第13話 森の主
「そう言えばさ、当初の目的? のことなんだけどさ……あのゴブリンの集落どうする? ゴブリンコマンダーが攻めようともしてたからいずれほっといても滅ぶ気がするけど。潰す? 出直す? 」
アキはそう言うとんーと唸りながら目を閉じて考え始めてしまった。そう言えばそんなことあったな……あのコマンダーのせいで全く忘れてた。
「えー? 何それ、そんなの有ったの? どこ、どこよ? 教えてシノくん、アキー。」
ハルさんはとにかくはしゃぐ、ハイテンション過ぎる。助けてくれた時の凛々しさはどこへ行ったのだろうか。でも、そんな元気さが欲しいな~と爺臭いことを考えながらその問に答える。
「あー、それはそこの崖の方を見れば分かります。」
そう言ってなになにと言いながら着いてくるハルさんをゴブリンの集落が見やすい位置に案内する。さて、どうするか。
「えー!何あれすごーい、ゴブリン達の集落なんて初めて見るよ!」
ハルさんは口に手をあてながら集落を目を左右に激しく行き来させながら見てる。一体何を見てるのだろうか。にしてもひかかったことがあったので聞いてみる。
「あのー、ベータ版ではゴブリン等のモンスターの集落は無かったんですか?」
「うん、私は見なかったなー。探せば在ったのかも知れないね。あ、でもそう言えば攻略組・・・の内の1つPG『紅蓮の騎士団』というのがオークの集落を滅ぼしたというのを聞いたことあったわ。当時は結構話題になったのにどうして忘れてたんだろう。」
そう言うとハルさん……なんか話してるとハルで言い気がしてきたけどハルはとほほ・・・と呟きながら落ち込み始めてしまった。多分忘れてた事にだろう。
「ハルー、ベータ版と言っても結構前なんだから覚えてなくても大丈夫だよ。自分達のことでもないのだから、さ?」
アキが近寄って来てハルの背をポンポンとしながら慰めている。ハルは少し嬉しそうなオーラを出している。
なんかつまらん。
……てかそろそろ次の行動起こそうぜ? アキ、ハル。なので大砲を取りだしてっと。
「ドッカーンと一発発射‼」
どおーんと発砲音と着弾音どちらも森一帯を揺らしてるかのように音が響く。
「「えっ!?」」
アキとハルが同時に仲良く声を出しながら驚くが気にしないで 事を進める。
「それもう一発‼ まだまだ‼」
素早く装填し、次々に砲弾を撃ち込む。
ドオンッドオンッと立て続けに重厚感のある音が鳴り響く。とある生き物の悲鳴と共に。
「し、シノくん? 一体何をしてるのかな?」
「な、なんか悲鳴が聞こえるわよ?」
アキとハルが盛大に顔を引き攣らせながら聞いてくる。
何をしてるかって? それはね。
「経験値稼ぎだよ、アキ、ハル。」
ニヤリしたと笑みを浮かべながら言う。上手くいけば相当な経験値が手にはいるはずである。そのことを考えるとニヤニヤが止まらずそんな表情になってるのを自分でも分かってしまう。
「ま、まさか」
その様子を見たアキが呟き、とある仮説が頭の中でうかんだのかハルが慌てた表情、動作で崖の方を向く。
「!?……嘘でしょ。」
「やっぱり……」
ハルが声にならない叫びをあげ膝を付き、アキがその様子を確認すると予想でもしていたのか呆れた様子でため息を漏らす。
そう、そこには……ゴブリンの集落が在った所は小さなクレーターが数個出来ており、家屋は燃え上がり、空襲にでもあったかのような有り様になっているのだ。
住民のゴブリン達は逃げ回ったり茫然としてたり消火しようとしてたり様々な行動をしていて見ていてなかなか面白い。中にはもう御臨終してるゴブリン達もいる。
「シノくん、さすがにもう大丈夫だと思うよ? だからその大砲を仕舞ってね。それにゴブリン達がこちらに気付いて攻撃してくる可能性もあるし、勿論他のモンスターも来ちゃうかも知れなから。そんな状況になったら今のままじゃ戦えないから。さぁ、ハルも立ち上がって? 早く逃げよう。」
アキは早口で俺にそう言うとハルを急かして立たせた。
「アキ、そんなことって有るの? ゴブリン達なんて混乱してて絶対来ないと思うし、この音で森のモンスターも近寄って来ないと思うよ?」
俺がそう言うとアキは何言ってんだと言いたげな顔をし、矢継ぎ早に話し始めた。
「そりゃ、弱いのは来ないと思うよ? けどね、フィールドボス。森の主を呼び寄せちゃったと思うのだよね。あんな化け物に勝てる分けがないよ。基本向こうからは仕掛けて来ない平和なやつなんだけど、こんな風に縄張りを荒らしちゃうとね。音も響いたし。森には無い音だからすぐ異常事態だって判断されちゃうし、方向も分かるからね。」
アキは恨めしそうな目で俺と集落跡地を交互に見る。ハルはアキの横で必死に目で訴えかけてる。早く逃げよう、と。そして、アキはまだ話す。
「僕達はベータ版の時その森の主に調子に乗って攻撃を加えてしまったんだ。その時に徹底的にやられてしまって僕達皆トラウマだよ。すぐに殺されず、遊ばれたからね。しかも、逃げても物音1つたてずに近寄って来て、気付けば拘束されてたよ。そして、また逃がされる。また拘束。その繰り返しで捕まる毎回に攻撃される。」
「だからシノくん、逃げよう。もしかしたら貴方の後ろに今いきなり現れても可笑しくないんだから。」
アキに続きハルも必死に話し始める。
「わかったわかった、元々すぐ止めるつもりだったしそこまで言われたら絶対に逃げるよ。」
そう言うと二人はホッとした様子で頷き合う。そして、俺にも向いて言う。
「さぁ、早く走るよ? 森を抜けるんだ、そしたら一息つけるよ。例えあいつが来てても森の外までは追って来ないんだから。」
そして、俺達は走り出した。そんなやつに会いたく無いですもん。念のため逃げますわ。
あれ、フラグ建てて無いよね?
そんなことを思った時に事が起きるのがこの世のお約束。
トントンッと誰かに肩を叩かれた。前には二人が走ってる。
「まさか──」
「そう、そのまさか、だよ? 森荒らしぃ」
振り向いた先には────誰もいない。なにっ!
「アハハハ」
「上か!」
そう言って上に向くが木々の隙間からオレンジがかかってる空が見えるだけ。もうそんな時間か……ってそんなことよりも!
「忘れないでほしいね~。」
耳元で静かに、けど耳に残るように囁かれる。
「前か!」
顔を戻せばニターっと笑ってる、ただそれだけしか分からない人の形をした黒のような深緑のような色の何かが居た。そいつは此方を見て、それはとてもとても弾けるように
「アハッ!」
と笑った。
「「シノ(くん)‼」」
アキとハルは走るのを止め、此方にそれぞれ剣、杖を構えた。
俺も腰に差していた剣をスゥーと抜き、構えるのだった。
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