第2話 素晴らしい船だ!
「わぉ、こりゃスゲぇなぁ」
神殿を出たら中世ヨーロッパの世界がお出迎えのようです。
周りを見渡せば、ちょっとした広場になってる。というか、円形の道でその中央に大きな噴水があり、道との間であるその周りは石畳で木の椅子とかある、そして外側に先程も言った通り道でこれも石畳。結構整ってる。
そして四方向に伸びる大通り。左右はズラリと商店が並んでる。
あ、いろんなプレイヤーらしき人がなんか買ってる。武器やサポートアイテム等……当たり前か。
「……売り切れないよね?」
少し心配になり呟く。俺も武器やアイテム欲しいし、必要である。
神殿は大通りと大通りの間にある一角に建てられてる。
これからお世話になります! 神殿、よろしく!
……死んだらここで蘇生されるらしいから。ここの町を拠点にしてる限り。
いやー、どうしようかね……? いろいろとやらなければいけない事がありすぎて困ってしまう。余りこの手のゲームはやったことないからなぁ……。今回はたまたま面白そうだったからだし。
「おい」
それにしても人が多い。ゲームなのに行動するのも大変である。VRだから仕方がないか。
「ちょっと、そこの兄ちゃん聞こえてる?」
もしかして声かけられた?
そう思い、後ろに振り向く。
「そこの兄ちゃん、邪魔だよ? 早く動きなって? ここにいてもなんも無いしね」
するとそこには茶髪の明るそうな性格のあんちゃんが居ました。
あー、神殿の前でずっと突っ立てたもんな。確かにここはプレイヤーの出口だから邪魔だね。
にしても……見た目同年代ぐらい? でもこれゲームなんだよな。いくらでも姿は変えられます。まぁ、ある程度だけどね。
あ、中々答えないから怪訝そうな顔された。話してる時、考え事は良くないですね。
「ああ、すまん。迷惑掛けたな」
そう答えて、立ち去ろうとするが手で肩を捕まれた。
いきなり、怖いんですけど。 どこに初対面で肩を掴む人がいますかね? 警察による犯罪者の扱い位ですよ! ……多分。
私は無実です!
「いや、やっぱちょっと待って。こっち寄って」
「え? 何?」
そう言って引っ張られて、人の邪魔にならないところによる。そしていい笑顔をその顔に浮かべながら口を開いてきた。
「黒髪の兄ちゃん、フレンドになろうよ。な?」
「え……? ごめんなさい、ちょっと理解出来ないです」
そう言って断り、この場を去ろうと歩き始めるが……もう一回ガシッと肩を掴まれた。なんでですかぁ! 意味分からないでしょ! 普通いきなりフレンドになりますかっていうの!
「え……」
まぁ、一旦落ち着こう……。このまま答えても相手に悪印象を与えるだけである。いや、そうすればもしかしてこの場から解放される? ……いや、このネット社会悪い噂を立てたらダメである。このVR世界の中で生きづらくなるだけである。
だから、クールになれ俺。
「何故見知らぬ人とフレンドにならなければならないんですか。フレンドはゲーム内と言ってもある程度は時間を掛けると思うのですけど……?」
そう聞くとこの茶髪の明るそうなヤツは凄い早口で説明し始めた。これが噂のマシンガントーク?
「いやいや、それはこの世界で初めてコミュニケーションとった人だから? かな。いいじゃん、リア友だって最初は見知らぬ人だよ? なんならパーティでも組もうよ。ていうかコンビって言うのかな。ね? よくない? 俺は『アルフ』よろしく!」
そう言うと同時にフレンド申請が届いた。理由の所々が疑問形なのがとても、……そうとっても気になりますがねぇ。
『プレイヤー名『アルフ』よりフレンド申請が届きました、承諾しますか?YES/NO』
ふむ、どうするべきか。顎に手を当てて考える。この動きはついついやりたくなってしまい、今では癖で御座います。
……まぁ、いいか。難しく考えなくても。害が有るわけでもないし。俺はYESを選択する。
「そうだな、まぁいいか。じゃ、俺は『シノ』よろしく!」
例え意味が分からなくとも元気よく挨拶をするのが相手に好印象を与えるポイントだと思います。
そうすると、狙った通りと言うべきか、アルフはキラキラした目でこちらを見てくる。どう考えてもフレンドを承認したことだろうけどね。果たしてどこにフレンドを承認しただけでこんなにも喜ぶ人がいるだろうか。……やめろ、整った顔で見るな。ぐはっ。
「よっしゃ! 最初のフレンドはシノお前だ、よろしく!!」
こうして俺は第一フレンドを獲得した。なんだろう……誰もこんな風にフレンドを獲得するとは予想出来なかったと思う。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて、船を探すか!!」
気合いを入れ直して言う。いきなりハイテンション野郎に捕まっちゃったからなぁ。
そんなハイテンション野郎ことアルフとはパーティーになろうと誘われたが、とりあえず今はいいと断って別れた。また今度ってね。
そう言って別れた時のアルフの顔はなかなか心にグッとくるものだった。
さて、当初の目的の前提である船探し。第一目標は探した船で海に出て、モンスターまたは魚を狩ることである。
いやー、どこに置いてあるのかね。なんかのゲームみたいに浜辺にポンッと置いてないのかねぇ。
町の中なら誰でも見れる地図を見ながら海のある方の大通りを歩いてる。この地図機能は一歩でも町の外から出るとスキルを獲得しないと見れないのである。まぁ、それもマッピング可能なだけだけどね。自分で作っていくタイプで行ったこと無いところは分からないっていう。
それはともかくとして、露店や商店を見るが小舟すら無さそうだ。やっぱり造船所かね。または工房? とにかく職人街か港付近か。
それにしてもこの大通りには相変わらずずっと両脇の所々に露店やら商店やらがならんでいる。
……お、あの焼き鳥旨そう。いや我慢。ここで金を使ったらダメだ。何の肉なんどろうなぁ。あぁ、油が垂れてる。
……最初から持ってる所持金は全員50000E。もしかしたらこれでいきなり小舟が買えるかもしれないから少しも使わない。にしてもなんでエルなんだろうな。
さっ、早く行こっと!
……その前にステータス確認っと。えっと椅子は……あった。座って落ち着いて見ようじゃないか。アルフのせいですっかり忘れててた。
決してファンタジーな世界で心ハイテンションになってわけで忘れてたわけじゃない。ないったらない。あったとしてもアルフのが感染したかである。
ステータスオープンっと。
LV 1 『シノ』
職業 『現在検討中』
スキル 『剣術LV.1』『弓術LV.1』『水魔術LV.1』『風魔術LV.1』『土魔術LV.1』『闇魔術LV.1』『付与魔術LV.1』『鍛冶LV.1』『錬金LV.1』『木工LV.1』
控え なし
装備 シリーズ名『旅人の装い』アクセサリー
頭
首
胴 旅人の服 旅人のポーチ
腕 〃
手
腰 旅人のズボン
脚 〃
足 旅人の靴 旅人の靴下
攻撃 10()
防御 10()
魔攻 10()
魔防 10()
知力 10()
素早さ 10()
運 10()
称号 なし
所持金 50000E
ふむ、なんだこりゃ。職業は……現在検討中? こんなバラけたスキルをとるなってか?
器用貧乏には気をつけるがな。早く何かしらの特定の行動起こせばそちらの方面の職業得られるかね?
にしても装備欄が増えてるがポーチ、お前は何故ある! 腰に最初から紐で巻かれてついてたけど中身は何もないぞ。
道で同じように期待して中身見た人が何とも言えない顔をしてたぞ。せめてポーションぐらい入れとこうよ。金しか入ってないなんて。いや、充分なのか?
よっし、確認終わり。そこの店に入ろう。もう海は見えてきている。というか港だから期待できる。小舟さーん、出ておいで。
そんなこと思いながら入り口へ。
えっと、ケルム釣具店。へー……。
「あのすいませーん」
「へい、らっしゃい!! 何の用だい?」
入って声を掛ければすぐ返事が帰ってきた。パッと見て店内に人は居ないが……。声の聞こえた方へ顔を向ければスキンヘッドにタオルのハチマキ、白いタンクトップと短パン、しっかりと焼けた性格も熱そうな人が奥から出てきた。
ここ、本当にファンタジーなゲームですか。なんか世界観間違えてませんかねぇ。
とても濃いキャラの店主だ。まぁそこはいい、目的は船だ! 釣具店なんだから小舟ぐらいあるだろうと予想する。
「ああ、そうですね……船です。船を置いていますか?」
少しその店主のキャラに圧倒され声が小さくなってしまったが仕方がない。会話なんて伝わればいいって誰かが言ってたはず。
それはそれでキョトンとこちらを見てくる店の主人。
なんでそんな意外そうな顔をするんですかね? 麦茶かと思って飲んでみたら烏龍茶だった的な。そんなに船を求めるのが不思議ですかね?
「……船か? 釣り船なら時間は指定させて貰うが出せるぞ?」
あー、そうじゃないんですよね。気合を入れ直してっと。少し強めの口調で。
「いや、そうじゃなくて……個人の船を売ってないかっていう。釣具店なんだから船の一艘や二艘あると思ったんだけど」
そのように言うと「あー」と言いながら目を空に泳がし何かに思い到ったのか此方を見て大きく首肯く。
「ああ、あるぞ。そうだな大きな船はないが釣りに使えそうなものならあるぞ。本格的な船なら他を当たってくれ」
「……おお、あるか! よかった。その釣り出来る位で十分だ」
「そうか……にしても、その格好……」
果たしてどうかしたのだろうか。そのように言い淀むと何かを思い出したかのような感じで話だす。
「あれか、お前さんは噂の旅人達の一人か。数日前、教会から創世神より神託が告げられたと発表されたんだがな。死んでも生き返る別世界の住人が来ると。その時、何とも言えない平凡な格好だとも言ってたしな」
「へー……そんなことがねぇ」
しっかりとコンピューター側……この世界の住人にもそういう設定で伝えられているのね。平凡な格好って好きでしている訳ではないんだけどね。
「あぁ、なのでそれらを俺らは時の旅人と呼んでいる。その中で始めて来た客だからお代はまけてやろう。記念だ……それにその紹介する船は訳ありだしな」
「……少し聞きたいことができたがよかった、安くしてくれるとは……店主、優しいな!」
安くしてくれるのはいいけどね?
なんなんですかね、訳ありって。まぁとにかく仕方がないか、船が得られたらそれで充分さ。でもやっぱり訳ありとはなんぞ。
「で、その船はどこだ? この店には見当たらない気がするが、店主?」
「あぁ、今から連れていくがその前に店主店主やめろ。俺にはガサラっていう名前がある」
ガサラはそうなことを言いながら船のあるところまで連れて行ってくれた。
さっきの設定といい、この会話といいとてもただのゲームの世界でNPCには見えないな。AIスゲぇ。一人の人間って思った方が良いな。人によっては怖い考え方もするヤツもありそうだ。
海を、漁船を見ながら造船所や工房、倉庫が並ぶ道を歩いて行くと、木の桟橋についた。よかったコンクリートじゃない。しっかり世界観を守ってるな。ちなみに大体店から100mぐらい? 遠くに大きな船が見える……船の上にあるあれはまさか大砲か?
「おい、これだ」
ガサラのおっちゃんがこっちに振り向きながら声をかけて来た。そして、手を向けた先には全長8mぐらいの舟があった。幅は2mもないかな。
漁船みたいに中央より前側が小さな部屋みたいになっていてそこが運転室のようだ。前と左右は窓みたいに枠があり、そこから見て運転するようだ。後ろは壁も何もない。窓は木の板をスライドさせて開けれるようだ。
船の前の方はクルーザーような感じで部屋と流線型に新幹線見たいに繋がってる。勿論それは例えでそこにも立てて、柵もある。で後ろは漁船のようなかんじで広々としてる。運転室の上は一応登れるが狭いな。とりあえずクルーザーと漁船を合わせた感じでイメージはよい。
さてさて、運転ということはエンジンなのである。MPを消費して動く魔導エンジンというやつらしい。スクリューが二つ着いていて、左右の力加減で左右にもしっかり動ける。手漕ぎじゃないのね。でも運転室の後ろのケースにオールも何個かある。非常用かな? あらしっかりしてる。
結論、絶対買えない。だから残念だ。ガサラのおっちゃんに向けた声はとても悔しい声になった。
「ガサラのおっちゃん、悪いが買えそうにない……。こんな高価なもの紹介してくれたのに悪いな」
「いや、大丈夫だ! えっと……「シノだ」シノ、50000エルは持ってるよな? 教会からそれも判断するときの特徴だと言われた。使ってたらアレだが……これは中古だし、造られたの事態結構前だから旧型ということで大丈夫。そして、そこからまた安くしてやるから。……えっと40000エルで大丈夫だ! 安心しろ、手入れはしっかりしてる」
な、なんだと! てか、教会、いや運営か? 所持金をバラすって。でもまぁうれしいから気にしない。
「ま、マジか! 買った! ありがとう、ガサラのおっちゃん!」
そう言うと照れながらもちょっと悪そうな顔をしてガサラのおっちゃんは言う。似合ってますよ、その表情。
「これからもウチの店を使ってくれよ? なっ、シノの兄ちゃん」
なるほどそういうことでもあったか。さすが商売人、まぁ悪くない。
「おう、早速だが余った金で他の道具を買わせて貰おう」
「ほう? 何をお探しで?」
そう言って俺らは互いに目線を合わせニヤリと笑い合うと大声で笑い続けた。




