8話 封建ピラミッド
(あ、まただ・・・・)
7月頭。期末テストの順位が張り出された。
私は、筆記、実技共に一位の成績だ。
筆記は毎回一位だけど・・・実技で一位だったのはこれで二回目だ。
中間テストも一位だったし、この間やった地方のコンクールでも、一番だった。
・・・まぐれは三回も続かない、っていうけど、未だにこの結果を信じられない。
だって、中学時代の実技成績はビリだったから。
確かに、美和君と出会ってから、私の演奏は少しはマシになったけど、
本当に、少しだけで、そんないきなり一番を取れる程ではないと思う。
どうも、自分の中で鳴っている音の評価と、周囲の評価にズレがあるようだ・・・
と、いうことに四回目の一番でようやく気が付いた。
「どうして、あんな子が一番なの?」
実技二位の城之内さんの声が聞こえる。
城之内さんは、中学時代から、ずっと一番を取っていた子で、私と同じ、ヴァイオリン専攻だ。
音楽科の力関係は、実技で一番を取った人
(楽器ごとに順位が出されるので、正確に言えば実技一位になった人の中で力のある人)
がその学年の中心、みたいな風潮があって・・・
城之内さんはずっとうちの学年のボス、みたいな感じだった。
だけど、高校になってから、城之内さんはずっと二番を取っていて・・・その立場も危うくなっていた。
城之内さんを取り巻く取り巻き達は、だいぶ減っているし、
最近では、城之内さんのことを無視して、私に取り入ろうとする人もいるくらいだ。
・・・私は、ボスとかそういうのはガラじゃないから全部断っているけど・・・・。
ただ、彼女にとっては、その事がものすごく気に入らないみたいで、
最近、ずっとイライラしている・・・ような気がする。
「絶対、先生に取りいっているのよ、あいつ。
あんな顔をして、先生達をたぶらかしているんだわ。」
城之内さんは、私に聞こえるように大きな声でそう言った。
・・・・人の悪口を言うより、ヴァイオリンの練習した方がいいと思うんだけど。
彼女が私を敵視しているのも、有る事無い事言う事も、いつもの事なので、私は、気にしない。
いちいちこんな事で相手にしていたら、こっちの身が持たないから。
「絶対、そうだわ。だって、あの子、普通科の子と仲良くしているのよ。
しかもね、その仲良くしている子がさ、髪の毛赤く染めている子なのよ。
いくらうちの学校は校則がゆるいとはいえ・・・赤く染めるのはねえ。」
「えーっ、不良みたーい。」
「そうだよねー!」
あはははは、と嫌な笑い声が聞こえる。
・・・・・千鶴のことを悪く言われている。
千鶴は不良なんかじゃないもん。
千鶴が髪の毛を赤く染めているのは、憧れのミュージシャンの髪の毛が赤いから、
って言っていたことがある。
「ねえ、ねえ、見てみて。これ、ウチの憧れのミュージシャン。カッコいいでしょ。」
いつだったか、そう言って、千鶴が嬉しそうな顔で写メを見せてくれたことがある。
「ウチさ、ホント、この人のこと神様って思っているんだよね!
だから、ホラ、ウチの髪の毛もこの人同じ赤にしたんだ。」
ちゃんと話せば、不良なんかじゃないことくらい、すぐ分かるのに。
千鶴は、すごく明るくて、誰とでも仲良くできて、音楽が大好きな女の子なのに。
「それとさ、普通科の男子でよく授業サボっている男とも仲いいみたいでー。」
城之内さんのその言葉を聞いた時、はっきりと、美和君だと分かった。
「夜明け一番星」のメンバーで、授業をサボっているのは、美和君くらいしかいないから。
「マジでー?じゃあ、さ、そいつともヤっているんじゃん?」
「うわー!マジビッチじゃん!」
顔が赤くなり、怒りがこみ上げてくる。
・・・・違う。全然違うのに。
私と美和君は、そんなんじゃない。
―――もう我慢できない。
相手にしちゃダメだって分かっているけど、ここまで言いたい放題言われて、黙ってなんかいられない。
私が、城之内さん達の所に行こうとした時、
「・・・やめなよ、城之内さん。」
森君が、城之内さんにそう言った。
森君は、うちのクラスの委員長で、チェロを専攻している。
彼は、中学時代から私に普通に接してくれていた人だ。
私の音の変貌っぷりに、最初は絶望していたみたいだけど、
その後、私が皆に色々言われているのを見兼ねて、助けて貰ったことが何回かある。
「も、森君・・・・」
城之内さんが、困惑したように言った。
森君はいわゆる「イケメン」と呼ばれているらしく、うちの学年で一番人気・・・らしい。
彼に惚れ込んでいる女の子は数知れず。
確か、城之内さんも、その一人だったような・・・。
「大丈夫?音海さん。」
「あ、うん・・・」
私は、森君がちょっと苦手だ。
彼と話していると、城之内さんをはじめ、女の子達の視線が痛いから、というのがあって、
できれば・・・彼とはあまり話したくない。
彼には、全然関係のないことだし、申し訳ないとは、思うんだけどね。
―――はあ、また、城之内さん、何か言ってくるだろうなぁ。
私は、心の中でため息をついた。
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「あ、あのっ、音海さん・・・・」
その日の放課後、いつも通り普通科の屋上に練習しに行こうとしたら、
眼鏡をかけた女の子に声をかけられた。
見たことない顔だ。・・・えーっと、高校から入った子かな?
「あの・・・えっと、わたし、閑谷飛鳥と言います。隣のクラスで、ピアノを専攻していて・・・・。」
閑谷さんはぼそぼそとしたか細い声で喋る。
「あのっ、突然なんですけど!来週の日曜って空いてますか?」
「うん、空いているよ。」
「その・・・えっと、実は、わたし、ボランティアやっていて・・・
難病の子供を相手に演奏会することになったんです。
だけど、人が足りなくて・・・・」
ボランティアかぁ。
確か、学生ボランティアで、お年寄りや子供を相手に演奏会をやっている、って話は聞いたことがある。
ただ、私は、誘われたことなかったから、行ったことはないけれど・・・
嬉しいな。こういうの、誘われるようになったんだ。
前は音楽科で私を誘ってくれる人なんていなかったからなぁ・・・。
いつも私は、グループからはぐれて、先生や森君が気を利かせてくれて、
グループにいれて貰っていた立場なのに。
「そうなんだ。いいよ、何を手伝えばいいの?」
「あ、ありがとうございます!えっと、あの、わたしと一緒に演奏してくれれば・・・」
「何を演奏するの?あんまり時間がないから、そんなに曲は出来ないと思うけど・・・」
「えっと、キラキラ星と、ゴセックのカボット、アマリリス、シューベルトのアヴェ・マリア、
歌の翼に、それから、アンコールで有名なアニメの曲を何かやろうって思っていて・・・。」
「うん、それなら大丈夫。」
閑谷さんが言った曲は、どれも弾いたことある曲ばかりだし、
10日しかないけれど、演奏会までには余裕で仕上がるだろう。
「・・・よ、良かったぁ。ヴァイオリンを弾ける人を探していたんです。
あ、早速今日からから練習をはじめるので・・・大丈夫ですか?」
今日からとか・・・随分急だなぁ。
まあ、テスト終わったし、県のコンクールまで時間があるから、いいか。
「えっ、うん。まあ、いいよ。」
「良かったぁ。あ、あの、ケータイのアドレス、聞いていいですか?」
閑谷さんが、ほっとしたように、笑顔を見せた。
授業やコンクール以外で、誰かとこうして音を合わせるのって久しぶりだな。
昔は、よく、ジャズバンドのおじさん達と一緒にジャズを演奏したりしていたけど。
誰かと合わせる音というのは、自分一人で演奏するのとは、全然違う。
お互いの音を合わせなきゃいけないのは大変だけど、
相乗効果で音が良くなったり、華やかになったりする。
閑谷さんとは、どうだろう。
子供達にも楽しんで貰える演奏ができればいいな。
そんなことを思いながら、私は、彼女とケータイのアドレスを交換した。
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久しぶりに音楽科の練習室に行く。
そこにいたのは、閑谷さんだけではなく・・・
「あれ?音海さんも飛鳥に呼ばれたの?」
なんと、森君もいた。
「え、な、なんで森君が・・・と、いうか、二人って知り合いだったんだ。」
「ああ。僕ら、幼馴染なんだ。幼稚園の頃から親が仲良くて。」
「そ、そうだったんだ・・・」
なんとまあ・・・世間って狭いんだなぁ。
・・で、でも、どうしよう。
もし、この事が城之内さんにバレたら面倒なことにならないかな・・・。
いや・・・・気にしても仕方ないか。
それより、練習に集中しないと。
「アンコールでやる曲、どうしようか?」
森君が楽譜の本をめくりながら、そう言った。
私も、来る途中、図書館で借りた子供向けの楽譜の本をめくってみる。
「ええっと、ネズミーランドのエレクトロン二カル・パレード・・・は、楽器が足りないですよね・・・」
「シプリの「君をのせて」はどう?」
「でも、子供が聞く物だし、もっと明るい曲がいいんじゃないかな。となりのトドロとか。」
「あ、それ、いいと思う。一緒に歌ってくれそう。」
「私も、賛成です・・・それじゃあ、決まりですね。
後、それから・・・ピアノとヴァイオリンとチェロの三重奏用に編曲しないと・・・ですね。」
・・・うう、それが一番の頭が痛い所だ。
これがヴァイオリンのソロなら私が主旋律で、閑谷さんが伴奏で、
森君が低音っていう感じになるんだけど、そうもいかない。
お互いの見せ場も作らなきゃいけないし・・・。
「そういえば、飛鳥、ピアノトリオの曲はやらないの?
折角ヴァイオリンとチェロと鍵盤の構成だし、本格的なピアノトリオもやってみたいなって思うんだけど。
確か、主催者の木谷さんも、クラシックの曲をたくさんやってほしいって言っていたし。」
森君が目を輝かせながらそう言った。
「えええっ・・・・そ、そんな・・・だって、練習する時間ないよ・・・。」
確かに、10日くらいしか練習する時間がない上に、他の曲もある。
今からピアノトリオをやるって言っても・・・仕上がるのかなぁ。
「ベートーヴェンの「大公」なら僕と飛鳥でやったことあるだろう?あれならいいじゃないか?」
「で、でも・・・音海さんもいるし・・・」
閑谷さんが、躊躇いがちに私を見る。
ベートーヴェンの大公かぁ。
正式名称はピアノ三重奏曲第7番変ロ長調作品97。
ベートーヴェンがルドルフ大公に献呈した曲で、ピアノトリオには必須のレパートリーとなっている曲だ。
「・・・全部は無理だけど、第一楽章だけならなんとかするよ。」
「ありがとう。音海さん。一度音海さんと音を合わせたかったんだ。」
森君が嬉しそうに笑った。
閑谷さんもほっとしたように笑う。
・・・言ってしまったからにはやらなくてはいけない。
まあ、他の曲は簡単な曲が多いし・・・弾いた事ある曲ばかりだから大丈夫だろう・・・・たぶん。
まあ、わたしもピアノトリオ初挑戦だし、たまにはこういうのもいいよね?
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「ごめん、ここで練習していいかな?」
翌日の昼休み、私は、ご飯を食べた後、皆にそう聞いた。
「うん?いいけど・・・テストおわったんじゃないの?」
千鶴が首をかしげながらうなづく。
「来週の日曜に学生ボランティアで演奏会があるの。
そこでね、ベートーヴェンの大公をやることになって・・・」
「へえ、大公やるんだ。」
美和君が、興味深そうに私を見る。
「ね、大公って何?」
「ベートーヴェンのピアノ三重奏のことだね。
昔、ルドルフ大公に献呈したと言われる曲だ。・・・とても優雅で気品のあるいい曲だよ。」
千鶴が、酒井田君に聞いて、酒井田君が答える。
「・・・酒井田君、普通科なのによく知っているね。」
「ははっ、僕はロックだけではなく、この世の音楽全てを愛しているからね・・・。
特にクラシックは、祖父が好きでね。よく聞いているんだ。」
「そ、そうだったんだ。」
まあ、何にしても、普通科の人にクラシック聞いている人がいることは嬉しい。
この学校は、学科ごとに壁があるような気がして、
お互いがお互いを罵る光景はよく見るけど、尊重し合う光景ってあまり見ないから。
「圭はホント、クラシック詳しいよねー。ウチなんか全然聞いてないから分からないもん。
今度、大公がどんな曲が聞いてみるね。
他には何か演奏するの?」
千鶴は、私と友達になってから、少しずつクラシックを聞いているらしく、
私の演奏した曲は全部CDで聞いているらしい。
「今までクラシックとか敷居が高いって思っていたけど、全然そんなことないんだねー。」
ってこの間千鶴がメールで言っていて、嬉しくなったのを覚えている。
「えーっと、キラキラ星に、アヴェ・マリア、カボット、歌の翼に、アマリリス・・・
それから、となりのトドロかな。」
「えーっ!キラキラ星ってあの、『きーらーきーらーひーかーるー』っていうキラキラ星?」
千鶴が、かなり驚いたように声を上げる。
「うん。そうだよ。まあ、正しくは、モーツァルトのキラキラ星変奏曲だけどね。」
「えっ!あれってクラシックだったの?」
「・・・えーっと、モーツァルトがね、当時流行っていた恋の歌を元に書いたから・・・
厳密に言うと、違うかな。」
「えっ?えっ?あれ、恋の歌だったんだ・・・・」
千鶴が目を白黒させながら言った。
・・・まあ、今では替え歌である童謡の方が有名だから、知らないのも無理はない。
「そうだったんだー。ひょえー・・・知れば知る程知らないことばかりだねー。
あ、練習の邪魔してごめんね。がんばってね!」
千鶴がそう言って、軽く手を振った。
・・・こんな風に、普通科も音楽科も関係なく、歩み寄れる日が来ればいいのにな。
私は、そんなことを思いながら、大公の楽譜を準備しはじめた。
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翌日、練習室に行くと、閑谷さんが泣いていた。
「ううっ・・・」
号泣、という感じでぼろぼろ泣く閑谷さん。
森君はクラス委員の仕事で少し遅くなるって言っていたので、今はここにはいない。
「ど、どうしたの?」
私は、慌てて、カバンからハンカチを取り出して、閑谷さんに駆け寄る。
本当は、私より、付き合いの長い森君に話を聞いて貰った方がいいんじゃないかと思うんだけど・・・
かと言って、彼女を放っておくことはできない。
「あ、音海さん・・・・。
音海さんは・・・中学時代、実技の成績振るわなかったって本当?」
何を言い出すかと思ったら、そんな事・・・
彼女が泣いていることと、何の関係があるんだろう、と思いながら、事実なのでうなづく。
「・・・わたし・・・期末テストでピアノ専攻の実技・・・一番下の順位だったんです。
中間テストもあんまり・・・成績良くなくて・・・。
今日、いつもお弁当一緒に食べている子が、「もう一緒に食べない」って言って・・・」
―――ああ、と私は、状況を理解した。
高校生になって、三ヶ月が経った。
中間テストと期末テストが終わり、音楽科の力関係も決定してくるころだ。
・・・そう、結果を出しているものは力を持ち、ないものは貶められる。
それは、まるで江戸時代の身分制度や、カースト制度のようなピラミッド型の封建制度に近い力関係。
成績が良くならない限り、ずっと、力のないものは色々言われるのだ―――
「ど、どうしよう。一人になるのが、怖い・・・・。わ、わたし、この先ずっと・・・一人のままなんですか?」
閑谷さんは、怯え切った目で私を見る。
・・・わたしは、元々大勢でいるのが苦手だから、あまり一人を苦だと思わないけれど。
それでも、ずっと一人で音楽を奏でていた中学時代は、辛かった。
誰も一緒にいてくれない、本当の孤独。
それは、学校という狭い世界にいる私にとっては、世界中で一人ぼっちになったような感覚で・・・・
常に胸に昏い影が差し込んでいて、寂しくて。
「・・・残念だけど、音楽科は、結果が全てだから。」
私がそう言うと、彼女は絶望したような顔を見せた。
「そ・・・そんな・・・・」
「・・・たぶん、そういう人達を助ける為に、普通科への転学制度があるんだと思うよ。」
―――今なら、分かる。どうしてこの学校に転学制度があるのか、ということが。
成績を悪い人を落とす、のではなく、
きっと・・・そういう人達に環境を変えてまた頑張るチャンスを与える為なんだろう。
「普通科なんて!!だって、やっと、頑張って憧れの音羽学園の音楽科に入れたのに!」
閑谷さんは、彼女らしくない、大きな声で叫んだ。
「嫌よ!普通科なんて、転学したら・・・なんて言われるか・・・・」
―――そうなんだよね。
音楽科にいる人たちにとって、普通科に転学することは、屈辱以外の何物でもなくて。
「チャンス」のはずなのに、「人生が終わった」と思ってしまう。
・・・私も、以前はそうだった。
だけど、普通科の美和君や千鶴達と接しているうちに、
段々考えが変わってきて、最近、その事にようやく気づいたのだ。
「・・・普通科も悪いところじゃないよ。
クラシックを分かってくれている人や、興味を持とうとしている人もいるから。」
「・・・えっ、そう・・・なんですか?」
閑谷さんが、意外そうな顔で私を見る。
「うん。」
「・・・・だとしても。やっぱり・・・わたしは、音楽科で頑張りたいです。
だって、やっと・・・庸助君に、追いついたから。」
庸助君というのが、一瞬誰の事か分からなかった。
・・・えっと、確か、森君の下の名前って、庸助、だったっけ。
「あのね、わたし、小さい頃から、ずっと・・・彼に憧れていたんです。
庸助君は、いつもチェロが上手くて、わたしは・・・あんまりピアノが上手じゃないから・・・
幼馴染だけど、雲の上のような存在だったんです。」
閑谷さんは、遠い目をしながら、そう語る。
「庸助君が音羽学園に入ってから・・・ずっと、そこを目標にやっていて・・・
ようやく入る事ができたんです。
だから・・・転学なんて、したくない。ここで、頑張りたいんです。」
彼女は、強い目で、そう言いました。
―――私は、彼女のことも、森君のことも、よく分からないけれど。
閑谷さんが、どれだけ強い気持ちでこの学園に来たのか、その言葉だけで、よく分かった。
「教えてください、音海さん。どうしたら・・・成績が上がりますか?」
「えっ、うーん・・・・。」
これは困った。
どうしたら、って言われても、私は、何もしてない。
ただ、周りが勝手に私の演奏に高評価をつけているだけで・・・そんな特別なことはしてない。
でも、何とかして、彼女の力になってあげたい。
私も、中学時代、すごく苦しんでいたから、気持ちは分かるし・・・
「特別なことはしてないよ。でもね、他のジャンルの音楽を聞いて、刺激を受けたから・・・なのかな?」
「他のジャンル?」
「あのね、私の友達がね、ロックバンドやっているんだ。夜明け一番星っていうの。」
「ろ、ロックなんて・・・・そんな野蛮な音楽聞いているんですか?」
や・・・野蛮?
確かにクラシックよりは激しいけど・・・・野蛮ってことはないような・・・・。
「音楽は音楽だよ。そんな怖がるようなものじゃないって。」
私がそう言って笑うと、閑谷さんはしばらく、考えるような仕草をして、
「私も・・・・ロックを聞けば・・・・変わるんでしょうか・・・。」
「うーん・・・・どうだろう・・・・。ちょっと、わからないな。」
あくまでもこれは私の場合であって、閑谷さんにこの方法が当てはまるかは分からない。
「まあ、でも、気分転換に聞いてみるのはいいんじゃない?
えーっと・・・ライブの予定はしばらくないって言っていたから・・・・。
今度、練習を見せてもらえるか聞いてみるね。」
私がそう言って笑うと、閑谷さんも安心したように笑った。
でも・・・・この件がとんでもないことに発展するなんて・・・・
その時の私には想像付かなかったのである。
END