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5-4 祠は縁を結ぶためにある?

「あのぉ、これはなんですか?」


 紺画が尋ねる。

 手には電子手帳に似た薄い物体が、周辺の輝きを受け黒光りしている。


「それは音声入力エンジン〈サイモン〉を独自改良したもの。モーメンタリー・トランスレーション・マシーン」

「瞬間……翻訳?」


 一瞬大きくのけぞり、それから紺画はぐわっと叫んだ。


「瞬間自動翻訳機を! 個人で開発したんですか!? すっげー! じゃあこれ集音マイクだ!」

「おい紺画、テンション上げすぎだって」


 あまりのはしゃぎぶりに、なんと青汰が注意をした。

 日頃の役割分担が逆転している。

 見たことないぞこんな光景。


「わ、悪い悪い」

「邪魔すんじゃねーよ、ったく。ルキちゃんお代わりする?」

「い、いえ、もういいです……」

「あ、そうだ。おい、アルちゃん」と、青汰が机を叩いて真正面に座るアルティアを呼んだ。「あのさ、こないだのあれ、今日は持ってきてないよな」

「あれとはなんのことだ。それとワチキの呼び方、それで決定なのか?」

「とぼけてんじゃねーよ。あれだって、ほら、保健室で、俺と追一を吹っ飛ばした」

「ああ、あれか。むろん寮に置いてきてある」

「あー良かった」青汰は安堵の溜め息を吐いた。「またあんなの使われたら、命が何個あっても足りねーよ」

「心配無用。更に強力なやつを持ってきた。当社比出力三割増の上、当然ながら小型軽量化済み。デザインも改良してスタイリッシュな仕上がりに」

「ざけんなおい! 絶対使うなよ」

「たった数日でそこまでできるんですか? やっぱすごいなぁアルティアさんは。もう人間業じゃないですよ。それ後で試し撃ちさせて下さい」

「了解した」


 二つ返事で頷くアルティア。


「何勝手に進めてんだ」青汰が突き刺すように言った。「俺のいないとこでやれよ」

「そんなことより、この地図は一体なんなんだ?」


 画面を覗き込んで俺が質問すると、アルティアはサングラスを額の上に持ち上げ、地図上のとある箇所を指で押した。

 圧を受けた液晶が僅かに(たわ)んで干渉縞(モアレ)を起こす。


「ここに行きたい」

「何かあるんですか? そこに」己が眼鏡をクイッと持ち上げつつ紺画が言う。「レジャー施設はなさそうですけどねぇ」

「犬塚があるはず」


 犬塚。

 ルキが謎の霊刀を手に入れた、例の祠のことか。


「犬塚……ああ、はいはい」


 得心したふうに紺画は顔を上げ、縁結びの祠ですね、と付け加えた。


「『「縁結び?」』」


 俺とサナギの声が重なる。


『だからさ、俺の声も被ってたっつーの』


 いちいち突っかかるなよ。


「そこで願かけすると、好きな人と一緒になれるという言い伝えがあるんだよ。まあ僕に言わせれば、七不思議と同じ類いの迷信に過ぎないけどね。にしても、そんな所に行きたいなんて、アルティアさん意外とロマンチストなんですねぇ」

「行こう、そこ行こう! 縁結び!」


 興奮気味に(まく)し立て、青汰は椅子から腰を浮かした。


「もう出るのか」

「当たり前だろ、善は急げだ。さっ、早く縁結びに行こうぜ! 縁結び!」

「何よそれ……」


 サナギが呆れて諸手を挙げたが、アイスの容器を潰さんばかりにテーブルを叩きながら縁結びを連呼する全自動マシーンと化した青汰には、なんの抑止力にもならないようだった。

 その隣席で、なんとも困った様子で(かしこ)まる少女の俯いた顔がやけに紅潮しているようにも見えたが、それは単なる気のせいなのかもしれなかった。

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