第5話 夢のマイホームなのです
「はい、一ヶ月60000Eでございます」
ん? 聞き間違えですかな?
「もう一度言ってほしいのだが」
そう言うと目の前のヤツは清々しい笑顔で言う。
「ええ、一ヶ月60000Eでございます」
「もう一度……」
「ええ、はい。一ヶ月、ろ・く・ま・ん・え・る・でございます」
……さて、いきなりだが申し訳ない。現在港の管理棟に訪れているのだがひとつ、叫ばせてもらおう。
「はははぁぁぁぁーー!!!???」
俺が叫んでいる間も目の前のヤツはニコニコと顔を変えないままだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さてさて、落ち着きましたか? シノさん」
そう言って話しかけてくるのはこの港の管理人、マーズさんだ。
「んん、ああ。すまない、取り乱した」
そうは自分で言ったものの内心そんな落ち着きを保てない。
何故かって? 値段の高さが原因である。
なんでこんな高いんだよ? 一ヶ月6万Eだと!? あぁ、何がって? アレだ、港に船を泊まらすお金だ。
それが一ヶ月6万だぞ? 少ないと思ったヤツ。それは間違いだ。円で考えたら、現実世界で考えたらそんなもんかも知れない。もしかしたら、安いかもしれない。
しかしだ。一ヶ月で考えたらそりゃいいかもしれない。けとな、今日3万稼げたからといっても今日に払えないのではあの船の安全は確保されない。だからと言っても今日稼ごうとしたら時間が足りない。
お忘れかも知れないがこれはVRMMOというゲームだ。もちろん連続接続時間、安全上のプレイ時間の制限があってそれは8時間と決まっており、次やるとしても間に一時間挟む必要がある。
そして皆さんお忘れてそうなことの2個目、睡眠時間が必要です。当たり前だって言うの。8時間ギリギリまでやったらその次は普通に寝る時間だ。何故勝手? 飯や風呂、そして明日は月曜日なんです!
はぁ、マジでどうしよ。まさか俺の少しズレタ面白ゲーム生活計画がこんなしょっぱなから終わるなんてことは……いいや、そんなんダメだ。
「さて、シノさん。どうするのですか? 契約するのならこの契約書にサインを」
「……代金は最初に全て払うのか?」
「はい、当たり前ですよ。別にあなたが資産家だったり安定した収入がある人だったら別ですけれど。そうじゃない、不安定な職業である冒険者なのですから」
くそったれ! ファンタジーな世界でファンタジーな存在である冒険者の世知辛い現実! ……一括前払いだよなやっぱり。そこは世界観の中世ファンタジーを守ってんだよな! 徐々に払えるローンのある現実とは違うさ!
あぁ、どうしよ。こうしてる間にもタイムリミットは刻々と迫ってる。いや、そうは言ってもまだ三時間ぐらいあるが。
「いや、契約はいい。自分でどうにかするよ。はぁ。マーズさん、なんかいい場所知ってるか」
「あらあら、そうですか……残念ですね。場所ですか?? 自分で土地や家を買ってそこに船を置けばいいんじゃないですか? 買ったら後は税だけですよ? もしくは借り倉庫とかはどうでしょう? まぁ、どちらも運ぶことを考え、海のすぐ近くということになりますが。あ、家なら船屋とかですかね?」
ふむ、なるほど。案外しっかりやさしく説明してくれるではないか。んー、船屋か……それだ! 家という拠点にもなって船の拠点にもなる。
「よし、マーズさん決めた。船屋用意してよ、だいたい何エル必要かな?」
「はい。船屋ですか? そうですね、お安い古いヤツだと……んー月々20000エルですかね。個人で後は管理するので港と違い警備費用とかありませんし、港で船を泊めるより安いですよ。場所はここの湾の、軍港のちょうど反対ですね。だからお店に行くときとか少し歩きますね。それでも歩いて行ける距離ですが」
港の停泊と値段がこんなに変わるのか。
「ちなみに買うならやはり古い船屋でもそれなりには高くなりますよ。今説明してるヤツだとだいたい30万エルですね。他の家に比べると安いですけどね。一月の契約と比べると……高いですが長く使うなら断然お得ですよ」
ふむ、買うのもありだな。十万台で家を帰るとは現実じゃほぼないな。
「じゃあ、手持ち的にそんなないので最初は月々で……後から貯まったら買います」
「じゃ、実際に物件へ行きますかね。では、こちらへ」
そう言われて外へ出ると馬車が用意されてました。わーい。
というか俺、実際に見ないで決めてた……バカじゃん。
馬車の結構キツイ振動で不愉快な移動をすること約5分……体感的にはもっと長く感じたんだがな……船屋が多く立ち並んでる所の内の一件へ到着。漁師さんとかが住んでるのだとか。
「シノさん、こちらの物件です」
馬車から降り、マーズさんから言われ、見た船屋はまぁボロいというか古い、木で出来た家だった。掃除して、少し修理すれば普通によさそうだ。扉は左端にあった。
「これか」
それから中を見て回る。
一階は玄関を開けると通路になっており、奧には海が見えた。見てみると船を停めるとこのようだ。 一応、海側にも扉というかシャッターがあるようだ。当たり前か、船屋だし。いや、当たり前なのか? それはともかく。
次、通路の途中にもあったがこちら側にも扉がある。中の部屋は土を固めたようなコンクリートのように硬い床で通路側の扉にも繋がっていた。どちらも鍵付き。玄関側に段戸があり、窓から明かりが入ってくる。海側にも窓があり、船の置く空間も様子が見れる。
また、室内の海側方面に向く階段を上ると木の床の広い部屋だった。木のテーブルと椅子があった。外に面してる壁には窓、海側はベランダようだ。リビング決定。
また一階へ繋がるロープをクルクル回して引っ張るタイプで、飲食店などで料理を運ぶ時に使う位のサイズのエレベーターもあった。一体何に使うのだか。
反対側にある扉を開けるとまた部屋。一階の部屋の上だな。木のベッドがある。マットレスや布団などを揃えれば使えそうだ。勿論壁には窓。寝室だな。
この家は素晴らしいではないか。安いのにな、ただ古いだけでとは。窓もこの世界はガラスだ。ご都合主義ですかね。
「どうですか?シノさん。いい家だと思いますが……古い所を抜かせば」
今、階段を昇ってきたマーズさんが聞いてくる。マーズさんは最後に苦笑いをした。確かに少し古いが先程言った通り修理すれば大丈夫だ。穴が開いてる訳ではないため危ない所を取り替える程度である。
あ、すいません。勝ってにズカズカ進んで。
「あー、古い所は大丈夫ですよ。いい家だと思います、ここ。えっと一月2万ですよね?」
そう言いながらお金、2万エルを渡す。残り12000エルと。悲しいな。
マーズさんはそれを受け取りながら言う。
「まぁ、はい。そうです。──重要な所は整備、修理してあるので今からでも大丈夫ですよ。あ、ギルドカードありますよね? 少しお貸しください。契約をそこに記録するので」
「へぇー、そうなんですか。はい、これです」
ギルドでそんなこと言われたような言われてないような。
そんなことを思いながらギルドカードを渡す。するとマーズさんはカバンからカードケースのような機械、魔導具らしきものを取り出す。
そこにギルドカードを挿す。するとその魔導具は淡く赤色に輝く。そして、数秒間光り続けた後光りが止む。
マーズさんはカードケースについた画面を見ながら操作する。するとまた光る。それで作業が完了したのかギルドカードを抜くと渡してくる。
「はい、これで契約内容が記録されました。また、月々代金をギルドカードに入れておくかギルドに預けとくと自動的に引き落とされますよ。ご注意下さい。設定で変えられますがわざわざこちらへ来ることになりますよ。では、これで」
「はい、ありがとうございました。」
そう言って玄関まで見送るのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「はぁ、さてさて。やっとだ・・・」
あー、なんかマーズさん相手って疲れたな。さて、船をお迎えに行きますかね。はっ、遠い。
歩くこと十分ぐらい。一時的に船を置かせて貰ってた所に着く。
そして、船に乗る。船屋まで海ルートで帰還。かっ飛ばしたからすぐについた。 いや、途中反対側から来た船から悲鳴が聞こえた気がするけど気にしない。水飛沫が掛かったなんてことはあり得ない。
ハッハッハッハッ ふっふっ何てことない。
……少し気が狂った。
さてさて、当分の目標は船屋の修理、改造かな。後、30万エル。うわっ、たいへんだ。修理とかは自分で木を伐採してきたほうがよさそう。そうしたら材料費は無料だもの。道具は一階の部屋に有ったから、OK。
では、やりますか!
始めに船に乗り、海側から木の生えてる地帯を探すこと十分。発見しました。海と急斜面の山との間に、狭い空間に沢山生えてるようだ。何本か持っていってもいいだろう。
「よっしゃー! 運がいいね!」
船を近づけてまだまだ波の来る浜辺に降りる。そこから歩いて行き何本か木を伐採していく。
方法は勿論
「風よ、斬撃を放て『風刃』」
魔法なのです。
風の下級アーツを放つととんだ先の木がスパッと斬れてゆく。どの木も縦横様々に切って行き船で運べるサイズへ切ってゆき船へ運んで行く。満杯になったら船屋へ戻り、木を下ろす。そして、木を伐採しに行く。
これを繰り返しある程度木が貯まったらやめる。次に木を木材に板材に加工していく。魔法で切って後は鉋や鑢で仕上げていく。完成。
次にその板材を使い、スキル『大工』を駆使し、船屋を修復していく。『大工』のスキルでは関連する知識が分かり、アーツで大工のする技が出来るようになっていく。
よし、いい感じに出来た。次のもやっていく……こんな感じかな。次へ……と。
こんな感じで船屋の修復は終わった。
全部で3時間ぐらいかな、早い方かも知れない。結局、斧、鋸等は使わなかったな。
にしても『大工』スキルのアーツ、『釘打ち』はヤバかった。トンカチでテレビ等で見る釘を打つ機械? なみの釘打ちが出来たのである。
ちなみにトンカチではなく、完全魔法のも有ったがそれはもっとヤバかった。音がバンッ‼ である。釘打ちの音ではない。試しに海へやったら釘が銃弾の如く発射された。……人が居なくて良かった。魔法の下級アーツより強いのではないかと思う。
てか、石を代わりに打ち出せば暗殺に使えそうだよね。この世界の大工は強そうだな。ひー、怖い。
こんな感じでログイン1日目は終わったのである。




