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Cybernetic Organismタマちゃん〜復讐編〜





 さて、その前話で蘇った“タマちゃん”だが、それから数日経った今、前とは変わらぬ様子で生徒の弁当の残りをねだったりしている。


 見た目も性格も何も代わりばえしないので、これは小説としてどうよ?と危惧して居るところだ。




 しかし


 そんなある日、事件は起こった。




 「最近、下校する時、変な男がウロウロしてるのよねえ」


 「そうそう、赤いスポーツカーに乗った奴でしょ?」


 「私なんて声掛けられちゃったよ、若い奴だと思ってたら、オジンじゃん!チョーキモい」


 「光恵なんて無理矢理車に乗せられそうになったってよ」


 


 女子達が、興奮気味でそんな事を話している。


 その赤いスポーツカーのオジンとは、先日、タマちゃんをひいたあの“赤いカマロのキモ親父”だろう(命名・化学部部長:院銀武礼)



 元々の目的はナンパだったのか。

 全く、いい加減オトナになって欲しいもんだ。精神的に。


 「今度見かけたら警察に通報しちゃいなさいよ!女子高生の敵よ、そんな奴」


 鼻息荒く、オカチメンコ……いや、岡地明子が叫んでいるが、「君は大丈夫だ」


 「はあっ?何ですって!」


 いかん、また要らん所にカギ括弧をつけてしまった。


 「いや、ホラ、岡地さんは頭も切れるし、しっかりしてるから狙われても上手く切り抜けられる……って事ですよっ!はっはっは」


 「まあね、そう云った意味では私は大丈夫だけど他の女子が心配よ。何か良い案無い?」 


 俺の苦しい言い訳的お世辞を百パーセント“称賛”と受け取って貰えて助かったが、何故話題を俺に振る?オカチメンコめ。


 「それなら私にまかせて」


 どこから現れたのか美月が腕を組み、ドヤ顔でそう云った。



 それから女子達は美月を囲み、作戦を練っていた。


 タマちゃんの仇でもあるし、あの赤いキモオヤジには制裁を加えた方が良いと個人的にも思う。



 さて、それから数日後。





 えーーーーと。


 何故、俺、スカートなんか穿かされてんでしょう?


 御丁寧に、演劇部から借りて来たカツラまで被せられて。


 「か弱い女子に“オトリ”になって貰う訳には行かないじゃない?陽介、線が細いし、背も低くて一番女装に違和感無いから」


 云ってる事はごもっともなんですけど、何だか“男性”としては激しくけなされている気がするのは気のせいか?気のせいだな、きっと。


 「その制服、私のお古なの、ちょっとキツイかもしれないけど我慢してね」


 美月の……?

 美月のお古……!


 それを訊いた途端、俄然やる気が出て来た。


 美月の汗とか涙とかその他モロモロを吸い込んだ制服。美月の匂いがする。ハアハア。


 ……いかん、変態になっているバアイではない。


 演劇部のメイク担当部員にナチュラルな女子高生メイクを施され、脛毛を抜かれ(痛い)俺は、否、あたしは……



 「女子高生、北里陽子でえ〜す。ヨロシクね!」



 うっ、こんなにノリのいい自分が好き。




 作戦はこうよ。


 まず、私、北里陽子が赤いキモオヤジがよく出没する裏門の道路際に居て、奴が来たら“タマちゃん助けて”と叫ぶの。そうすると何かが起こるらしいわ。


 何が起こるのかしら?ちょっとドキドキ。うふっ。


 「北里君、なりきるのはいいが、その喋り方止めてくれないか?」


 いつの間にか院銀部長が来てるじゃない。さては部長も私にメロメロだなあ〜?


 「そんな事は無い。」


 何で、カギ括弧付けてないのにあたしの考えてる事解ったんだろ〜?ま、いっか。


 「じゃ、陽介、頼むわね」


 まかせといて!






 しかし、待っていると来ないもので、辺りはだんだん薄暗くなって来た。


 気温も下がって来て、時折吹く風が、スカートを巻き上げ、脛毛の無いツルツルの脚を撫でる。いや〜ん。


 いや、マジ寒い。何で女子達はこんなスースーする物を毎日平気で穿いていられるのだろう。ある意味尊敬すらする。制服スカートの下にジャージズボンを穿く、どっかの民族衣装みたいな出で立ちのダサ女子共の気持ちが痛い程良く判った。


 「陽介、まだ来ない?」


 痺れを切らして美月が塀の向こうから顔を出して云う。いや、こんな薄暗くなってからのその図は塀の上に生首が乗ってるみたいに見えてホラーだ。怖いって。


 塀の向こうには美月だけで無く、女子数十人と化学部の男子数名が隠れている。暇を持て余してお喋りをしている声がモロに聞こえて来るので、隠れている意味は無いと思うが。



 そうこうしているうちに、遠くからヘッドライトが近付いて来るのに気が付いた。



 ……奴か?




 爆音を立てて近付いてくるそれは……


 それは……



 宅配のトラックだった。


 塀の向こうから落胆の声が聞こえる。元々狭い通学路なので車の通りは少いが、赤いカマロだけが通ると云う訳では無いのだ。


 「おい、どけよ!」


 そう、このように、対向車が来た時等は、両方の車両がギリギリ歩道側に寄らないとすれ違えないのだ……って、え?


 おそるおそる、宅配トラックの陰から覗くと、奴がいた。


 しかも、宅配の為に運転手は車内に居ない。それなのに怒鳴っている。バカだ。バカだと思っていたけど本っ当にバカだ。


 やっと、運転手が戻って来たが、そうすると今度は何も云わない。バカの上に小心者かよ!


 心の中で突っ込みを入れていると、宅配のトラックが去って行って、赤いカマロのキモオヤジとバッチリ目が合ってしまった。



 キモオヤジは俺を見るなり気持ち悪い笑顔を浮かべた。キモい。キモ過ぎる。


 「君、誰か待ってるの?ドライブしない?」


 やだ。俺が本物の女子だとしてもそれだけは厭だ。こんなキモいオヤジとドライブする位なら杉山清貴とメテオドライブの方が百万倍マシだ。余りのキモさに自分で何を云っているのか解らん。しかも「メテオドライブじゃなくてオメガトライブだし」


 「お?渋いの知ってるね〜カセット持ってるよ、聴きながらドライブしようよ」


 CDとかMDじゃなくてカセットなんですかい?


 いや、そんな事より、うっかり付けたカギ括弧でキモオヤジの琴線に触れちゃったみたいだ。絶対絶命、俺。



 「陽介、今よ」



 塀の向こうから美月が囁いた。そうだ、そうだった。


 



 「タマちゃん!助けてえええええっ!」



 そう叫ぶと、何かが、俺とキモオヤジの前に飛んで来た。




 それはトラ猫だ。

 タマちゃんだ。


 しかも


 直 立 し て る。



 「あ?何だ?この猫?」


 キモオヤジがそう云った途端、タマちゃんの前足からシャキーン!と云う音と共に三十センチはあろうかと云うセラミックの爪が伸びた。いや、無理だろコレ。今まで何処に収納してたのよ?しかも爪って云うより、刃物だ。


 「ニャガニャガ」


 タマちゃんがセラミック爪を振り回しながらキモオヤジの周りを回る。


 すると、



 キモオヤジは着衣と云う着衣を切り刻まれスッポンポンだ。しかも


 「ニャガっ!」 


 タマちゃんがもう爪を一振りすると、爪の先に何か毛の塊が……って、それカツラ?


 と、云う事は……


 「うわああ!何するんだ!カツラ返せ!」


 ツルっぱげやん!

 キモオヤジ、ツルっぱげやん!


 すかさず、新聞部の部員が望遠カメラで激写したらしく、フラッシュが焚かれた。


 「この猫はアンタに轢かれた猫よ!許して欲しかったら謝りなさい」


 河合伊予が出て来て、強い口調でキモオヤジに云った。


 しかし、


 「ああ?こんな事して只で済むと思うなよ?」


 と、息巻いているだけで謝罪どころでは無いキモオヤジ。


 「そう……、タマちゃん、あなたを轢いた奴、好きにして良いわよ?痛かったでしょ?恐かったでしょ?気の済むようにして良いわ。後は私達が何とかするから」


 「ニャガっ!」


 タマちゃんが頷いた。猫が頷くのを初めて見た。いや、直立したり、セラミックの爪を出すのも初めて見た訳だが。


 「フーッ!」


 タマちゃんは威嚇の声を出し、背中の毛をこれ以上無い位逆立て、尻尾をタヌキのそれのように膨らまし


 ……宙を舞った。






 次の瞬間、赤いカマロは赤い鉄屑と化した。


 「うわあああ俺のカマロが〜!お前達何て事してくれたんだ〜!」


 キモオヤジの叫びなどお構い無しに、ドヤ顔で河合伊予に駆け寄るタマちゃん。


 「よくやったわ、タマちゃん、」



 彼女に抱っこされた時にはもう、普通の猫に戻っていた。


 そして、河合伊予と美月がせせら笑いながら、声を合わせてキモオヤジに掃き捨てる。


 「猫のやった事ですから(笑)」



 ツルっぱげでスッポンポンのまま、その場で呆然とするキモオヤジ。


 そして



 「お巡りさん、こっちです」


 院銀武礼が連れて来たのは警察官だ。パトカーも来ている。


 「うをっ!何て奴だ!健全な青少年に向かって何と破廉恥な!猥褻物陳列罪だ!話は署で訊く、とっとと来い!」


 「お巡りさ〜ん、誘拐未遂も追加でお願いしま〜す」


 「あと、不法投棄もで〜す!こんな鉄屑道路に置かれて困ってま〜す」



 こうして、大迷惑な赤いカマロのキモオヤジをやっつけた俺達とタマちゃん。


 もう、日はすっかり落ちていたが、清々しい風を皆で感じた。


 

 

 その後のタマちゃんだが、やっぱり弁当の残りをねだる普通の猫に戻っていた。


 だが、俺達は知っている。

 普通の何処にでもいる、ちょっと太めのトラ猫、タマちゃん。その正体は


 最強サイボーグ猫だと云う事を。












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