CUPメン!
◇
最近、部室でカップ麺を食おうとすると必ず邪魔が入るので、今日はもうカップ麺の事などスパッ!と忘れて部室に入った。
家帰ってからゆっくり食えばい〜じゃん。と思うだろうが、ウチは母親が超ロハスなのだ。
自然食崇拝者なのだ。
カップ麺なんてジャンクな物を食った日にゃそりゃもう……
と、云う訳で部室でコソコソとカップ麺を啜る他無いのである。
その唯一の楽しみを奪われた俺。
ああ……部室に向かう足が重い。
しかし、部室に入ると意外なものが俺を出迎えてくれた。
ホムンクルスの蒸留器の前に置かれたそれは……まごうことなきカップ麺!
しかも、見たことの無いパッケージだ。
新発売のレア物かもしれない。
そのカップ麺の下に、可愛らしい便箋が置いてある。
“陽介へ”と書かれているから俺宛なのだろう。
―陽介へ、これあげる。美月より―
ああ美月!可愛いところ在るじゃないか!
俺のひそかな楽しみを理解してくれてる!さすが俺の幼馴染みだ。
早速、水を入れたビーカーをアルコールランプで沸かし、カップ麺のフィルムを剥がした。
しかし、本当に珍しいカップ麺だ。
極彩色の容器には意味不明なアルファベットが並んでるだけで、どんな味なのかが全く想像出来ない。
外国製なのだな。
こりゃ、楽しみだ。
沸いたお湯を注ぎ、三分……でいいんだよな?
三分間、携帯でゲームなどをして時間を潰していると、何やら妙な音がする事に気付いた。
何と云うか……何かを割るような音。
メキメキパキパキと不気味な音が部室に響く。
こ……これが話に聞く“ラップ音”と云うものか?
しかし、“ラップ音”がするのは木造の古い民家ではないのか?
一応、校舎は鉄筋コンクリートだ。
その頃にはもうカップ麺の事など忘れて音の出所を必死で探していた。
だって、恐いじゃん。
しかし、探せば探す程、厭な答えが確実になって来る様で……その音はどうしても、さっきお湯を入れたカップ麺からするような気がしてならない。
心なしかカップが動いているような気がするし……って
動 い て る んですけどっ!
しかもカップにヒビが入ってるし、しかもしかもそのヒビが拡がってくし。
パーン!と云う音とともにカップ麺の容器が弾け飛び、もうもうとした湯気の中から現れたのは……
「CUPメ〜ン!」
……はい?
今までカップ麺が在った場所には、筋骨隆々とした男が、見事なポージングをして立っていた。
いやしかし、この男、小さい……
コビトだ。「コビトのマッチョメンだ」
「マッチョメンではない。私は正義の味方、CUPメンだ」
何だかアメリカのヒーローアニメの吹き替えの声優みたいな声で話す「コビトのマッチョメン」
「だから、マッチョメンではなくCUPメ……」
カップ麺から生まれたCUPメン?ネーミングが安易過ぎないか?しかも身長なんてカップ麺の容器とほぼ同じサイズだ。
「ちっせえ〜」
思わず口に出して云うとコビトのマッチョメンはプンスカ怒りながらこう云った。
「小さいとは何だ!正義の心に体の大きさなど関係ない!必要なのは悪を憎むと云う崇高な魂のみだ!」
なんか凄い。云っている事は凄い。だけどコイツは何をして正義を守るつもりなんだろう?
「あのう……」
「なんだね?少年よ」
うう……声はムチャカッコイイんだけどなあ……
「正義の味方って事は解りましたが……何かコスチュームとか無いんですか?」
そう、コイツは、筋肉隆々で声がカッコイイのはいいんだが……
……スッポンポンだ。
何も着ていないのだ。
「うむっ?これは私とした事が!少年よ、何か着る物は無いかね?」
全然恥ずかしがる様子も無い。しかし、こんなちっせえ男に合う服なんて……
「あっ!そうだ、手芸部に行けば何かあるかも、ちょっと待っててください」
「うむ、頼んだぞ、少年よ」
確か手芸部の女子達が人形とか熊のヌイグルミの服とか作って展示してた。こっそり借りてこよう。
◇
しかし、手芸部の作る人形の服って云うものは○カちゃん人形とかテディベア用のものなので、やたらファンシーだ。
フリフリのレースやらフリルが付いていたり、そうでなければ超セクシーなミニスカとか……
テディベアの服に至っては、男物もあるんだがモロ“子供用”だ。しかもCUPメンのサイズより明らかに大きい。
もう、諦めてCUPメンにはスッポンポンのままでいてもらおう。と思ったその時、展示コーナーのある一画に目が行った。
そこには、“尾琢希衣のヒーローコスチュームシリーズ”と書かれた紙(ミスコピーの裏)が貼ってあり、スパ○ダーマンやバ○トマンやアイア○マンのコスチュームを着けたリ○ちゃんの彼氏やらバ○ビ○の彼氏やら、何処から調達して来たのか、コ○ンザグレートの人形がひしめいていた。どうでもいいけど“○”ばかりで訳が解らん。
一番、あのスッポンポンマッチョメンに体形が似ているコ○ンザグレートの人形の服をひっぺがし、俺は足早に手芸部の部室を出た。
◇
何だかよく解らない外国のヒーローのコスチューム……ほぼ赤い全身タイツで胸や腰に革製のプロテクターみたいなものが付いている……を来たCUPメンはご満悦のようだ。
悔しいけどやたら似合う。
いいなあ……筋肉。
俺も筋トレとかしたら少しは筋肉付くかなあ……ムキムキマッチョじゃなくて細マッチョでいいんだが……などと考えていると、
「これで準備は出来た。さあ少年よ、悪を倒しに行くぞ」
などとミニチュアマッチョメンがほざきやがる。しかも何だか俺も一緒にその“悪”とやらと戦わなければならない口振りだ。
「あのう……さっきから気になっていたんですがその“悪”とやらはどこにいるんですか?つか誰なんですか?」
「気付かないか?少年よ」
「な……何に?」
「校舎の中で私以外の人物に会ったか?」
「……あっ!」
何で気付かなかったんだろう?
いつもヒマそうな化学部員も来ない、手芸部だって、今は部活の最中の筈なのに誰も居なかった。
廊下を歩いている者も居なかったし、気にして無かったが校庭にも誰も居なかったような気がする。
なんで俺はそれに気が付かなかったんだろう?
鈍いにも程がある。
放心している俺にCUPメンは云う。
「何者かがこの学園を消し去ろうと企んでいるのだ。私達はその“悪”と戦わなければならない」
何故皆居なくなったのに俺だけ残ったのか?
“悪”とは?
その謎は次話で解き明かされる……ハズだ。
たぶん。