの戦果を畔河に報告せよ!」
「「……!?」」
この月清の命令の意味を二人は全く考えることができなかった……!
次回予告:分隊長の悲しき事情……。
今回の登場人物
*京賀国
・月清:京賀国の宰相。
*佞邪救国政府畔河政権
・申竜:一分隊長。武将を目指しているがヘタレ。
・洲漕:申竜の部下。




