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7-3 秘教集団の博覧会、ここに

 食事を終えてファミレスを出ると、早速物陰から数名の人間が飛び出してきた。

 別段驚くことでもない。

 昼メシを喰っている時点で、窓の外にいる何人かの姿を確認済みだった。

 あちらさんもまともに隠れるつもりはないようだし。


「ご飯の邪魔をしないでくれたのはありがたいけど、できればそこもどいてくんない? 通行の邪魔なのよ」

「…………」


 俺は背後の逃げ道を確かめる一方、今までの追手たちとは明らかに違う一同の様子を、少し不思議に思った。

 何よりもまずその服装だ。

 道の幅いっぱいに広がったその団体は、衣装がてんでバラバラ。

 これまでの追手どもは、必ず同系統の服を羽織っていたというのに。

 しかも、その顔の大半は西洋人の風貌だ。

 この連中は、多国籍集団だった。

 通行人がジロジロと店先を見ている。

 当たり前だ。

 そもそも一同の持ち物が普通じゃない。

 一抱えほどもある幅広の大剣。

 波線のように刃が曲がりくねった剣。

 (かぎ)状に大きく彎曲(わんきょく)した刀等々。

 その所持品は雑多を極めた。

 共通点といえば、どれも殺傷能力を持つ武器であることぐらいか。

 銃刀法上等といった風情。

 日本刀と一体化してしまったルキの心配が滑稽に思えてしまうほどの。

 西洋人数人が一斉に捲し立てた。

 当然、俺には何を言っているのか判らない。

 サナギとルキも要領を得ない表情。

 俺が言うのもなんだが、さほど英語の成績は宜しくないらしい。


「アルティア、なんて言ってるの?」

「ああ、(なま)りはあるが結局は英語だからな。リリーサー……解放者、つまり逐電士のことだろうな……それを口汚く(ののし)っている。訳すのも憚られるようなことを」

「外国人にも嫌われるなんて、あんた相当ひどいことしたのね」

「俺じゃねーって言ってんだろ」

『グローバルな嫌われっぷりが(こう)じて、一躍有名人の仲間入りか。そういうサクセスストーリーも悪くねーかもな』


 アホか。

 勝手にピカレスクロマン気取るんじゃねえ。


「あと、盗んだ宝物を返せと口々に言い立てているが」


 またそれかよ。

 なんとかの一つ覚えじゃあるまいし。


「ふむふむ、奪われた宝物は光の槍ブリューナクに光の剣クラウ・ソラス、稲妻の剣カラド・ボルグ、クー・フーリンの槍ゲイ・ボルグ……どうやらドルイドギルドの回し者らしい。で、こちらはカタリ派の名も無き秘宝。モンセギュール・コミューンの一派か……え? オルフェウスの竪琴とザグレウスの心臓? これは驚いた。オルフェウス教の流れを汲む秘教集団、エレウシス・ミステリアまで来ているのか」

「どういうこと。かなりの大物が来てるってわけ?」

「それでは過小評価というもの。ドルイドギルドにモンセギュール・コミューンにエレウシス・ミステリア、いずれも世界に冠絶(かんぜつ)する裏社会の超有名秘密結社」

『超有名な秘密結社ってなんか矛盾してね?』


 そんな心の声のツッコミが聞こえようはずもなく、更にアルティアは、特徴的な肩当てを着けた三人の白人女性が何やら訴えるように力説しているのを聞いて、その細い柳眉(りゅうび)を吊り上げた。


「なんだって? トールの鉄槌を返せと? では君らが噂に聞くヴァルキュリュール黒翼部隊か! 〈北欧の凍てついた死神〉の異名を取る超法規的国防軍、遂に来たか……ということは、その手にあるのはスルトの炎剣レーヴァテインと、オーディンの冷たき槍グングニル! 後で成分を調べさせてほしいな……んんん?」


 アルティアのハイテンションは止まらない。

 続いて東洋人らしき大男が振り翳した半月型の大刀を見て、


「おお青龍偃月刀せいりゅうえんげつとう!」と声を弾ませた。「それにその顎髭、武神関羽(かんう)もかくやだ。これは萌えるぞ」


 ったく何を興奮してやがる。

 今はそんな場合じゃないだろうが。

 その大男が非難するように何事か喋ったが、生憎それも俺には理解の及ばない言語だ。


『お前日本語以外に何が判るんだよ。つーか日本語も覚束(おぼつか)ないだろ』


 あーうるさい。


「中国語みたい」サナギはいつでも攻撃に移れるよう身構えたまま、「アルティア、判る?」

「こういうときのために翻訳機があるのだ。山田、バッグ」


 俺は命令に従い、アルティアのバッグから瞬間自動翻訳機を取り出し、電源を入れた。

 その瞬間、偃月刀を肩に乗せた中国人が、いきなり奇声を発して斬り込んできた。

 俺が用意した機械を、武器か何かだと勘違いしたようだ。

 しかもそれを皮切りに、残りの追手たちまで我先にと突進してきた。

 早口にがなり立てる中国人から、バッグを抱えて遁走(とんそう)する。


「〈魔悪酢李〉、防御だ!」


 珍しく俺のフォローに来たアルティアが、二本のマークⅢをエックスの字に交差させて偃月刀を跳ね返した。

 思わぬ迎撃に、大男はその刀を一旦後ろに引き、力量を見定めるように片手で顎髭をしごいた。

 と、手許の翻訳機がピピピッと電子音を奏で、突然男の低い声で、


「ワチキは、徐福會に、所属する者です。あなたは、逃がす人です。ワチキは、あなたを、攻撃します。世界の秩序を、守るために」


 と、訳文を告げた。


「徐福會!」アルティアは半ば飛び上がりそうになって、「ヒヒヒッ、徐福とヴァルキュリュール、東西の超法規神秘主義組織の雄が、よもやこの極東の地にて一堂に会したか! 今日はついてるぞ。マーヴェラス!」

『こいつひょっとして、お前を助けに来たってより、この顎髭が何言ってるのか知りたいだけなんじゃ』


 皆まで言うな。

 薄々俺も感じていたことだ。


「いやはや壮観壮観。まるで秘教集団の博覧会状態。この分だと、黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)薔薇十字団(ローゼンクロイツァー)も遠からず姿を見せることになろう。ヒヒ、非常に楽しみ」

「な、何が楽しみなんだよっ」


 あと引き笑いもやめてほしい。

 気色悪い。


「世界中から続々と猛者どもが集まってきている。これも全て君のおかげだ。山田、ありがとう。礼を言う」


 そんなことで感謝されてもちっとも嬉しくない。

 既に攻撃態勢に入っている偃月刀の乱舞に肝を冷やしながら、俺は定めた逃走経路に乗るべく足を進めた。


「山田、どこへ行く」

「さっきの公園だよ。あそこならサナギも気兼ねなく戦える」

「あっちは調査済み。逆方向に行ってくれ」

「何ィ?」

「頼む」

「ったく……」


 済ました顔で無茶言ってくれるよ。

 バラエティに富んだ追手の大半が、俺に強烈な敵意を向けていることに恐怖を感じつつ、先の逃走経路を渋々白紙に戻す。

 懐の翻訳機が、なおも音声を発し続けている。


「ワチキは、あなたを殺します。殺します。殺します」


 言っていることは不気味だが、声色に緊迫感がなさすぎる。


「殺さねば、霊波が、増え続けます。このまま、霊波が、増え続けると、恐ろしいことが、起こります。それは、恐らく、世界を、震わせるであろうところの……」


 こっちもうるさい。

 俺は翻訳機のスイッチを切って、経路を練り直した。

 こうなったら車道に出るか。

 車の流れさえ読めれば、向かいの歩道へ抜け出すのも容易い。

 どうせ俺狙いなんだ。

 俺が逃げ切れれば、サナギたちも後からついてくるだろう。


「おい、こっちだ!」


 最上の逃げ道を探り当て、車の途切れるタイミングを計っていると、それを阻む新たな追手が現れた。


「うわ危ねっ!」


 一台のライトバンが、轢きそうな勢いで俺の真横に急停車。

 開いたドアから羽織袴の中年男性が数人、列をなして躍り出た。


『なんだなんだこいつらはよ』

「この卑怯者がっ!」先頭にいる男の胴間声が響く。「里見衆の村雨のみならず、(わし)らの式神(しきがみ)まで一匹残らず盗みおってからに」

「大日本陰陽師連合幹部会の名にかけて、成敗いたしてくれる」

「この腐れ逐電士風情めが!」


 式神?

 大日本陰陽師連合幹部会?

 一体どこから突っ込めばいいんだ?


『おいおい、式神だとよ。こいつら頭になんか湧いてんじゃねーか? 剣や楯ならともかく、式神なんて完全に空想の産物だろ』


 俺もそう思っていたし、今でもそう思う。

 だが自称陰陽師の幹部会たちは、聞く耳を貸してくれないようで、()り足のような独特の足運びで静かに近づいてくる。


「えっ?」


 次の瞬間、俺は六つの方向をすっかり取り囲まれていた。

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