デジャビュ
「……? 帰るのか……?」
やっと自己紹介をして血で血を洗う大論戦が繰り広げられるのかと武者震いが止まらなかったのに。
「今日はいいのよ」
「…………」
「あの気難しいリリンさんの気を曲げないだけでも褒めたものだわ、
勲功としてパフェは免除してあげる」
「…………!」
「コンビニのロールケーキで我慢するわ、二個で」
「それに飲み物もつけたら駅前のパフェ一つと変わらない値段だぞ……。
まあ最近のコンビニスイーツはおいしいのが多いからな」
「……お」
しばらく歩くとコンビニを見つけたので早奈苗をコンビニの前で待たせて、さっさとロールケーキを探す。
昨今のコンビニの品揃えはスーパーにも引けを取らない。
パフェやプリン、目を落とせばバナナだって売っていた。なんでバナナ。
色々目移りしてるうちにロールケーキなんてすぐに見つかった。
「…………ん?」
ロールケーキを鷲掴み、レジに向かうと見覚えのあるようなないような人を見つけた。
学校が同じということはよく分かった。
俺の学校の女子制服だったからだ。
リボンも緑色と、同学年だった。
お菓子の棚に張り付き、チョコやらポテチやら高カロリー系のお菓子をカゴに入れ込んでいる。
髪は綺麗なストレートで顔は影で隠れてよく見えない。
そこまで凝視していないのに彼女はこちらの気配を機敏に察し、こちらに背を向けて去っていった。
「遅かったわね」
「俺がわざわざ自腹でライトノベル一冊と中古本一冊分のロールケーキをお前に奢ってやってるんだ、ねぎらいの言葉くらい…………」
「おつさま」
「全然ねぎらってないが…………」
すると早奈苗はニコっと笑って、
「夜はお茶とロールケーキを食べながら『オカモン』が出来るわ! ありがとね!」
「オカモン………?」
「『オカルト・モンスターズ』よ!
今やオカルト界では知らない人はいないカードゲームなの! 世界中で人気だからブラウザ版も少し前にオープンされたわ!」
「お、おう……」
「いい機会だから陽介もやってみなさいよ! カード貸してあげるから!」
早奈苗の勢いから逃れるためにスマホをさりげなく開くと1通のメッセージが届いていた。
『雛石 ゆかり「急用ってわけではないのですが、いつもより陽介さんの帰りが遅いのでメッセージを送りました。なるべくこれを見たら連絡してください」』
姉からのメッセージだった。もう少しで夕食時なのでというのもあるだろう。
いつもは家にいる時間なのでこの時間の姉からのメッセージは不思議な感覚がした。
「ごめ、用事出来ちまった。オカモンは明日教えてもらってもいいか?」
早奈苗は物足りない顔をしたが、すぐに仏頂面に変わった。
「え………、あ、ええ、じゃあ何枚かカード持ってくるから期待してなさいよ」
「じゃあ、また明日」
「ええ、また明日」
あの挙動だとまだ俺に見せたいものがあったようだ。
後ろめたい気持ちを隠しながら俺は背を向けた。
「――ゆかりさんただい……まっ!?」
「どうしたんですか? びっくりした顔して」
赤フレームのメガネを押し上げて『雛石 ゆかり』は首を傾げた。
「めっ、メッ…………!?」
「ああ、これですか? メイド服ですっ! 友達に誘われちゃって……、えへへ……」
言葉が出てこない。またメイド服。今日で二回目だ。
「あっ……ああっ………!?」
「そうだ陽介さん! 練習したので見てくれませんか!」
そう言うとゆかりはスカートの両端をつまみ背をかがめて、
「おかえりなさいませっ、ご主人さまっ!」
と『萌え萌え~♪』な声色で言った。
その瞬間、俺はハンマーで頭を殴られたような感覚に襲われ、目の前が真っ暗になった。
「陽介さん!? 陽介さああん!?」
目の端に涙を溜めた従姉が駆け寄るのが気絶する前の最後の景色だった。