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魂魄双伝~祖国統一編~  作者: 希紫狼
西進の章~西方征記~
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無答責

立憲君主制の原則の話……。

 ――賭博ギャンブルは酒よりも人を酔わせるかもしれん……。とも思った遠迂。

「陛下の御決心がそれほどなら――私には何も申し上げることはございません……」と諦めて引き下がる他ない……。内心で大いに呆れながら……。

 そんな遠迂の心を露程も砂粒ほども知らないし、知ってたとしても理解できない漢開。

 後先考えることなく、「じゃぁ、留守を頼むぜ!」と遠迂に気楽に命令を下す。


「仰せの通りに。ですがその前に、一つお聞きしたいことがございます!」

 この遠迂の返事に――長い話で今夜の勢い(ノリ)が殺されたりしないよな……?と気になってしまった漢開が「何だ?」と不機嫌に訊いてみれば……。


此度こたびの夜襲で陛下の玉体に万一(戦死)のことがございましたら、私は何方どなたをその責を求めればよろしいのでしょうか?

 古来の慣わしから、君主は“無答責(誰に対しても責任を負わないこと)”という原則がございます!故に陛下御自身が責を負うのは――論外でございますが……」

 この遠迂の疑問を聞いた漢開は即座に「そりゃ決まってる!《こいつ》を責めればいい!」と言って真横にいる者を指す!指されたのは遠迂と真反対の立場の――歯朶!


「……!!」

 指された歯朶かれは一瞬だけ青()めた顔で驚くものの、すぐに――

「陛下の仰られる通りだ!万一の時は私がその責を負ってみせよう!」と強気に宣言!

 この宣言を聞いた遠迂は――逃げられないぞ!と言わんばかりに、真っ直ぐに歯朶を見つめて「その言葉――しかとこの耳で聴きましたぞ」と言い放った……!



  世歴八百四年五月二十三日 午前零時頃 ちょ 呉目ごもく近郊某所

 こうして一発逆転を狙って本営から出撃したここ近衛団しゅりょく

 現在、潴の軍は部隊を二つに分け、一方が呉目を防衛しつつ隈軍てきの目を引きつつ、もう一方が隈軍てき本営きゅうしょを叩く作戦を摂っている最中!

 前者の指揮を遠迂が、後者の指揮を漢開が歯朶に支えられて執っている……。


 そんな後者の部隊である近衛団が、隈軍の本拠地を目前に攻撃態勢を取っていた。

 将兵達の目が無意識にギラギラとしている。昼間の戦闘に加え、ここに着くまでに不眠不休で敵の包囲網を掻い潜ってきたのだ。当然、心休まる暇もなかった……。

 皇帝にして将軍(最高指揮官)である漢開の目もその限りではない……。

 だがこれからの疲れも後少し……。そう後少し……。

 漢開かれの目の前には、多くの隈軍てきの灯りがある……。

 ――ここを切り抜けて、美味い酒でも飲むか!と先の短い予定を立てる余裕も生まれる。


「陛下!攻撃命令を!」と自身に向かって小さめの声で奏上した歯朶に応えるかのように、漢開は「突撃いいいいいいっ!!」と大声で、周りに潜んでいる将兵達に命令!

 これを合図に潜んでいた将兵達は一斉に敵の視界へ飛び出し――

「おおおおおおおおっ!!」と目の前の敵陣に向かって猛突進!!

 の軍の夜襲に、隈軍の本営から「うわああああっ!! 夜襲だああああっ!!」とか「逃げるなああああっ!! 反撃しろおおおっ!!」と様々な声が上がってくる……。

 しかし本営の兵力は隈の夜襲部隊よりも圧倒的に少数……。

 僅か五分程度でその戦力差を察してしまった本営にいる隈の部隊が、潴軍てきに背を向けて撤退する羽目になってしまうのは――必然であった……。


「おりゃあああああっ!!」と自らも騎乗して敵兵を斬って駆け抜ける漢開!

「逃がすな!! 本営である以上、てきの皇帝――でなくとも将軍がいるはずだ!!」と漢開の隣で騎乗している歯朶も、駆け抜けながら全部隊(ぐん)に号令を下している!

 そんな二人の周りでも近衛騎兵の全将兵が――勝利に向かって突撃している!

 このように夜襲に参加している全潴兵が勝利を確信した――その瞬間……。


「うわああああああっ!! う、後ろからてきの騎兵――ぎゃあああっ!!」

 後方からの騎兵みかたの悲鳴。これを合図に、今度は他の後ろの方からも――

「たっ助け――ぐああああああっ!!」と断末魔の叫びが聞こえてくる。

 おまけに「ドササッ!!」と何かが落ちて転がる音も聞こえてくる。

 加えてその音がどんどん聞こえてくる!どんどん近づいてくる!


「……」

 その不愉快で聞きたくもない音の多さに、青褪めた漢開が後ろを振り向いてみると――

「あいつがここの皇帝だああああああ!! 逃がすなああああっ!!」

 てきの騎兵の中でも何かしらの隊長格と思われる騎兵おとこが剣を片手に、漢開かれに向かって猛突進している真っ最中ではないか!

 漢開かれの目には、かれの眼とその剣が――鈍く輝いて映っている……。


「ひいいいいいいいっ!! だっ……誰か俺を助けろおおおおっ!!」と堪らず漢開は自身の馬を走らせて真っ直ぐに逃げていく!ここまでくると己の身のことしか考えられない!

 そうやって漢開が味方の将兵を追い抜き切ったところで――

「助けてやろう!! 故に少し我慢せい!!」と改長が弓兵部隊を率いて待ち構えていた!

 そして漢開は「あっ――」と悲鳴も出せず、目の前の矢の嵐に散っていった……。

次回予告:窮地に陥る――潴!

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