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柔らかい感触

「ふー…終わった…」

迫り来る睡魔を追い払っただけでも褒めてやりたい。

授業後のホームルームはうとうとして気づいたら終わっていた。

さてバッグを持って早奈苗のところへ行こうと彼女を目で探したが彼女は消えていた。

「お…? 右京さんいないのか?」

「まあいてもいなくても同じようなもんだし」

陽介の言葉を聞くと大輝は顎に手をやった。

「じゃあ俺行くわ、カオスの塊に」

皮肉っぽく行って陽介は教室を出て行った。

去り際に大輝をちらりと見たらまだ思案顔で俯いていた。ちなみに日向はほわほわした表情でカバンに荷物を詰めていた。

沈む心を慰めながら階段を下りる。たしかあの部室のような建物は体育館裏にひっそりと建っていたはずだ。

体育館裏の周りの建物はあれしか無い為、探さなくても自然に見つかるだろう。



ここはある一室。

「許さない……許さないんだからっ」

オカルトオタクの右京早奈苗は悔しがっていた。

「エイリアンアブダクションはあるってことを本気で説明してやるわ!」

もう少しで論破されるところだった。

自分の無力さを恨み、彼女は唇を強く噛んだ。

(わたしには知識と反発精神が足りなかっただけ……どうにかなる……)

真っ暗闇の部屋で早奈苗は苦笑いをした。

「それに今回は作戦だってあるわ…!」

彼女は錆びかかった引き出しを思いっきり引いた。

開け放たれた空間からは闇が飛び出す……わけもなく、

現れたのは引き出しの中にポツリと置かれた一つの鈴だった。

「ふふ……ふふふふ……」

彼女は一つ、不敵な笑みをもらした。


――ハックション!

「ううっ、なんだか寒気が…」

風邪だろうか? 春になって気温のギャップも大きいし、もしかしたらかもしれない。

「ホントここって人いないよな…」

体育館裏の人気ひとけの少なさは全国共通。

ぶるっと震えた肩をさすりながら少し歩くと目的の場所に到着した。

教室に早奈苗さななえがいなかったということはここにいるかもしれない。

昨日約束してしまったわけだし、今日の予定をほっぽることは出来ない。男として。

意を決してドアノブに手をかけた。


「――!? うわっ!」

『回った』。

世界がぐるっと回る。

内臓が引っくり返るような重力の差を受け、意味が分からなくなる。

「ちょ、ちょっと、きゃっ!?」

体が二回ほど転がった直後に何かの悲鳴が聞こえた。

悲鳴のぬしを巻き込み、壁にぶち当たってようやく『回転』は止まった。

体を起こそうとした瞬間、手のひらにある小さな違和感に気づく。

手のひらを少し動かしてみる。かすかな感触。しかも柔らかい。

「……んっ」

吐息。

回転の混乱で麻痺した頭脳を覚醒させる。

女の子らしき悲鳴、回転、手のひらの柔らかい物体、吐息。

開眼かいがん

「「…………」」

目が合った。

吸い込まれそうな黒い瞳が怯えるようにこちらを覗く。

見覚えのある亜麻色の髪。透き通るほど白い肌、そして胸元に添えられた手のひら。

「………! …………。きゃあああああああ!!!」

「待てこれは事故で、ぐはっ!?」

必死に代弁するも虚しく。

気絶した原因が顔を真っ赤に変化させた早奈苗の左ストレートだと知ったのは気絶から目覚めた後だった。

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