ニヒ
戦が終わっても、やることは――腐るほどある!
世歴八百四年四月二十六日 午前九時頃 尽 尽子 宮殿 大広間
卒を滅ぼしたからと言って、尽の官僚達には諸手を上げて歓喜する暇はない!
まだ南方には大国の“隈”、東には“碩”、西には“直”、さらに北には何時裏切ってもおかしくない同盟国の縁に囲まれている!
故に尽は――既に四面楚歌の状態にあると言ってよい!
それなのにまだこれが――絶望的な状況ではないのは、大国である隈との間には緩衝国となってくれる国々ができていることが大きい!といっても期間限定だが……。
そして四方の国々との間には手が結ばれていない!結んでも連携できないだろうが……。
だからといって尽には平和を享受する暇がない!
敵の外交や軍事が活発化する前に先手を打たなければならない……!
尽の宮殿の大広間では、これからの尽の方針を決める会議が催されていた!
「此度の卒との戦――皆御苦労であった!しかし我が尽は今も天下の一端どころか、自国の命綱だけにしがみついているような体たらくだ!
故に此度の会議では――諸君らの忌憚のない意見を求める!」
この陽玄の言葉に、貴狼が「では会議を始める前に」と続くと――
「今上陛下(陽玄)……曽祖父君に廟号と諡号を……!」と陽玄に促す!
「予は即日、予の曽祖父である空兎に――『粛聖撃皇帝』と諡す!」と曽祖父である空兎に廟号と諡号を贈った陽玄!
「仰せの通りに……」と当の贈られた空兎は、静かに応える……。
そして貴狼が「皆、こちらに御座す粛聖陛下にも粗相がないように!」と会場の全高官達は一斉に「畏まりました!」と返してみせた!
「それと今上陛下の御隣に控えている……布で追われて正体が掴めん者がおるだろう!
この者は『児非』といって今上陛下の新しき侍従である!
様々な事情がある故、この者の正体はまだ明かせぬが、既に陛下ら(皇帝達)と臣らはその正体をご存じである!故にこの者を不審がる必要はないぞ!」
「私めは……『児非』と申します!以後よろしく……」
貴狼に紹介されて、会場の全高官達に挨拶するニヒ。
確かに――彼の全身は衣服で覆われて、その正体は掴みようがない!
もし陽玄の控えていなければ、宮殿から追い出されていただろう!
もし貴狼の紹介がなければ、不審な視線を受けていたことだろう!実際に貴狼に紹介される前は――誰だこいつ!? と言わんばかりの不審な視線を受けていた!
「……よっ……よろしく!」
初めて見る『ニヒ』とやらに全官僚達は戸惑いを隠せずに、挨拶を返してしまう!
何せ、その『ニヒ』とやらの声がどうも変なのだ!まるで感情が感じられない!
――なんか変な奴来たぞ……。と彼らは内心で戸惑いを抑えきれない!
――当然、変な奴って思うだろうな……。と内心で戸惑っている全高官達に同情する。
だってその『ニヒ』の正体……骸骨状のロボットなんだもの……!
遡ること昨日の夜中の宮殿のある一室で――ニヒが自らの首の上まで覆われている頭巾を取って正体を明かしてみせた!その顔部はもちろん――髑髏を模したような形状!また色も黒く光っており、両方の目は赤く点灯している!
最早どこぞの――人間達を抹殺するために作られたアンドロイド兵器!
そこに立ち会った者達は――陽玄を含めた尽の皇帝の諡号を持つ者達、空兎と月清。これらに加えて、鋒陰、貴狼、紫狼、時狼といった限られた高官達も立ち会っている!
「「「「おおおおおっ!! すっげええええええっ!! かっけえええええっ!!」」」」
これが陽玄、月道、青月、加えて鋒陰らの反応!
それらの瞳は“すごい物を見た時の子供”のように輝いている!暢気……。
対して「なっ……なんなんですか、これ!」と戸惑う月清!至極、当然である……。
「私めが旅をしている頃――ある所で拾ったロボットです!
何か問題でも?」という貴狼の問いを受けた時には――
「ありまくりだわっ!!」とツッコんでしまう月清であった……。
「予が尽の皇帝にして『太聖高皇帝』である……氏が『零』、名は『魂』、字が『陽玄』という者だ!よろしく!」
「御意……!我が皇帝陛下……!」
陽玄の自己紹介に、ニヒはドイツ語で返してみせた!
このニヒの返しに、鋒陰は「おおおおっ!! ドイツ語も喋れるのかお前!?」と興奮!
そんな鋒陰にニヒが「あなたは?」と問うと――
「儂は尽の皇帝の師である――氏は『壱』、名が『魄』、字は『鋒陰』という者だ!よろしくな!」と鋒陰は自己紹介!
「私めは……『児非』と申します!
これは字で、氏と名はありません!以後よろしく……!」とニヒも自己紹介!
「試運転は既に済んでいる!児非は返しておくぞ!」と貴狼に告げる空兎。
ちなみにその試運転の期間は――およそ四年!長くない……?
次回予告:一斉改革!




