尽と隈の戦後
大変お待たせ致しました。
題名通り、尽と隈の戦後になります。
鹿追の死後も、隈軍は鹿追への忠誠心を捨てなかった!
世歴八百五年九月二十五日の夜明け前に隈軍は敵に対し“最後の突撃”を敢行!
結果、隈軍は公丞軍に少なくない損害与えて――全員玉砕した……!
誰一人の残党や捕虜すら残さず……隈兵が殲滅された夜明けであった……。
そして鹿追を含む隈軍に属した将兵や文官の遺体は全て――処分された。無論、魂ごと……。
こうして公丞軍は内戦に勝利したものの、公丞軍自身も半ば崩壊状態に陥っていた。
この時点で公丞軍に残っている戦力は、二個団強で約二千百名。皆疲弊している……。
全兵力が二万以上を誇る尽と対等に戦える兵力すら残っていなかったのである。
おまけにその約二千百名の全員が公丞に非協力的。内、千名は極めて反抗的であった。
内戦が終わったのに給金は払えず、物や土地も貰えず、休みもないのだから無理もない……。
無論、公丞軍占領下の民衆達も、暴政しかできない公丞に不満を抱いていた……。
また尽との契約で“隈”の元首に立つ以上は、旧隈軍が尽から受けた支援に対する代償を、嫌でも継承せねばならないが、内戦を終えたこの隈にそんな力は残っていない。
もし尽との事前の契約を破棄すれば……公丞には“死”の天命しか待っていない!
そんな公丞に残された唯一の手段は、隈の残りの全領土及びその全軍を尽に譲渡。
その譲渡を以て、今での尽から受けた支援の代償を無にしてもらう。
そうして何も残っていない公丞自身を大陸に亡命させることだけであった……。
そしてその手段は――世歴八百五年十月一日を以て実行に移された……。
この時に大陸行きの船に乗った公丞を見送った鋒陰は嬉々として――
「公丞に尻尾が生えていたら、絶対に巻かれていたぞ~っ!」と述懐した。
加えて「それと公丞の死んだ顔――今でも受ける!」とも鋒陰は述懐した。
世歴八百五年十月十日 午前十時頃 尽 尽子 宮殿の某会議場
「陛下、遂に尽は……この尽……治全島全域を統一致しました!」
今後の方針を決める御前会議の冒頭でこのように陽玄に報告する貴狼。
そこへ月清も「これで“祖国統一”の基盤が手に入りました!」と続く。
ちなみに「治全島」とは尽がある島のこと。その面積の平方キロメートル、三万七千弱。
日汎列島を構成する四つの内の一つで、その広さは下から二め番目。
それでも古来から「日汎本島(日汎列島を構成する四つの島の中で最大の島)と大陸の懸け橋」と呼ばれる程、軍事や経済面では重要な通路兼拠点となり得る島である。
蛇足だが……本来、尽とは「治全島」の略称である。故にその島の別称も「尽島」。
また尽王朝の首都である「尽子」は、“治全島(尽)の北(子)端”を意味している。
「それで……これからの尽の方針はどうなる?」という陽玄の問いに、貴狼は――
「戦乱の傷跡が癒えていない以上は、こちらから攻勢することは控えるべきです!
既に情報網は構築しておりますが、“地下部隊”の準備が整っておりません!」と返答する。
なお、発言にあった『地下部隊』とは、敵国内で遊撃戦や破壊工作を行う組織のこと。
いざとなれば敵国内で敵軍の補給部隊を襲ったり、敵軍の行軍経路上の橋を爆破するなどして、敵軍を妨害し自軍を助けるのだ。
尤も、それらのような派手な手段を――敵が易々と許してくれるだろう。と貴狼率いる大本営(尽の最高統帥機関)や尽の高官の誰もが考えるはずもなく……。
大本営は飽くまでも、“敵への止め”か“自軍の退却支援”に考えていた。
「それに旧日汎王国全域の統一に要する最低限の物資も備蓄されておりません!」
このように戦闘と兵站の準備が揃っていない上での戦は無謀どころか自殺行為です!
以上から、ここ数年は人口増加政策や移民受け入れ政策を中心に、富国強兵に努める予定です」
貴狼からこのように国の方針を提案された陽玄は「分かった。良きに計らえ!」と命令で返した。
それから御前会議が終わった後、鋒陰がある通路を歩いていると、その背後から貴狼に――
「太師(皇帝の師)殿。少しいいか?」と声をかけられた。鋒陰が「いいぞ!」と返答すると……。
「近日、祭祀の最高職を陛下に奏上するから、命を受けたら引き受けて頂きたい!」
「へ? こっちは別いいけど……そういうのは、“帝位継承者”か“皇族”がやるんじゃないの?」
「未来の“殿下”には軍の最高指揮官を務めてもらわねばならん!
俺にも“管理監督者”がおらんと、部下が不審がる恐れがあるのでな……」
「ふーん……。閣下は――帝位を狙っている輩と見られたくないのだな……」
――貴狼は「受禅(君主の位を譲られること)や簒奪(君主の位を奪うこと)を企んでいる者」と見られて、部下達が貴狼に反抗的になることを恐れているのだな。と貴狼の返答から推測すると同時に、その貴狼に返答する鋒陰。
「左様だ。この通りだ、頼む……。無論、“代償”は用意する」と貴狼から再度頼まれた鋒陰。
鋒陰は「『代償』って?」と貴狼に訊き返すと、貴狼は鋒陰に何か耳打ちした。
すると鋒陰は「合点承知!」と引き受けてくれるが、「――で、本音は?」と貴狼に訊くと――
「丞政の職域を減らして楽したい!」という答えが貴狼の口から返ってきた。
次回予告:そろそろ尽の一日をご覧になります?
*尽
・陽玄:尽の皇帝。まだ幼い。
・鋒陰:尽の太師(皇帝の師)。まだ幼い。陽玄より一歳年上。
・貴狼:尽の丞政(摂政)。
・月清:尽の外政宰相。
*隈
・鹿追:隈の皇帝にして大元帥。既に故人。
*公丞軍
・公丞:隈に対する反乱指導者。現在、大陸に亡命中。