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エイリアンアブダクション

「そうなのか、そんなことが………」

早奈苗とオーパーツ討論を繰り広げた次の日。

食堂で食事を取った後、友人の「新田にった大輝」に早速先日の件を相談した。

口では同情(?)しているものの目が哀れんでいない。

「その後が散々でさ……エイリアンアブダクションやらなんとかいいだして……」

「オカルト話の件はどうでもいい、その前だ」

大輝が黒縁くろぶち眼鏡のブリッジをくいっと上げて、目を鋭く光らせた。

「そ、その前ってのは……」

「ドクロのレプリカで殴られた……とあの世紀の美少女『右京早奈苗』に」

殴られたという単語だけ大輝は妙に強調して言った。

「び、美少女?」

「これだから唐変木バカは……」

ん……なんか今凄い罵倒された気がするんだけど……?

「貴様には分からないだろうな!」

バッ

マントを羽織ってもいないのに彼が立ち上がった瞬間、そんな効果音が聞こえた。

「可愛い子に本気で殴られる気持ちよさ! すがすがしさを!」

「え」

「そうさッ! 我々の業界では『ご褒美』なのだ!!」

「えええ」

「気絶させられるまで殴られたのだろう? 僕なら死んでもいいくらいだ! 妬ましい! 妬ましいぞ雛石陽介ェッ! 今すぐ呪ってやる!!」

声を荒げ曲がった女性観を叫んでいる大輝と俺を女性陣は睨みつけていた。

待って。俺関係ない。

「……そういえば右京さん見ないな」

周りからの視線に気がついた大輝はしぼんだ風船のようになった。

「そういえば早奈苗どこいったんだろ」

授業が終わってから昼休みに入る間には姿が見えなくなっていた。無論ずっと監視してたわけじゃないが。

「なんだ、陽介は右京さんを下の名前で呼ぶことにしているのか、下の名前で呼び合ってるのか? だとしたら死ね」

「…………」

「いや、あの右京さんがお前みたいなやつを愛称で呼び合うなんてあるわけないよなあ、はっはっは」


「え~、陽介に限ってそれはないよぉ~」

「「!?」」

ガタガタッと二つの椅子が同時にのけぞる。

日向ひなた、お前いつからそこに……」

「ん~? ずっと前からそこにいたよ~」

日向いわく。陽介が新田くんに相談する前からいたよ~、と。

見葉みは 日向。

彼女とは昔からの腐れ縁である。大輝から言わせれば幼馴染。

この間延びした言葉といい、日向は「ほわわん」である。

今まで一緒にいて暴言なんて一度も吐いてるところは見たことがないし、想像も出来ない。

彼女の周りにいると空気が柔らかく時間がゆっくり流れてるような気がする。

「あのね、陽介は女の子とお話するのが苦手なんだよぉ~」

「そうだったのか……すまんな気づいてやれなくて……」

「いやまあ別に困ったことはないけど」

「お前に謝ってるんじゃない、お前に告白してまだ返事が貰えてない10数人の女の子にだ」

「……ああ…」

「なんと、返答してないじゃん問題は陽介の優柔不断さではなくただのコミュニケーション不足だったんだな安心したぞ」

眼鏡の奥で彼の瞳が笑う。

「陽介は顔だけが取り得だからなあ」

「もちろん自慢なんかしてないぞ」

「学校1のイケメンに選ばれたんだっけ、この顔のどこがいいのやら」

「たしか~、陽介って前回の『ミスターグランプリ全学年』で優勝したんだよね~」

「日向ちゃんもこんな糞みたいなイケメンが幼馴染で鼻が高かったりするの?」

「ううん~あんまり~」

「ずっと隣にいたもんだしそんなに気にならないんじゃないか?」

物心ついたときには日向はずっと俺の後ろにいた。

日向は俺が図書室にいけばついてくるし、男友達と遊ぶときにさえトコトコ追いかけてきたりしてきたやつだった。

日向の母いわく俺に懐いてるらしい。

猫。日向は猫のように俺にくっついてると感嘆していた。

別に餌をマグロにして懐かせたわけじゃあるまいし、第一無理矢理懐かせることなんてした覚えもないのに。

やっぱり一緒にいた時間が比例して今はこんな風になってるんだなぁって思ってたりもする。

「いやいやそれはおかしいぞ陽介。幼馴染同士での恋愛はギャルゲーでの王道じゃないか、なぜ一線を越えない」

「越えてたまるかよ……なんでもハマってるゲームと比較すんな……」

「ギャルゲーも侮れないぞ! なんでもギャルゲーがきっかけで女性とお付き合い、結婚まで辿り着いた人がいるらしい!」

「それはお前くらいのオタクじゃないと無理じゃないのか………」

その時だった。

――ガララ。

一際大きな音を立てて後ろのドアが勢いよく開いた。

「陽介! 陽介!? ――あ、いたいた」

「『陽介』……!? 貴様……!」

なんと早奈苗がわざわざこちらに接触をかけてきたのだ。

滅多にクラスメイトと交流を取らない早奈苗にとってこの行動は一日に皆既日食が4度起こるほど珍しい。

「お宝を見つけたわ陽介! お宝よ!」

「一応聞くけどどんなのだ」

「――ギザギザの十円玉、『ギザ十』よ!」

「ほう、最近見ないと思ったらまだあったのか」

ギザギザの十円玉。

通称ギザ十で略されるそれは硬貨の中ではメジャーなコレクト品である。

普通の縁が丸い十円に対し、早奈苗がとびきりの笑顔で見せ付けている十円は縁がギザギザなのだ。

『なんだ、ちょっと指がざらざらするだけじゃん』

とコメントしてしまえばコレクターは反論のしようがないのだろうが、ギザギザにロマンがあるのだ。ロマンがあるだけで十分だからいいじゃないか。

別に俺は欲しいとも思わないが。

「これは宇宙の産物だわ! 宇宙人がわたしに加護を与えてくれたの! それがギザ十よ!」

「お前はまたむちゃくちゃな話を持ち込んできやがって……妄想のオンパレードだな……」

頭をかかえていたら隣にいた大輝が小声で、

「おいおい陽介、こんな右京さん始めてみたぞ…いつもは暗いイメージだったんだが……」

「いろいろあったのさ」

と当たり障りの無い返事をしておいた。どうせまた聞き出されるんだ、今はこの返答で許してくれ。

「そうね……エイリアンアブダクションを開始した宇宙人がまず手始めに地球への侵食を始めた印がギザ十だと推測するわ」

「違ーーう!! ギザ十は日本人が作っていた昔の十円玉だ! 考えれば分かるだろ!」

なぜこんなにトンデモ話がポンポンあふれ出る……!?

妄想発明機械なのか……!?

「しかもエイリアンアブダクションなんて存在しないと昨日言ったはずだろう? まだ諦めきれないのか」

「もちろんよ、『どうせ勘違いだろう』って陽介は片付けたじゃない、思考停止、議論放棄でいいのかしら?」

「もちろんだめだ、徹底的に叩きのめしてやる」

大輝と日向はぽかんと早奈苗との討論を眺めている。

「そうね、エイリアンアブダクションの事例として有名なのがいくつかあるけどわたしは一つだけ厳選して言いたい例があるわ」

「ヒル夫妻か」

「当たり。そのアブダクションの様子を活字した本があったわ。読み上げるわね」

早奈苗はなにやら怪しい本を自分の机から取り出し、あるページを開いた。

「1961年の9月19日の深夜、バーニー・ヒルと夫人のベティ・ヒルは休暇先のカナダからポーツマスまで車を走らせていたわ」

「夜通し車を飛ばすなんてありきたりなトンデモ話臭が凄いな」

陽介が横から茶々(ちゃちゃ)を入れると早奈苗はさも不機嫌そうに眉をひそめた。

「車を走らせて高速道路を渡っている途中、夫妻は明るい一列の窓をもつUFOを発見したの。上空30メートル付近に漂ってるUFOをバーニー・ヒルさんは車から出て15メートルほどの距離まで近づいたの。それはそれは巨大な円盤型だったそうね」

「そして宇宙人を視認した、と」

「一列に並んだ窓から人間とは思えない奇妙な顔が見えたの! 羨ましすぎるわ!!」

「詳しくは知らないがその宇宙人はグレイ型なのか?」

「そうね、頭が丸くて顎あたりが鋭利に尖ってる顔……たまらないわね」

「グレイ型宇宙人ってなんだ?」

大輝が首を傾げて聞く。

「宇宙人の中でもメジャーな姿で、一番人型に似てる宇宙人だそうだ。詳しくはWEBで、と言ったほうがいいかもしれない」

「へぇー」

「続けるけどいいかしら? 宇宙人をその目で目撃してしまったバーニーさんはパニックに陥って車に飛び乗り、スピードを上げて走り去ろうと試みたの。

でもすぐにブザーのような連続音がトランクのあたりから聞こえてきたと思えば、車が勝手に振動を開始し始める。すると不思議なことに眠気が2人を襲い、気が付けば、最初に音を聞いた場所から60キロも離れた場所にいたの。2人に移動した記憶は全く無い。自宅に戻ると通常よりも2時間ほど余計に時間が経過していたっていうの」

「これはまた論破しにくそうな題材を持ってきやがって」

「その後ベティさんは悪夢、バーニーさんは不眠など不可解な症状に悩まされて不安になった二人は催眠治療師の『ベンジャミン・サイモン』博士に相談して、催眠療法を受けるの。博士が行った催眠治療は『退行催眠』と呼ばれるもので、失われた記憶を蘇らすことが可能なの」

「んなバカな」

「夫妻が思い出した記憶は、空白の2時間の間に円盤の中へと連れ込まれ、現在では『グレイ』と呼ばれている異星人に生体実験を受けた、というものだったの」

「なんとも宇宙人肯定派のいい方向に持ってかれてる気がするな」

「でもこれは本当にあった話よ陽介」

「ヒル夫妻の証言はただの妄想にすぎない。しかもベンジャミン博士に至っては妄言者の擁護までしてしまっている。人類の敵だ」

「むきー!!! ホントに見たんだってば!!」

「そんな証拠なんてどこにもないじゃないか、それにヒル夫妻が勘違いをしているだけだろう。妄想から妄想が生み出されるんだよ」

「じゃ、じゃあどんな勘違いしてたって言うのよ」

「UFOにバーニーが近づいて宇宙人を目撃した、と言ったな、そこからが妄想であり作り上げた話だ。人には恐怖を直感的に感じるとそれを誤魔化ごまかすために新しい記憶を作り出してしまうことがある」

「つまり……UFOを目撃してた時点で恐怖を感じてたってことか……?」

大輝が思案顔で言う。

「そういうことだ。だから夫妻はその恐怖で不眠や悪夢の症状に悩まされてたんだろう」

「ぎぎ……ぐぬぬぬ………!」

気づけば目の前には狂犬と化した早奈苗の姿が。

「おい、やめろ早奈苗っ、人一人を殺してそうな顔してるんじゃない、よっぽどお前のほうが宇宙人だっ」

「いぎぎぎぎぎぎ……!」

その様子を見て陽介は勝ち誇った表情で、

「ほう……反論の余地なしか…! まさに負け犬の表情だな! ついについに論破したぞ!! 勝っ」

「――早く着席しろお前等! 早奈苗と雛石席に着け!」

勝利の宣言を叫ぶのを阻止するニューカマーが。

気づけばクラスメイト全員がきちんと着席していた。

まだチャイムは鳴っていないものの「鬼の社会科」と呼ばれる深川が授業なのでより一層着席には気をつけなければいけなかったのだ。

迂闊うかつだった。まさか深川が早奈苗を味方するとは。

これ以上カオスを広げない為にも勝利宣言くらいしっかりしなければ……!

「―――――」

なんと早奈苗は静かに席へ戻っていった。

オカルト話を繰り広げるあの天真爛漫テンションは消え、まさにロボットのようだった。

「ドンマイ」

前の席の大輝が臭すぎるウィンクを放って社会科は始まってしまった。

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