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魂魄双伝~祖国統一編~  作者: 希紫狼
西進の章~西方征記~
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英断

夜襲の後……。

  世歴八百四年五月二十三日 午前九時頃 潴 呉目近郊 潴隈両軍の最前線

「貴様らの帝と摂政は――首だけとなった!! 後に続きたくなければ――英断を下せ!!」

 てきの一将校と思われる男の大気が響く――戦場。

 戦場そこでは潴と隈の両軍が睨み合って、間には無人で無水の川ができている。

 そんな川の潴のほうには――約三十の首が並んでいる……。

 先の夜襲に参加していた潴の近衛団ぶたいの将校らのものだ。

 それら首の中で、漢開と歯朶の頭部の二つが一番前に突き出されるように並んでいた。

 歯朶は馬で逃げている最中に、後ろからの矢、前方の槍兵まちぶせで討たれた。

 各々の首には、矢が刺さったりと、面が苦痛や恐怖で歪んでいたりと悲惨であった……。


「昼までに考える時間をくれてやる!! それまでに英断を下せ!!

 さもなくば――貴様ら首もここに並ぶ天命こととなろうぞ!!」

 先のてきの将校の声が、再び――この戦場に響いた……。

 その直後に潴の陣から――ざわざわ!! と話し声が聞こえてくる。

 全将兵みな――身近な将兵どうりょうと今後の話をしている。



 そのくに司隷団いきのこり(首都防衛部隊)の某所あるところで――

 例外なくある兵が「どうする……。今すぐにでもあっちに投降するか……?」と同僚に話しかけている。見た目から――まだ二十代前半と思われる若い男だ。

 そのかれに話しかけられた、兵はため息を吐きつつ――

「それが賢明だとして――すぐするのは賢明じゃねえな。

 したら自分の後ろから弓で討たれるか、騎兵に追いつかれて斬られる!」と否定の答えを口から吐いた。見た目から――まだ三十代前半と思われる男だ。

 そこへ偶然通りかかって、その兵の答えを聞いた別の兵も――

「お前の言うとおり、今は早まった真似は考えないほうがいい……」と割り込んでくる。

 今度は――二十代後半と思われる男のようだ……。


「結局……俺達生き残れるのかな……?」という二十代前半の兵の問いに――

「さぁな……。どの道に死ぬ天命なら――戦っても、降っても同じ天命ことだ……」

 この三十代前半の男が下した結論に、二十代後半の兵はどこか諦め気味に――

「結局……俺達の命は本営うえが握ってるからな……」と天を仰ぐだけだった……。



 一方、その当の司隷団いきのこりの本営は今――見張りの兵しかいない!

 司隷校尉あるじ(首都防衛指揮官)にして宰相である遠迂は今――最前線にいた!

 最前線そこで遠迂は、この世界では貴重レアな……双眼鏡を使って――無水の川の先の岸に並べられているそれぞれ首が、各々と同一人物であるかを確認していた。

 そして確認が終わって、双眼鏡を下げた遠迂。早速、伝令にあることを確認して――

「ここに残ったわが兵は賢明と見える!誰も早まっておらん!」と笑みをこぼす!

 そんな遠迂にある一人の男が近寄ってきて――

「それは良しとして、この先はどうします?工作ことは上手くいきましたが……。

 ここからは――生き残る目的ことを果たせるかが問題ですぞ!」と声をかける!

 その男は何と……昨日に、漢開に隈の本営の位置と状況を伝えた――件の馴染みの商人ではないか。その正体は隈の工作員スパイとして潜り込んだ――貴狼の工作員スパイ。先の本営の件も改長が仕組んだことにして、貴狼がそれに便乗して許したこと。

 すなわち……両者は――漢開が目障りな邪魔者やつ!という点で一致していた。

 ちなみに遠迂も、貴狼の工作員スパイである。


「それには心配及ばん!尽はわれらを決して見捨てん!」

 この遠迂の返事を聴いた件の商人は、安堵したように「ふう……」と息を吐いて――

「では私はこれで……。ご武運を……」と隈へ潜入する旅路へと戻っていった……。

 その商人の後ろ姿に、遠迂は頼もしげな笑みで「貴殿もな……」と言葉を送ると――

「よいか、皆の者!! これより徹底して守りを固めろ!!

 決して敵の挑発さそいに乗るな!! これに背いたものは即――処断せん!!」とすぐに司隷団いきのこり全将兵ぜんいんに号令を下した!

 これが遠迂が下した――首だけにならないための英断であった……!



  世歴八百四年五月二十三日 午前十一時頃 潴 呉目近郊 隈軍の本営

 同時刻、隈の本営では「何っ!? ここで撤兵する――と!?」と鹿鬼の驚声が響いていた。

 その視線の先には「ご理解に苦しんでしまわれること――お察し致します!」と深々と頭を下げて、鹿鬼あるじに理解を求める改長がいる。


「せっかくここまで来たというのに、何故か!? あと一息で潴の攻略が成るというのに!」

「最早――潴の攻略は失敗しております!潴の司隷団ざんとうが脅しに屈せず、徹底抗戦の構えで籠城戦の準備をした以上――攻めても割に合わないものになるかと……。

 それにやつらの頼みの尽の軍が動いてからでは、圧倒的に苦しくなります!

 現に今――われわれの兵站事情が楽な状態ものではないのです……」

 鹿鬼が粘るものの、改長にぐうの音が出なくなるまで反論を述べられてしまう。

 これに鹿鬼が「なんと……!? では何のための北伐というのだ!?」と嘆いて尋ねると――

「“南伐なんばつ”のためで御座います!」という予想だにしない答えが返ってきた!

次回予告:攻勢のための準備。その準備のための攻勢……。

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