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七芒星〈ヘプタグラム〉  作者: どこかの阿呆
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ACT1 蠢動②

「12:00。突入を開始します!」

 高らかに警視庁公安部チヨダの職員、斯波達吉は宣言した。

 ここは東京多摩西部。旧米軍基地の格納庫。最近勢力を伸ばしているギャング【スネークス】の検挙の為、俺達は来ている。

 この米軍基地跡地は治外法権だった名残で政府はあまり手を出したくなかった。そのため、米軍が引き払った直後にUCアンダーグラウンドチルドレンが一気に押し寄せ、あっと言う間にスラム街を形成した。

 その後、UCがまとまり巨大な3つのギャングチームを形成した。初期から今まで最も強い権力と地位を持つ【ジェッツ】。最近陰りが見えて来たものの未だに第二勢力の【タイガース】、そして最近消滅危機に陥っている【煉瓦】。

 今回、一斉検挙を行う【スネークス】は数年前に組織されたばかりの新興勢力だったが、レベルの高い能力者を集め、有無を言わさぬリーダーシップの元に、制圧を繰り返し【煉瓦】を追い抜き、第三勢力にまでのし上がった。

 その【スネークス】には薬物の所持・密売の容疑が掛かっている。

 【スネークス】は構成員およそ100人とあまり大きくない。そのため、公安部少数精鋭を送ることを決めた。七芒星と斯波達吉を含めた公安部チヨダの20人、計27人である。


 ガラガラガラッ!音を立てながら格納庫の大きな扉を開いた。

 この格納庫は米軍基地時代、飛行機を格納していた。縦50m×横100mの巨大な格納庫である。

 捜査員が流れ込む。

「なっ!?マッポか!チッ、みんなバラけろ。幹部は〈シャトン〉を各自持って行け!」

 リーダーと思われる男が怒号を飛ばす。


「よし、俺達も行くか」

 東條のおっさんが呟くとそうだな、と武者小路さんが返した。

「よっしゃあ行くぞォ!」

 おっさんの号令が飛ぶ。いつも奴はまとめる役に成りたがる。

 だが、そんなことはどうでも良かった。

「おうッ!」

 七芒星のみんなが大きな声で返した。

 俺らは格納庫に入ったが、チヨダ職員に捕らえられた者、応戦中の者以外は姿を消していた。

「奴らは基地跡地の中に絶対いる。くれぐれも外には逃がすな。俺達もバラけて応戦するぞ!宗太郎が透視で幹部を探せ。弥生ちゃんがテレパシーを使って幹部のいる場所を通達してくれ」

 おっさんの指示が響き渡る。

「了解」宗太郎は静かに、弥生は力強く返答した。



 その後、結城健壱は格納庫から100mほど離れた倉庫に来た。

 倉庫は光があまり入らず暗いが、目視出来る限り結構広いことが分かる。中には工具や、加工途中の鉄板などの作りかけのものが散らばっていた。

「あれっ!?誰もいないのか?」

 そういった直後、バン!と扉を蹴り飛ばして男が入って来た。

「なッ?何故此処に!?」

 その声には恐怖、驚愕、警戒の色が窺われた。

 結城はフッと笑い、言った。

「何故って、キミ甘いね、そんなんでよくUCの世界で生き残れたね」

「ああ?ナメるなよ。俺は【スネークス】の幹部、田名部吉弥だ!分かって言ってんのか?」

「おお!幹部か。初っ端に当たるなんて幸運だな」

 田名部の威嚇をヒラリとかわす。

「死ねッ!」

 田名部は右ストレートを放った。

 おっと!と言い、左手で受け止める。

「さっさと大人しく捕まってくれない?」

「捕まれって言われて大人しく捕まる馬鹿がどこにいるんだよッ!」

 左手を掴まれたまま左足でハイキック。

 結城は躱すため、手を放し後退する。

「しょうがないな。じゃあ逮捕する♡」


 右手を倉庫の中にある工具箱に手をかざした。すると、工具箱がふわり、と浮かび田名部に向かって飛んで来た。

「なッ!?」左腕で受けるが、衝撃が強い。

「僕の能力はサイコキネシスだ」

 彼は念能力者サイコキネシスト。28歳。

 両手を室内の様々なものに翳し、田名部に向かって飛ばす。

 しかし、かがんでそれを躱した。

「へっ。俺は未来予知の能力者だ。お前のそんな攻撃は当たらない」

「ふふっ、そうでなくちゃ面白くない♡どんどん行くよ!」

 手を休めず、ものを次々と田名部に飛ばす。

「甘いんだよ。全部読めてらッ!」

 結城の攻撃を次々と躱す。

「いつまで続くかな?」

 結城も手を緩めない。

「すぐ終わるさッ!」

 瞬間、田名部が懐に飛び込んできた。

 そして、右フックを結城の顔に向かい放った。

「甘いのは、果たしてどっちかな?」

 そう言い、結城は不敵に笑った。

 ドガッという音が田名部の頭に直接響き渡った。


(頭が…、後頭部が焼けるようだ…。つーか俺は地面に…伏せているのか。俺が…倒されたっていうのか。一体に何があったんだ…?)

「気が付いたか?」

 結城がしゃがんで覗き込むように語り掛けて来た。

「な…何があった…?」

「説明してやるよ」

 得意そうにそう述べた。

「未来予知は視界に入るものの未来の動きを読む。つまり目に入らなければ未来は読めないってことだ」

 結城が語りかけるように田名部に向かって言った。

「お前、つくづく…嫌な野郎だな。俺は…未来予知の能力者だぞ…」

 結城は大仰に反応して、

「釈迦に説法だったな。ゴメンゴメン。俺は君が懐に飛び込んできた時に君の上からペンチを落としたんだ。当然ただ落としただけでなく、サイコキネシスでスピードを付加させて」

「チッ。読まれてたってことか」

「そゆこと。あ、それと幹部って何人いるの?」

「よ…4人」

「そ。じゃあ大人しく捕まってね」

 そう言い、結城は縛れるものを探した。七芒星は警察組織ではない為、手錠を持たない。 


 田名部は血に伏せたまま立ち上がることができなかった。

(やべぇ、体が…せめて〈シャトン〉を…!)

 ぎりぎり、動かせる手でポケットの中を探る。

「このままで終われるかよ!」

 田名部はポケットからてのひらサイズのビニール袋を出した。袋の中身は白い粉であった。その粉を手の甲にかけ、片鼻を抑えて吸引した。

「おっ!これは使えそうだ」

 使用された形跡のないすずらんテープを手に取り、結城は振り返った。

 すると、田名部は荒い息を漏らしながら立ち上がった。

 目は血走り、瞳が縮小している。眉が釣り上がり、体中の血管が浮き出て、まるで獣の逆鱗に触れたような印象を受けた。

「フゥーッ!フゥーッ!」

「えっ!?なんだこれは?」

 田辺がゆるりと結城の元へ歩を進める。

「どうなっている?起き上がれるはずは…!?」

 田名部は振り払うように左手で結城をぐ。

 ドガァッ!と結城は壁に飛ばされた。

(なっ!?さっきまでとはまるで違うッ!なんてパワーだ)

 壁によりかかって座りながら、喀血かっけつした。

 その赤黒く鈍た血は目の前に飛び散っていた。



「行くぞ、敵はただ一人だ!」

 その声の向かいに立つのは武者小路清春。御年68。未来予知能力者プロフィット。白髪に和服を着た中肉中背。剣術道場、講集館の館長で小路流の唯一の伝承者。未来予知の能力を持つ。

「若いねぇ。その無鉄砲さ、おりゃあもう持ち合わせてねぇが…。この老害はそうそう楽には勝ちを譲らんぞ」

 口が緩む。この男は年に似合わず、戦闘たたかいが好きだ。

 場所は格納庫付近の大きな滑走路跡。そこから見える青空のように爽やかな笑顔を浮かべている。

「こいつッ!20人にひとりで挑む気か!?」

「おお、20人で出迎えてくれるのか。此方こちらとしても、ありがたいねぇ」

 まず、3人が武者小路に殴りかかる。

 武者小路は左手に持っている木刀を構える。上段の構え。最も攻撃的な構えである。

 戦闘にいる男の殴る腕を木刀で叩き落とす。

「ガアッ!」

 腕を抱え込み、苦しむ男の脇腹に蹴りを入れて倒れ伏させ。続いてくる者の右脇腹に打ち込み、その後ろの者に胸を突く。

 瞬時にして3人をたおす。

「うわぁっ!」

 ギャングの構成員達は恐怖による声にならない声を上げる。

 武者小路と数m離れているというのに、その恐怖は彼らに伝わり、凄まじい剣使いに恐れおののいた。


「どうした?腰が抜けたか?それでも一般市民が名前を聞くと恐れる天下のギャングのはしくれか?」

 木刀を肩にかけ、挑発じみた声をかける。

「ひっ、怯むな!たった1人だ。行くぞっ!」

 構成員の一人が声をかけるも、当の本人が怯んでいたらその声は誰の耳にも響くことはない。

「行くぞォ?」

 笑みを浮かべながら追撃できる脇構えをとる。

「うっ…!」

 構成員達は怯んで動けない。

 ダッ!っと武者小路は駆けた。

 その瞬間、やっと彼らは金縛りから解き放たれた。しかし、その足は武者小路に向かうことはなく逃げようと背を向ける。

「捨てたな…。背を向けちゃあどうしようもねぇ。つまらんなぁ若いのに」

 悲しい表情を浮かべ、構成員達の背中に刀を突きつけ、斃す。

「安心しろい。急所は避けた。数日経ちゃ痛みは消える」

 彼らは痛みでその言葉を聞いているどころではなかった。

「次は、幹部か首領と戦いたいねぇ」

 そうだ、と思いつき誰かに声をかけた。

 はたから見たら誰と話しているのか分からない。

「弥生くん、聞こえるかね?次は何処に行けばいい?」

 京極弥生。22歳。七芒星の精神感応者テレパシスト

 京極と柊宗太郎は戦闘向きでない為、戦闘には参加せず作戦本部で指示を出す。

 新平も戦闘向きの能力ではないが、本人の意志で参加している。

「はい、ちょっと待って下さい。宗太郎くん」

 そう言うと、声の主が変わった。

 柊宗太郎、弱冠12歳。名門の出で、透視能力者クルヴォイアント

「爺さん、次は格納庫。バカがこのチームのリーダーと戦ってる」

「新平くんか、なら急ぐ必要はないな。了解、ゆるりと行くよ」

 そう言い、別のギャング構成員を探しにその場を後にした。


 俺、不来方新平は格納庫の中にいた。

「おい、そこにいるんだろ?出てこいよ」

 格納庫には多くの物がある。中には格納庫に似つかわしくない、大きな木箱が幾つも並んでいる。

 その後ろからヒョイ、と男が出てきた。

「ビンゴだな、お前がリーダーだろ?」

「よく分かったな、不来方新平。その能力か?」

 木箱の上に立ち、コートのポケットに手を突っ込みながら、頬に傷を持つ、俺と同じくらいの年齢の青年が言った。

「俺の名前を知っているのか、こんな辺境でも知れ渡ってるんだな、光栄だよ。その通りだ。バラけろってのはブラフだ。俺らの目を格納庫に向けさせねぇ為のな」

「ほう、そこまで分かってるのか。じゃあ俺は何故ここを隠したかったのか分かるか?」

「白い粉、恐らく麻薬と〈シャトン〉と言う名が浮かんで来た。推測でしかねぇがその木箱の中身が〈シャトン〉て名前の麻薬なんじゃねぇか?」

「ご明察!さすが七芒星とでも言っておこうか。大正解だよ」

 男は目一杯腕を前に伸ばし、拍手をした。

 そんな男に対し、俺は言った。

「余裕だな。そういや聞いてなかったな。お前の名は?」

「何だよ、知らずに捕まえに来たのか、じゃあしっかり頭の中に刻み込んでおけ。俺は永田一史。【スネークス】のリーダーだ」

「丁寧にどうも。だけど覚えることはなさそうだ。だってお前はここで俺にコテンパンにされるんだからな」

「言ってろッ!」

 永田は木箱から飛び降り、戦闘が開始した。

基本的に主人公がいるときは一人称。

いないときは三人称で物語を進めます。

出来る限り、分かるようにしていますが登場人物の呼び方が多少変わります。

予め御了承ください。

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