朝の森で
目が覚めると、目の前のたき火は
熾火が残っているだけになっていた。
かなり眠ったらしい。
目覚めは爽快で、昨日の気だるさはすっかり抜けていた。
さて今日は、ここを離れて人里でも探しに行くか・・・
とまで考えて昨日の事が夢じゃないよなと左手にはめた
火龍の指輪を見つめる。
出かける前に、朝食をとりたいし
消えかけた焚き火に枯れ草と薪を乗せて
息を吹きかけようとして、これはしなくてもいいんだなと
気づいて、焚き火に積んだ薪に意識を向けてファイヤーと
心の中で呟いてみる。
すると、たちまち薪から炎が上がった・・・便利だなこれは
さて、少しばかり食材集めてこようと昨夜
出しっぱなしで眠ってしまった宝石箱を拾い上げ
荷袋に放り込むと、昨日むかごを見つけた場所で
食材の採取を始めた。
むかごは、干し肉の入っている袋の中に放り込んでいき
十分採取したところで、枯れかけのつるをたどって
つるの根元を掘り始めた。
すると、自然薯の様な芋が姿を現した。
結構・・・長い・・・長い・・・なげー・・・すっげー!なげぇ
少し斜面になっているところだったから掘れたけど
軽く2mオーバーの芋が取れた。
なんとなく、折るのがもったいないような気もしたが
持ち運びが出来ないので、さっさと適当な長さで
5本に芋を折って抱えて戻った。
今日の朝食は、削り干し肉がけの自然薯サラダに、むかごの
串焼きだ。なんというオーガニックなヘルシーメニュー!
・・・もう少し油分がほしい。
まぁ、とりあえず腹は膨れたので革袋がもう一つあったら
良かったのにと思いながら土を落とした芋を荷袋に
突っ込んだ、結構重いが食料のある安心感には変えられない。
さて、今日はここを離れて人里を探しにゆくわけだが
移動するならそれなりに準備をせねば・・・
予定してた食料確保はOKと、あとはナイフは
荷袋の中より身につけておきたいからと腰につけた。
森の中進むなら、すぐ使えるようにしておいた方がいい
場面は結構ある気がする。
なんといっても、切れ味でいえば剣より
このナイフの方が数段上なんだからね・・・。
あとは、ここのマーキングがちゃんと出来てるのか確認しないとな
「星天測位網!」
大地が輝き、空が一瞬暗くなる・・・夢の中そのままの現象が起きて
目の前に地図が浮かび上がった。
よーっし!でた!
正直ほっとした、出なかったらどうしようと実は結構怖かったのだ
散々ここが夢の中じゃなく、自分は魔法は使えると確認したくせに
今までの常識が、どこかでそれを疑わせていた。
目の前に浮かんだ地図には、夢の中で記録した石碑のマーキングは
やはりされてはいなかった。
やはり、この世界でも夢の中は夢の中で、現実は現実という
確固とした境界線は、しっかり存在するようだ。
よし、目の前の石碑を地図に記録!と考えると自分の居場所を示す▼の前に
スッと浮かんできた少し小さな▼が石碑の場所に浮き上がり刻印された。
石碑を示す▼を見つめると俺の名づけた新しい石碑の名前「召喚の石碑」
という文字が浮かび、石碑の映像も地図上に浮かびあがってきた。
まさに、夢の中のイメージそのままだった。
じゃ次は、周囲の確認だ・・・もっと遠くまで表示しろ!そう思うことで
表示される広域マップをしっかりと確認してゆく、どうも表示された地形は
夢の中で見た物に酷似しているようだ、この部分は現実の地形から
読み取った物が表示されてたのだろうか?でも、夢の中だと魔力消費しない
って話だったよな・・・うーん???・・・まぁいいか。
夢の中で見た石碑の向いている方向へ進んだ先にある、川らしきものも
地図上で確認できた。しかし、表示範囲を広げていっても、それだけでは
人の住んでいる場所を特定する事は出来ない。
人の居る場所を目指して移動しようと言うのに、その方向が全く分からない
それもここは、日本ではないどころか・・・地球の上ですらない。
さすがに、右も左もわからない異世界・・・ではないな、方向はわかるから
でも、分ってるのは現状地形と方角だけだ、それだけの情報しか持たぬまま
行き当たりばったりに探索をすすめたら、人と会うことも出来ないまま
サクッと野垂れ死にそうだ・・・それはさすがに勘弁してほしい。
人のいる場所・・・わかるようにならないだろうか?
地図に町の名前とかも表示されればいいのにと思うが・・・
自分がアクセスするのが、集合的無意識なのだとしたら可能なのではと
考えたところで、その考えを打ち消す。
自分の今いる町の名前は大概の人は知っているけど、地形図を見ただけで
ここはなんという町だとか、わかる人間なんて居るのだろうか?
・・・いないな
それなら、もっと直接的に・・・何かの魔法のようなもので
生体反応を見つけて地図上に光点で示すとか、出来ないものかね?
あっ!・・・こういうのを夢幻の工房つかってやればいいのか?
集合無意識からの情報で地形図上に、町の名前とかを表示出来るかどうかだって
簡単に試せるんじゃないか?そう考えると、夢幻の工房ってやっぱり素敵スキルだよな。
よーし、やってみるかぁ!
と石碑に手をついて、支えにしながら立ち上がった。
・・・そして、ある事に気がついた。
もしかして・・・鑑定の達眼で、この石碑の文字読めるんじゃないか?
やってみよう!「鑑定の達眼!」
あ・・・読めるっていうか、日本語が浮いてくるぞ!!
あ・・・でも、文法が・・・これって・・・なんか
どこかで見たことがある。
あぁ!そうだ出来の悪い翻訳ソフトを使った文章みたいだ・・・
『最上の邪な手段 力を求める者
異世界に住む人、召喚、吸収、可能な魔法
成功する私の邪な手段、欲しがる人
異世界に住む人の勇者、才能、力、才覚得る
その体、増えた力、溢れる才能、器に満たす。
死んだ主の、失敗する邪まな手段・・・』
だめだ、なんとなくわかるけど
サラさんが言ってた事に近い事が、書いてありそうだとは思うのだけど
なんというのかフワフワと書いてある内容を断定できないもどかしさが
気持ち悪い。
以前、翻訳ソフトを使って
『オペレーティングシステムに
新しいウインドウズが加わる歴史的な日』
というような英文を訳させた時
『作動する仕組みに
新品の窓が参加する歴史上重要な日』
と訳されていたのと同レベルの可能性が否めない。
俺は石碑を前にして、ため息をつきつつ
夢幻の工房でしなければいけない事が、一つ増えたなと
心の中で呟きながらも、ワクワクしてくるのだった。
だってしょうがないだろ?魔法作れちゃうんだぜ!
なんかワクワクしてくるっていうものさ。
そして俺は、目の前の石碑を見つめながら・・・
すぐ解読してやるからなと笑みを浮かべつつ
「夢幻の工房!」とスキルを発動した。
さぁ、記念すべき
はじめての自発的工房入りだ!!
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