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4-4 ここは神聖なる出逢いの場

 アルティアの白い肌が伝染したかの如く、見る間に紺画の血の気が引いていく。

 驚愕で細い顎がガクガク震え出す。


「君、あ、アア、アルティア・ハイデルマンじゃないかい? コンピューター神秘学の、第一人者の」

「ああ」

「十代にして霊子(エーテロン)研究を五十年進めたと言われる、あの絶対矛盾的霊子同一化現象の発見者の」

「うむ」

「元マナス・グループ所属、幻に終わったボーディサットヴァ・プロジェクトにも関わっていたという、あのハイデルマン博士の一人娘の?」

「そう」

「うわああああ! 本物だ! ななななんで本物のアルティア・ハイデルマンがこんな所に!?」


 突如として錯乱状態に陥る紺画。


「昨日から2年F組に転入になった」

「うおおおおおじゃあアルティアと同じ高校に通うことになったのか僕は! なんて幸せ者なんだぁー!」

『そんなに有名なのか、このあぶねー西洋娘』


 俺には知る由もないが、コンピューター方面に目がない紺画のことだ、その筋では相当著名なんだろう。

 驚き方が半端じゃない。

 沈着冷静を信条とする紺画がこんなに狼狽(ろうばい)するなんて。

 いや初めて見た。


「光栄だなぁ! 僕、吽野紺画っていいます! 握手して下さい! あとサインも。ああそうだ連絡先交換しなきゃ! メールよりSNSがいいかな」


 すっかり舞い上がっている紺画に、何やら心得顔で歩み寄ってきた青汰がポンと肩を叩く。


「吽野くん、連絡先の交換もいいけど、ここはこうしないか?」

「ん、なんだい改まって」

「そのコの転入祝いってことで、今度の週末みんなで遊びに行くのさ」

「町に下りてか。そいつぁ名案だ! 青汰、今日のお前は実に冴えてるな」


 早速紺画が乗っかってきた。


「もちろん君も来てくれるよね、ね、ね?」


 そして日本刀のことなど気にも留めていない様子で、顔面蒼白のルキにフランクに話しかける青汰。

 表彰ものの図太さだ。


「ダメよルキちゃん、そんな誘いに乗っちゃ」

「狩魔、お前は口出しするな」

「そうだそうだ、お前に来いって言ってるわけじゃないんだぞ。引っ込め」

「あんたたちねぇ」

「面白そうではないか」そう口を挟んだのはアルティアだ。「観光がてら、ここの地理を押さえておくのも悪くあるまい。暁月も来い。折角の休日に、寮に閉じ籠もっていては気が塞がるというもの」

「ル、ルキもですか?」

「さっすが! 紺画が一目置くだけあって話が判る」

「ちょっとアルティア」


 苦言を呈しそうなサナギからすっと離れ、アルティアは俺を指差した。


「それと山田。君も来い」

「俺? 俺は関係ないだろ」

「大ありだ。君とてある意味霊刀に()()()()人間なのだから。村雨に何かがあったとき、遠くにいられては都合が悪い」


 俺も研究対象なのか。


『俺はその対象にすら入っちゃいないがな』


 何が不服なんだ。

 そんなにモルモットにされたいのか?


「ねえアルティアってば。勝手に話進めないで」

「君は来ないのか、狩魔」


 口調は疑問形だが、当然来るよね、とでも続けそうな言い方だ。


「ルキちゃんはどうするの?」


 サナギに問われ、ルキはチラリと俺を見た。

 そしてすぐに視線を彷徨(さまよ)わせたが、やがて、


「……みなさんが、行くのでしたら」

「よっしゃあ!」


 青汰が声を張り上げる。


「しょうがないわね。じゃああたしも」

「これで決まりだ」


 締め括るように転入生が言った。

 その一部始終を見ていた寺島先生は、苦笑しながら、


「あなたたち、神聖な保健室を出逢いの場にしないでくれる?」

「センセーも一緒にどう?」

生憎(あいにく)だけれど、今週は忙しいのよ」

「デートですか?」

「大きなお世話よ」


 がさつな笑いが響く。

 ついさっきの爆発騒ぎは、煙と共に青汰たちの心からも消え去ってしまったのだろう。


「けどさ、ルキを町に連れ出していいのか?」


 アルティアに尋ねた。

 あの刀は狙われているかもしれないのだ。

 町中にいたら一層人目につく。

 となれば、当然襲撃される危険性も高まるはず。


「何か起きるかもしれないぞ」

「望むところ」アルティアは無造作に髪先をいじりながら、「君はどうも消極的すぎる。思想が逃げ腰なのだ。結果に(とら)われないで、もっとアグレッシヴに攻めるべき。事件なくして進展なし。むしろ何かが起こってくれたほうが好都合ではないか」


 おおーっ、と男二人から歓声が上がった。

 こいつら何考えてんだ?

 授業開始五分前のチャイムが鳴り、保健室の集いはここまでとなった。

 この面子で麓町に下りるのか。

 何事も起こらなければいいが。

 俺は正直心配だった。

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