ACT1蠢動④
目の前に吐いた血が小さな水溜りを作っている。
視界はボヤけ、色彩が普段より薄い。頭の奥がジンジンと疼き、とても気持ち悪い。
「ガハッガハッガハッ…!」
まだ口の中に血が残っていて苦しい。吐き出すように咳をする。
「随分アッサリだなぁ…?形勢逆転ってか?」
誰かの声が遠くからする。酷く挑発的な口調だが、そんなことを気にするはど頭が回らない。
随分強く打ったな、結城健壱は口を拭いながら思った。
「まだまだ。こんなもんだと思われちゃ困るな」
「ふん。強がりだな。さっさと決着つけてやるよ」
田名部の言葉は的を射ていた。結城のダメージはかなり激しかった。
それでも、壁によりかかるようにゆっくりと立つ。
「来な。早いとこ終わらそうよ」
「OKェ!」
田名部は仕掛けた。
間合いを詰めて右ストレート。
躱すも頬を掠める。切れて血が出る。
しかし、左アッパーが腹部に直撃。
「ガハッ!」
前屈みになった所を右足で顔面に蹴り。
吹っ飛び、体が地面を擦れ、散らばった物にぶつかり、数メートルで止まった。
「フゥーッフゥーッ…。力が止まらねぇ。最高にハイだぜ!」
「怪物がッ!」
〈シャトン〉により、田名部は本来の数倍の力を手に入れた。
先程の攻撃も結城の動きを完璧に予知した攻撃だった。
ノシノシとゆっくりと結城へ歩を進める田名部。
結城の眼前で足を止め、胸倉を右腕で掴み、持ち上げる。
結城の両足は完全に体重が乗っておらず、田名部の〈シャトン〉よる隆々とした右腕に体重がかかっている。
「ウゥ…」
「どうしたよ?俺をもっと楽しませろ」
苦しむ声を上げながらも、サイコキネシスで傍にあった鉄パイプを浮かせる。そしてそれを田名部に向かって放つ。
バキィィィッ!と激しい音が鳴る。カランカランと鉄パイプは地面な落ちる。
「へっ…。注意力が散漫だよ…」
「効かねぇなぁ。わざわざ注意するに及ばねぇ」
「何!?」
鉄パイプがぶつかった所は赤くなっているものの、ほぼ無傷だった。
田名部が左腕で結城を殴る。
「へばってんなぁ。もう終わりか?」
「まだまだぁ…」
結城は左足の腹で田名部の腹部を押し蹴り、その勢いで田名部の右手を離れ、距離を取る。
「もう、対象の生き死になんて取るに足らないな。そんな事考えてたらこっちが死んじまうよ」
近くにあった尖った鋭利なものをサイコキネシスで田名部に向けて複数自分の前に配置する。
「行けッ!」
田名部に向かって飛んでいくも、あるものは掴まれ、あるものは払われ、ダメージを与えられなかった。
「ダメだろォ?俺は予知能力者なんだ。そんな見え見えの攻撃、全部読めちまう」
(考えろ。奴を一撃で倒せる手を…)
田名部の力は圧巻だった。小さい手を繰り返して斃す戦法を取っていたら、結城は斃す前に斃されてしまう。
(全ての力を込めれば、あるいは…)
結城は田名部と距離を取った。
田名部を中心に半円を描くように入り口の方、田名部の背後を取るように。
「後ろ取ったからってそのスピードじゃ意味ねーよ!」
田名部は反転し、結城の顔面を捉える。
ドガシャァッ!っと激しい音がして倉庫の大きな横引きのドアを突き破り、空の下へと飛ばされた。
「ゴフッ!」
「もう終わりだなぁ。いい加減飽きたわ。次で殺してやるよ」
笑いながら、壊れた入り口に片手をかける。
「どうかな…?それは君の事だったりして」
荒い、リズムの乱れた呼吸をしながらも、ほくそ笑む。
「ほざけッ!」
田名部が力を込める。
(全ての力を…)
「これで終わりだぁッ!」
結城は叫びながら右手を前に突き出す。
その手は田名部を捉えているわけではない。
「ウォォォォオオオオ!」
結城がこの戦いで初めて見せた猛々しさ。しかし田名部は自分の膨れあがった力に溺れ、その違和感に気付かなかった。
ペキ…ペキペキッ!バキッ!と田名部の背後、頭の上、左右から激しい音がする。
「なッ?この音は一体?」
田名部は気づいたときにはもう遅い。
「潰れろッ!」
田名部のいる倉庫全体が一気に潰れ、田名部に襲いかかる。
「ガァァッ!」
田名部は縮小された倉庫に押し潰される。
気を失い、〈シャトン〉の効果が切れたのか、元に戻った。
「ハァ…。なんとか勝てた…。もう御免だよ、こんな苦しいの」
上半身を起こし、一息を吐く。
「弥生ちゃん。聞こえる?もう動けないんだけど、誰か読んでくれない?」
空に向かって話し掛ける。
「はい。聞こえています。既に公安部の人達が2人、向かっているので安心してください」
「了解…」
「お疲れ様でした」
「うん」
そう言うと通信が切れた。
「疲れた…。他はどうなんだろ?こんなんばっかじゃ何人かやられてるかも…?」
そう言うと、 スウーッスウーッと寝息を立てた。
「コレ…ヤバイんじゃない?夏織ちゃん…?」
「無駄口叩くヒマあるなら、さっさと斃しなさいよ…」
東條匠と朝比奈夏織。学校跡。
二人の目の前には〈シャトン〉により、怪物と化した倉石と梅島。
「さっきまでの威勢のいい態度はどうなったんだ?」
「俺らが覚醒した途端にそれかよ。七芒星もタカが知れてんなぁ」
倉石と梅島は挑発的に声をかける。
「なあ知ってっか?UCってのは真っ当な世界で生きてねぇから、お前らみたいな能力テストを出来ねーんだわ」
「そんくらい知ってら…。それがどうしたってんだよ?」
東條が返答する。
「つまりはさぁ、UCの人間がお前らより強いって事って案外普通だったりすんじゃねーか?俺らは素では勝てねぇが、〈シャトン〉によってお前らを越しちまった事みてぇによォ?」
「まだ勝ってもねぇくせに…。よく言うぜ」
「それはこっちの台詞だな。今の状況を見てみろよ、分かるだろ?」
東條は歯軋りをした。
「分かんねぇなぁ!」
テレポートにより倉石の後ろへ飛ぶ。そこから回し蹴りをかます。
しかし、倉石の反応が速い、近くに転がっていた机の板をサイコキネシス動かしで防がせる。
「チッ!」
続いてその板をサイコキネシスで東條に叩きつける。
衝撃に耐え切れずズザッと後ろへ転がる。
朝比奈も梅島に向かってバイロキネシスで加速した拳を放つ。
梅島はそれを躱し、同様にバイロキネシスで加速した右足で腹部を蹴り上げる。
「ゴフゥッ!」
くの字に折れ曲がった体に左フックで右側に飛ばす。
壁に打ち付けられ、立ち上がれない。
梅島は朝比奈の顎を掴み、持ち上げて右足で蹴る。
「ガハァッ!」
地面に打ち付けられる。
「夏織ちゃん!」
東條がテレポートで梅島と朝比奈の間に入る。
「邪魔だよ、さっさと退け」
そう言う梅島に飛び込む。
両手で後頭部を掴み、膝蹴りを顔面にかます。
「ガァァッ!」
梅島が怯んだ一瞬を見逃さず、反対の足で横から蹴り、壁に打ち付ける。
その直後、視界から梅島が消えた途端、倉石が現れ、右ストレートを放たれ、東條は後退する。
「クソッ。梅島、何やられてんだよ!【スネークス】の名折れだな」
「ゆ…油断した。だが…もう通じねぇぞ」
鼻血を垂らし、それを手の甲で拭く。
「夏織ちゃん!立てるか?」
「当たり前よ…。こんなんでクタバルわけには…!」
朝比奈は立ち上がる。
「コレ、タイマンじゃあ結構ヤバい。マジでタッグ組むしかねぇみたいよ?」
東條は本心とは真逆の笑いを朝比奈に向けた。
「絶対御免だけど…。今回ばかりはしょうがないかもね」
「じゃあ行くよ夏織ちゃん!」
そう言うと朝比奈は両手に炎を纏う。
東條がテレポートで朝比奈を倉石の後ろに転送する。既に殴る構えをしている。
「なっ!?」
倉石が半身の状態で振り返り、動揺している。
その隙を逃さず、右ストレートを喰らわす。
しかしその衝撃に耐え、サイコキネシスで机を飛ばす。
そこに東條が現れ、机を弾く。朝比奈への直撃を防ぐ。そのまま朝比奈のワン・ツー。しかし、サイコキネシスで、腐った床の板を使いガード。それでも朝比奈は止まらず、懐に潜ってリバーブロー。
リバーブローは決まるも、その後ろに梅島、既に攻撃大勢。
「しまっ…!」
朝比奈は直撃を覚悟した。だが、その梅島を横から東條が飛び蹴り。
朝比奈は東條に見えないように微笑み、前を向き倉石に連打。
倉石は腕でガードし、朝比奈へカウンター。
そこでまたも東條。朝比奈を倉石の後ろへ転送する。朝比奈はそのまま踵落としで倉石を沈める。
転送している隙に梅島が東條を襲う。手の甲から出る炎でスピードを付加させた拳を東條に向ける。
東條はガードするも、その威力に弾き飛ばされる。
そこに朝比奈が現れ、東條が壁に激突しないように止める。
「ハアッハアッハアッ…。ヤバイ、スタミナが…」
「疲れるの早いわよ。斃す前に倒れないでよ?」
「分かってるよ。夏織ちゃんに一人で戦わせるわけにはいかないからね。男として女の子に1人で戦わせるなんて生涯の汚点だよ」
会話の間も、二人の目は倉石と梅島へ向けられている。
「倉石、そろそろクスリがキレそうだ。血が沸騰しそうになってる」
「俺もだ。早く、奴らを斃さねぇと…。〈シャトン〉は1回分しかねぇ」
2人はさっきまでの、好戦的な態度が落ち着いてきている。クスリの影響が薄まってきているからだ。
「おい、お前ら…」
東條が声をかける。
(もう体力的にキツイ。時間は此方もない)
「あ?」
「次で決めてやる。心して受けろ」
「予告か?ナメられたもんだな」
東條はフッと笑う。
「行くぞ!夏織ちゃん!」
そう言うと朝比奈を転送した。
「な?どこへ行った?」
倉石と梅島が周りを見渡すも見つからない。
「終わりだ…」
東條が二人に向かってそう呟いた。
朝比奈は2人の上にいた。落下しながら両手の炎を最大限に放出する。
「上だぁぁッ!」
梅島が叫ぶももう遅い。
右手で梅島を左手で倉石の頭を掴み、床に叩きつける。
バキィィィィッ!と激しい音が鳴る。
「ガァァッ!」
二人の断末魔とも取るべき声が響く。
朝比奈が立ち上がり、手を叩く。
二人は気絶して元の姿に戻っていた。
「ナイス!夏織ちゃん」
「このくらい…どうってことは…」
「連れないねぇ」
そう言い、東條は笑った。
格納庫。俺(不来方新平)と永田一史。
2人はノーガードで殴り合っていた。
俺が左フックをかませば、永田は右アッパーで返す。
永田の右ストレートを左手で掴み、俺の右を永田が左手で掴んだ。
2人は手のひらを掴み合い、近距離で睨み合った。
「良くなったじゃねーか。そうでないと」
「まだこんなもんじゃねーぞ!」
俺は腕の力を抜き、上体を反らした。永田の大勢が崩れる。そこに、左足の平で永田を突き飛ばす。
数メートル距離が開いた。
しかしすぐさまインファイト。乱れ打ち。止まらない。
鼻血が出て、口を切り、頬が腫れた。
それは永田も同じだった。
(コレで決めるッ!)
渾身の左アッパーを放つ。
しかし、クロスアームブロックで防ぐ。
永田がニヤリと笑う。その顔に俺が笑い返す。
瞬間、永田の頬に俺の右拳が。
ブロックを見越し、アッパーを放つ最中に既に右フックを放っていた。
「何ッ!?」
永田がバキッという音と弾き飛ばされた。
「頬骨が折れたな」
「たりめーだ。ドーグ着けてんだ。無傷で済むはずがねぇ」
右手に嵌めたメリケンサックを見る。
すると、永田がポケットから〈シャトン〉を取り出した。
「使うのか?」
「へっ。勝つ為なら何でもしてやる」
そう言い、永田は〈シャトン〉を吸った。
どうすれば人に見てもらえるのか 分からないですね
やはり異世界ものにすりゃよかったのかな
もういいや
飽きました
辞めます