森の中
初投稿です。
お手柔らかにお願いします。
俺は、なんでこんなところにいるんだ?と目の前の変な石碑を見ながら考えこむ。
会社帰りに、電車の扉にもたれながら毎日残業のブラック企業に勤めることで発現した、立ったままで眠れるという俺の生きるためのスキルを発揮し睡眠を補給する為に、うとうとと舟を漕いでいたのまでは覚えている。
まぁ、俺の睡眠不足はブラック企業勤めだけが原因じゃなく、アルティマオンラインというVRMMOに嵌まってることが最大の原因なんだが・・・その辺は棚に上げにさせてもらいたい。
そんなこんなで電車の中で、うとうとしてはカクン、うとうとしてはカクンと何度か大きく船を漕ぐたびに目が覚めては、その度に自分が今どこの駅なのか確認してたのだが・・・
・・・数回目にカクンと大きく船を漕いで目を覚ましたら、辺りは木漏れ日さす森の中で電車の扉にもたれかかっていたはずが、得体のしれない石碑の前で仰向けになっていた
というわけだ。
さぁ、少し冷静に分析してみよう。
なんでこうなった????
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「わかるか~~~!!!」
俺は、辺りも気にせず思い切り頭抱えて絶叫していた。
目の前に、もしちゃぶ台があったらひっくり返してた自信さえある。まぁ、見渡した限り遠慮しなきゃならなそうな人の気配なんかは幸か不幸か全く感じられないわけだから、遠慮したくたって遠慮する相手すらいないんだけどね。
おかげで遠慮なく悶絶出来たよ。・・・全くと言っていいほど、ありがたくないけど。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
絶叫&悶絶で乱れた呼吸を整えながら、明日は久々の休みで最近なかなか会えなかった彼女予定のエリーさんとゲーム内デートだったというのに・・・
・・・一応、言っておくがエリーさんはNPCじゃないぞ、社会人2年目の都内に住むOLさんだからな?まぁ言ってた事が本当ならだけどな、リアルであった事はないからね・・・
それにしてもブラック企業勤めの俺の唯一の癒しの時間を前に、なんでこんなとこに居るの俺?
目が覚めた最初は、てっきり電車の中で明晰夢をみたのかと思ったんだが・・・経験上、明晰夢の時は目を覚まそうと思えば、すぐにでも目を覚ませられるのに、降りる駅を乗り過ごしてはたまらん!と目を覚まそうとしても一向に目が覚めなかった。
・・・明晰夢っていうのは、夢の中でこれは夢だって気づきながら目を覚まさないでいる夢のことだ、自覚夢とも言うらしい。
俺が明晰夢をみるようになったのは、小学校3年にして発症させた中2病が原因だ。
あの時俺は、自分の中に眠る真の力を見つけようと(なにも言うな恥ずかしいから)予知夢のひとつでも見れないかな?と夢日記なる物をつけはじめたのだが・・・そうしたら時々、この明晰夢っていうのをみられるようになったわけだ。
後でわかったことだが、この一見不思議体験な明晰夢を見れるようになるための訓練の一つに、実は俺がやってた夢日記をつけるというのがあったんだ。
それを知ったのは、つい最近の事だ。アレは確か社会人になって1月もたたない春の夜、終電直前に仕事を終えて駅まで走ったが、結局終電に乗り遅れネットカフェで一夜を明かした時だった。不思議大好きだった古き良き日を懐かしんで見つけた特命リサーチ20XXの動画をYestubeで見ていたら、明晰夢について特集してる回があったんだよな。
それまでは、明晰夢なんて言葉も知らず。俺は、中二病時代の名残を引きずって明晰夢を見る事が出来る自分を、夢界支配者なんて呼んでいたんだが・・・これは死蔵させてもらう秘密その7だ!!
誰にも内緒だ!!
こんな話を聞けばやさしい方々は、さぞ事実を知った時にはショックだったろうと思うかも知れないが、さすがに社会人になっていると中2病は大人しくなっていくもので・・・
「なんだ俺、知らないうちにあの夢みるための訓練してたのかよ、道理で・・・」と納得できるくらいには"俺は選ばれた唯一無二の存在だ!"なんて恥ずかしい妄想は俺の中から既に失われていた・・・
というのも明晰夢自体、ただ夢の中で・・・これは夢だって気づいても起きずに、自分の見てる夢をある程度自在に操ることが出来るってだけの事。特に現実世界に、なにか影響及ぼしてどうこう出来るとか・・・そういうことは、まったく何にもない。
確かに、俺の周りには他に明晰夢を見る人はいなかったから「俺だけの能力!」とか初めて明晰夢を見たときには大興奮したもんだが・・・実際それで現実の世界で何か出来るって物でもないわけだから「能力」・・・っていうのもなぁ。
・・・と、だんだん思うようになっていったわけだ。
まぁ夢の中では、あまり無茶なことでなければ色々できるので楽しくはあったけどな・・・。
ちなみに、あまり無茶な事をやろうとすると意識が覚醒しすぎて、目が覚めてしまうこともある。でも、必ずしも出来ないわけではなく、出来てしまう場合もあるので必ずとは言えない。
ちなみに、この明晰夢っていうのは、起きてから夢を思い出すのと違ってリアルタイムに脳の描き出す夢の中の世界をみているせいなのか、妙にリアルというか鮮明で現実と見紛うばかりなんだ。
ある意味人間が外界を感じるのは感覚器官を通して感じた刺激を、脳が映像にしてるわけだから・・・リアルタイムに見る夢は、その脳が描き出してる映像と感覚そのだしね。そりゃ、現実世界となんら変わらないクオリティになるわけだ。
というよりも視力なんて物に頼らない分、下手したら現実よりもより鮮明だったりさえする。
というわけで、いまのこの現実を俺は、明晰夢だろうと思ったわけなんだが・・・いつもと違って簡単に目は覚めないし、いつもの明晰夢の中だったら出来る事をいろいろと試そうとしてみたんだが・・・出来ない。
いつもなら明晰夢の中なら簡単に出来る事が、全くもって出来なかった。
俺は、明晰夢の中だと無理設定で目を覚まさない限りは、ある意味万能の存在だ。飛ぼうと思えば空中に浮かびあがれるし・・・なにもない空間に扉を作り出すこともできる。空飛ぶ魚だって作り出せたりする。
でも、どれもできなかった。
しまいには寝るという行為が出来てしまった上に・・・目が覚めた時も、しっかりさっきより少し日の傾いた日差しの射す石碑前だった事で、さすがに俺は今の現実を明晰夢だと思いこもうとすることをあきらめた。
そして、論理的に考えようと・・・石碑を見ながら、会社を出てからのことを回想し「わかるか~~~!!!」と絶叫するに至ったわけだが・・・駄目だ、やっぱり、さっぱり、まったく意味がわからない。今の自分の状況がまったく理解できない。
つーか、マジここどこだよ?夢の中じゃないとしたら・・・俺はどこにいるわけ?・・・いかん落ちつけ!先ずは現状を把握しよう!と身の回りの物を見てゆくことにした。
すると、夢の中だと思ってさっきまではまったく気にしてなかったが着ているものまでが奇妙だ。変な服というか、皮の胸当て?のような防具らしきものを手触りのよくないシャツの上に着込んでいる。
他に荷物は?と周囲を見回そうとして体をひねると、何やら背中に違和感がある・・・何かを背負ってるらしい・・・俺は、ベルトが1本のリュックというか荷物袋のようなものを、たすき掛けのように背負っていた。
当然こんなものに俺は覚えはない。
そして極め付けには、腰に剣のようなものをぶら下げていた。
「剣・・・だよなコレ?」と呟きながら柄を握って鞘から引き抜くと・・・それはやっぱり、まごうことなき両刃の剣だった。
おかげで、ますます訳がわからなくなってきた。なんだこれ!ありえねっていうかヤバいだろ銃刀法とかあるわけで、もしかして俺・・・何かの犯罪に巻き込まれて犯人の代わりに凶器を持たされてスケープゴートに?・・・いやいや、いまはとにかく現状把握だ。
取り合えず、いま出来る事はすべてやってからだ!と機械的に現状把握に努め、まずは自分の持ち物を、すべて調べて見てみる事にした。
その結果がこれだ・・
・変な質感のシャツ(着用)
・皮の胸当て(着用)
・皮らしい素材のズボン(着用)
・変な質感のパンツ(着用)
・両刃のショートソード(着用)
・手袋(右着用)
・手甲(左着用)
・手袋(左手用:荷袋内)
・皮のショートブーツ(着用)
・荷袋(着用)
・布袋(中身:銀貨7枚 銀貨小8枚 銅貨5枚 銅貨小3枚)
・ナイフ(なんか良い物っぽい)
・革袋に入った干し肉らしきもの(しょっぱかった)
・岩塩らしい塊(しょっぱかった)
・替えのシャツとパンツ(しょっぱ・・・そうだった)
・水の入った竹筒のようなもの
そして・・・
・別人の体(・・・着用?)
どうも俺の体は26年間慣れ親しんだ物とは別物になってるみたいだ。こぶしにあるはずの若き日のやんちゃの名残だった傷跡がないし・・・背も今までの体より低い気がする。
と、こんなところだ。さて、誰か教えてくれコレってどういうことだ?
現状把握したら余計訳がわからなくなってくるとかふざけてる。
これなら犯罪に巻き込まれて、犯人にスケープゴートに偽装されて、山の中に放置され追われる身になってる!とかの方がまだわかりやすい。
きっと今の状況に、なにか関わりがあるだろう目の前の石碑には、古代文字っぽいが見慣れない文字がのたくっている・・・不思議大好きだった俺は、イースター島のロンゴロンゴ文字や、オベリスクの文字、マヤ文字、日本の神代文字などなど、目を輝かせて本を読み漁っていた事もある・・・その俺が今までの人生で一度も目にしたことのない文字だ。
記号のような文字が単語だろう部分で、空白をあけて並んでる。この文章の形からすると・・・アルファベットのような音素文字なのだろうか?でも、どう見ても今まで見たことのない文字だ。
みたことのあるような記号も、あるにはあるもののどう考えても既存の言語の文字を組み合わせてるというレベルではない、アを時計回りに90度回転させたような文字や4の斜め部分を底にしたような文字に大小二つの円を交差させたような文字・・・あ、タ○リさんの大好きなマークもある!
・・・とある程度見知った文字や数字に似通った物もあるものの・・・・全く読めない。
しかし使われている文字は、石碑を埋め尽くす大量の文字が一定数の文字の組み合わせで出来ているらしいのを見ると、やはりアルファベットか日本語のひらがなのような文字体系のように見える。
そうすると、この文字の中で高頻度に現れる文字は・・・これだから・・・うーんと・・・
よし!諦めた!
未知の言語なんかが読めるわけない言語学者でもあるまいし、頭使うだけ無駄っていうもんだ。
しかし、どうしたものだろう。人を探して移動したい気はするけど辺りは右も左もわからない森の中だ・・・一度この場を離れたらまたここに戻ってこれる自信は欠片もない。
この場所に戻ってくる手段さえあれば、周囲を偵察に行けるのだけど・・・今の俺にとって自分の現状の手がかりになるのは、この石碑だけだとおもうと、ここを離れて戻ってこれなくなるのはとても得策とは思えない。しかし、かといってこの何もない場所に居続けられるかというと、それも無理なのは良くわかっている。
どうしたものかと考えながらとりあえず腹が減ったので、荷物の中にあった干し肉の様な物を恐る恐るかじり、やっぱりこの筒は竹筒っぽいな・・・なんて考えながら水を飲んだ。
得体の知れない物を口にするのは若干抵抗はあったが、そうはいっても仕方がない。
干し肉らしき物は、塩からく塩気だけのジャーキーみたいな感じで異常なほど硬くて顎が疲れる代物だったが、長く噛んでいると独特の風味を持った肉の味がしてきて悪くはなかった。
とりあえず、腹に物を入れたら少し気分が落ち着いた。
ふと、空を見上げると先程ひと眠りして起きた時に、すこし傾いて来ていた陽がさらに傾いて来ている事に気付いた。これから夜になるのに、うろうろと森の中をうろついていたら良いことなんて、なにもないだろう。
動くとしても明日だな、など考えていたが・・・
動くのは明日?ということは今日は、この場で夜を明かす事になるわけだ・・・つまりたった一人で森の中で一晩過ごすわけだ。
良い歳の大人が何を言ってると言われるかもしれないが・・・やべえ・・・想像するとかなり怖い。
少なくとも、せめて火がほしい!真っ暗な森の中で一人で夜を過ごすとか、たき火でもないと・・・想像しただけで、かなり怖い。
荷物の中に、なにか火を起こせるようなものなかったか?いや・・・間違いなく荷物の中にはそれっぽいものなかったよな。そうすると火を起こすとしたら、原始的な方法で手で切りもみ式でやるとかか?
火がなかなかつかない状況で辺りが暗くなっていくことを想像すると、なにやらいやな汗が出てきそうだ・・・急ごう!!
とりあえず俺は、石碑の周りで薪と火起こしが出来そうな部材はないかと探し始めた。
ありがとうございます。