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魂魄双伝~祖国統一編~  作者: 希紫狼
尽隈戦争の章~尽隈戦記~
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両将軍の首

大変お待たせしました!


刻多前線……決着の時!

  世歴八百五年五月二十九日 午後十一時頃 刻多こくた 隈中集団本営

 中集団の将軍である公丞こうじょうが不在となった刻多は今――尽の空爆を受けていた!

 尽の上保じょうほ天灯てんとうの飛行船二隻は、連絡用として地上に待機していた隈の摂政専用飛行船を真っ先に爆撃すると、中集団の全砲兵部隊も爆撃してこれらを殲滅!

 さらに隈中集団本営付近に点在している隈軍てきの物資集積所等を片っ端から爆撃!

 そのため隈中集団への被害ダメージは、隈中集団かれらの精神的なダメージは計り知れなかった。何しろ頼みの大砲が皆無。食料や鉄砲用の火薬等もほとんどない……。

 また先の飛行船二隻は、昨日の「南石の戦い」と同様に雲をまといながら爆撃していた。

 それ故に隈中集団の将兵達は、“敵に空爆されている”どころか自身らに起こったことを認識できずに――恐慌パニック状態に陥ってしまう将兵達も少なくなかった……。



 そんな空爆から朝が明けて――五月三十日の現在。刻多ここに残った中集団の各団の指揮官達による会議が開かれた。議題は失った物資や食料をどのようにして早急に調達するか。

 そこで最有力の案として、刻多の住民から食料だけでも徴発することが検討された。

 しかし、今日の昼頃に住民達の自主避難を許可してしまったために、残っている住民ものは多く見積もっても一割強。徴発しても降伏を数日送らせる程度という現実が発覚しただけだった。


 そんなところへ、「尽軍てきが攻めてきた!」という凶報が飛び込んで来た!

 この報告に各団の指揮官達やそれぞれの副官達も一斉に「何!?」と驚いた!


 その直後に「尽軍てきの首脳直々にが降伏勧告に来た!」という報も飛び込んで来た!

 この報告に各団の指揮官達は一斉に「……は!?」と放心状態になった……!



 放心状態から解放された各団の指揮官達が伝令兵達の案内を受けて、“現場”に向かうと――馬上の貴狼きろうが自身の護衛の騎兵部隊と共に現場そこにいるではないか!

「隈の者共よ、聞くがいい!! 私は尽王朝の今上きんじょう(当代)たる太聖たいせいこう皇帝(陽玄のびょう号及び号)陛下よりまつりごとを預かり奉る“貴狼”という者だ!!」

 この貴狼の名乗りに負けじと、隈中集団内で再先任の将校が胸を張って――

「左様な貴職が、何用で――この刻多こくたに参られた!?」と貴狼に訊き返す!

 しかし、その心中は――いつの間にここに……!? と動揺している……。


「今上陛下の命により、私が直々に――貴軍へ降伏を勧告するためだ!!

 既に貴軍の物資や食料は乏しく、援軍も望めない。砲兵きりふだもない。兵力も少ない。

 左様な状況で貴軍に残された道は――降伏のみ。ここでその道を選ぶのが貴軍のためだ。

 今、ここで尽軍われらに下れば、身の安全を保障するどころか相応の代償も与えよう!!」

「貴職の話はありがたい――が、我らはそう簡単に下ることは許されぬ!!」

刻多ここにいない中将軍(公丞)を気にしておられるのか?

 もう左様な心配事は無用だ!! 貴軍は二度とあの将軍に会うことはない!!」

 この貴狼の言葉に、将校が「仮にそうだとして、左様な保証がどこに!?」と訊くと……。

 貴狼は指パッチン(フィンガースナップ)で護衛達に合図を送ると、護衛達かれらの内の数名が二つの桶を持ってきた。それらの桶には――隈軍てきの“首”が入っている……!


「片方の桶には――貴軍の衛将軍であった弓生きゅうせいの首が入っておる!

 もう片方にも同じく――貴軍の右将軍であった刻福こくふくの首が入っておる!

 保証にはならずとも、尽軍われらの力を示す証にはなろう!」

「……!?」

 貴狼の言葉に動揺してしまったあまり、声が出ない将校。他の将兵も同様に声が出ない……。


「武人の矜持きょうじが故に、降伏をせぬというなら――それもよし。

 心の痛む話だが……尽軍われわれはそんな貴軍を意思を尊重して――貴軍を殲滅致そう。

 だが、途中で考えを改めるなら――両軍にとって、これほどありがたい話はない!

 明日の日の出まで待つ。それまでに考えを改めたなら、降伏の旨を尽軍われらに伝えよ!

 私の降伏勧告はここまでだ。尽軍われわれはこれにて失礼させてもらう!」

 貴狼はそう言い残して、隈の将校らに悠々と背を向けていく……。


「……」

 まだ頭の中が整理ができていない将校らに、貴狼はこう言い残して護衛達と共に去っていく。

「先の両将軍の首は置いてゆく。本人かどうか――じっくりと確かめるがいい!」



 それから刻多ここに駐留している隈の各団の首脳達は、正午に入る寸前に本営へ集合した。

 首脳達かれらは貴狼から渡された両将軍の首をじっくりと確認し――“本人”と判断!

 そのことが、味方の衛集団(親衛隊)と右集団が壊滅されたという決定的な判断材料になった!

 もし隈軍じぐんの勝ち戦が続いていたら、両軍の死は“英雄の死”として大々的に味方に喧伝けんでんされるはず。それがないのは敗戦が続いているとしか思えない……。


尽軍てきに降伏に賛成する者は――手を挙げてくれ……」

 今朝に貴狼と話をした将校が、混乱の渦中にいる他の首脳達にそう呼びかけると、その全員が手を挙げた。――皆、命が惜しいのか……。と思っている当の将校かれも手を挙げていた……。

 その日の夕方――刻多に駐留する隈の全部隊の代表者が、尽軍に降伏の旨を伝えに来た。

次回予告:いざ――クーデターまであと少し!


今回の登場人物


*尽

・貴狼:尽の丞政(摂政)。


*隈

・弓生:隈の衛将軍(親衛隊指揮官)。既に戦死。

・刻福:隈の右将軍。既に戦死。

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