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Cybernetic Organismタマちゃん〜誕生編〜





 最近、生き甲斐と云うより“使命”であるカップ麺を食いっぱぐれてばかりいるのでカップ麺ブログが過疎化している。


 こうなったら美月をネタにブログを書けば閲覧者数アップを図れるかも……と、思ったりもしたけど、そうなると例のホムンクルスを造る為に自分の分泌物を絞り出した話も当然書かなきゃいけない訳で。トホホ。


 今もこうして部室で部員共と例の“腐敗しつつある自分の分泌物”とにらめっこしている訳だが、何がどう変化しているのか解らん状況だ。


 そんなテンションが下がりまくりの中、開け放した窓から悲鳴と、何かが何かにぶつかる鈍い音が聞こえて来た。


 見ると学校の裏門を出た所で、赤いカマロが停まり、ウチの学校の制服を着た女子が地面にへたりこんでいる。


 「大変だ!誰かひかれたみたいだ!」


 俺がそう叫ぶと、科学部全員が部室を飛び出し、現場へ駆けて行った、勿論俺も。


 いくら化学オタクな連中とはいえ、こーゆー時は行動が早い。単に野次馬根性かもしれないが。






 赤いカマロの運転手は茶髪で鼻ピアスのいかにも“チャラ男”と云った風情の青年……と思いきやどう見ても四十歳過ぎのオヤジだった。


 それが金髪に近い茶髪に長い髪を染めて、オマエはどこの部族の者だ?と云いたくなるようなデカイ鼻ピアスと耳ピアスをぶらさげている。 


 まあ見た目はどうでもいい。問題は……


 まがりなりにもウチの女子が被害に遭った訳だから、謝罪のひとつもしているのだろう。と、思ったら全くの逆だった。



 「あ〜あ〜俺のカマロに傷が付いたじゃね〜かよ〜!どうしてくれるんだ?ええ?」



 と、へたりこんでいる女子生徒にインネンをつけている何て奴だ。


 しかも、その女子は俺や美月と同じクラスの河合伊予(かわいいよ)だ。


 美月と並んで美少女と謳われるクラスのマドンナだ。その彼女の危機である。ここで助けなきゃ男としてどうよ?



 「何が遭ったか解りませんが今から警察を呼びますね、貴方も良い歳をしてウチの女子に因縁をつけてても拉致があかないでしょう?」


 いつもクールな化学部部長、院銀武礼(いんぎんぶれい)がナイスフォロー。


 そうだ、オタクの武器は“知性”なのだ。

 こんな、「良い歳してアタマ悪そうなオヤジ警察にしょっぴかれればいいんだ」


 「何だと?」


 イカン、また作者が要らん所にカギカッコ付けやがった。


 当然カギカッコを付ければそれは“台詞”となり実際に口に出して云った言葉となる。小説の基本だ。


 「いや、“良いシャツを来てますね軽そうな素材”と云ったんですよ彼は、こんな時でもお世辞が云える彼はなかなかの気配り屋だと思いますが?」


 またもや院銀武礼のナイスフォロー!……でもないか。あまりに無理くりだ。しかも最後が余計だ。




 「まって、院銀さん、北里くん、私がひかれた訳ではないの」


 へたりこんで震えるだけだった河合さんがやっと口を開き、何かをゆび指した。


 そこには、大きなトラネコが横たわっている。


 「あっ……!」


 殆ど同時に、皆が声を上げた。


 このトラネコは、タマちゃんと云って、学校のマスコットなのだ。


 昼になると何処からか現れ、弁当の残りをねだり、放課後は部活で疲れた生徒の“癒し”になる。


 そんな、我が校のマスコット、タマちゃんを……


 「この猫殺し!」


 河合さんがひかれたのではないと、ほっとしたのもつかの間、タマちゃんをひいておいて自分の車の心配をしている、こんな大人にはなりたくない。


 皆が呆然としている間に赤いカマロのチャラオヤジはとっとと車で走り去ってしまった。 


 「うう……タマちゃん……タマちゃん」


 泣きじゃくる河合さん。無理も無い、この様子だとタマちゃんがひかれるその瞬間を目撃したのだろう。


 河合さんが猫好きなのは有名だし、誰よりも一番タマちゃんを可愛がっていたから。


 「大丈夫よ伊予。」 


 ふいに、今まで黙ってて存在すら忘れられていた美月が云った。


 「タマちゃんは私が生き返らせてあげるから」


 美月が云うと、単なる慰めじゃなく本当に実行するから怖い。


 返魂香でも使うのか?

 







 「私が悪いの……道路のむこう側にいるタマちゃんを呼んだりしなければ……ううっ」


 化学部の部室で、河合さんは泣きじゃくっていた。


 「河合さんのせいでは無いよ、悪いのは全部あの茶髪のキモオヤジだ。まあ、冷たい麦茶でも飲んでおちつきたまえ」


 「ありがとう」


 優しげな院銀部長だがあのカマロオヤジをキモオヤジと呼ぶあたり腹黒さ満載だ、しかも麦茶はビーカーに注いで出した。うん、何にでも使えてビーカーは便利だ。 


 河合さんはビーカーに気付くとドン引きしたが。


 その間、美月はタマちゃんの亡骸を前に何かゴソゴソやっている。


 ゴソゴソだけなら良いが、たまにゴリゴリとかウィーンとか妙な音も聞こえる。



 やがて、その殺人鬼が暴れてる風の音が止むと美月が云った。


 「出来たわ、あとは回復するのを待つだけよ」


 え?何が出来たと云うのですか?


 回復って……? 


 しかも美月の、制服の上に着た白衣は血まみれなんですけどっ!



 「美月、タマちゃんを見ていい?」


 いや、俺らでさえ見るのを躊躇しているのに、果敢にも河合さんはそい云いながら美月の方へ。

 きっとタマちゃんはエライ事になっているんだ。

 大体、死んだ猫を生き返らせるなんてそんな。いくらSFコメデイーだからってそんな無茶苦茶なご都合主義じゃSFマニアの皆さんからクレームが来るぞ。


 「なー」


 うん、誰か同意してくれた。

 そうなんだよ、この作者は脊髄まかせで駄文を書きまくるからちょっと一言云ってやった方がいいって。


 「なー」


 ……って、さっきから、なーなー云っているのは……?


 「タマちゃん!」


 えっ?


  

 河合さんが笑顔で泣きながらタマちゃんを抱っこしていた。


 タマちゃんはしっかり河合さんの腕にしがみついて丸い黄色い目を見開いてキョロキョロしてる。


 まじかよ!


 


 「幸い、心臓が潰れていただけだったからそれを修復したの。あと、爪と歯はセラミックに換えといたし、尻尾にはカーボンファイバーを……」


 何かさらりと云っているけど、ソレって……


 「河南君、それ、学会に発表した方がいいんじゃないかな?死亡した猫のCybernetic Organism手術に成功した例はまだ無い筈だから」


 うわ、院銀部長が難しい横文字喋り出したぞ。


 「さ……サイババ?」


 「もう、本当に陽介って耳鼻科に行った方がいいわよ、サイババなんて私達世代で解る人いないって」


 


 とにかく、タマちゃんは蘇った。

 そして、この話は次話に続くのである。


 




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