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7話 千鶴の音

コンクールが終わった次の日、千鶴から一通のメールが来た。



「放課後、空いてる?ヒマなら普通科の屋上に来て!(>人<;)」



何だろう?と首をかしげながらも、「いいよ」と返信した。



相談事・・・なのかな?




それなら、ちゃんと千鶴の役に立たないと!

千鶴にも、恩返ししなきゃね。



-------



放課後、私は、授業が終わるなり、屋上へ来た。



「あー!奏!待っていたよー!」



千鶴は何故かアコースティックギターを持ちながらMP3プレイヤーで音楽を聞いていた。


ギター?千鶴はベース弾きだったはず・・・だよね?

何でギターなんだろう?



「そういや、コンクールどうだったの?」



「あ、えっと・・・・あのね、何だか良く分からないけど、トップの成績取っちゃったの。」




そう、今日の昼休み、コンクールの結果が発表されたのだけど、

何故か私が、一番いい成績となっていたのだ。



自分の見た物が信じられなくて、

先生に「誰かと名前間違ってませんか?」と聞いたら、先生に笑われてしまった。



「いや、他の人にもそういうこと聞かれたけど、本人がそれを聞くとは思わなかったよ。

間違いじゃないよ。音海さんが一番だよ。」



今でも、その結果は全然信じられない。



でも、結果を信じてないのは、一部の人たちと私くらいだったようで、

他の人達は「やっぱりあんな演奏されたら勝てねーよな」と言っていた。




まあ、確かに、ここ最近では一番いい音が出ていたと思うけど・・・



それでも、コンクール的に一番で良かったのだろうか?

だって、中学時代は毎回ビリだったのに、いきなりトップって

漫画でもありえない展開なワケで・・・・・。



今でも、何か絶対、間違いだと思っている。



「あ、やっぱり?ヴァイオリンのことはよく分からないけど、

奏の演奏が一番良かったと思うもん!・・・贔屓目を抜きにしてもね。」



「・・・・ありがとう。」



「?あんまり嬉しそうじゃないね?」



「・・・なんか、実感湧かなくて。夢を見ているというか、狐につままれているっていうか・・・」



「なーに言ってんの。夢じゃないよ。」



千鶴は、ゲラゲラと声をたてて笑った。



「あ、そうそう、今日呼んだのはね、奏に相談があって。」



「そ、相談?」



「そう!あのさ、ウチらこの間ライブやったじゃん!

それで思ったんだけど、朝音の曲ってなーんか暗くない?」



「・・・・言われてみればそうだね・・・」



確かに、彼の曲は底抜けに明るいという曲はなかった気がする。



「ウチさ、思うんだけど、もっとさ、お祭り騒ぎみたく騒げる曲とか、

あと、胸をきゅんとさせるようなラブソングとかも必要だと思うんだよね。」



・・・・まあ、確かに、彼の曲にはお祭り騒ぎな曲もラブソングない。

でも、それを美和君が歌っている所は・・・あんまり想像出来ないかな。



「やっぱ、世間はそういう曲を求めているんっすよ。

今のままじゃ、一部の人にはウケるかもしれないけど、多くの人にはウケないし。

ウチら売れたいって思っ てやっているからさ、もっと明るい曲を増やそうって朝音に言ったの。」



・・・ロックのことはよく分からないけど、千鶴がそう言うのなら、そうなんだろう。



明るい曲・・・聞いていて思わずノリノリになるような曲・・・・。


それを、美和君が歌うところを想像すると、なんか笑ってしまう。ミスマッチだね。



それに、美和君が愛を歌っているところなんて、全く想像できない。



なんとなくだけど、彼は恋とか愛とか興味ないような気がするから。




「そしたらさー!朝音のやつ、何て言ったと思う?

「努力はするけど、そういった類の曲を作るの苦手だからお前も作れ」って言ったのよー。」



はあ、と千鶴は大きなため息をついた。



「千鶴、曲、作れるの?」



「まー、一応は。昔さ、夜明け一番星の前にバンド組んでいてさ、

そこではウチが曲作っていたんだよね。」



「え、すごい!聞かせて!」



私が頼むと、千鶴は困った顔をした。



「いやー、とてもじゃないけど、朝音のようにすごい曲は作れないよ・・・。

さっきまで昔の曲聞いていたけど、人様に聞かせられるよーなもんじゃないか らー。」



「いいよ。千鶴の音聞きたい。聞かせて欲しいな。」



人には人の数だけ音楽がある。

私の音楽と美和君の音楽が違うように、千鶴には千鶴の音楽がある。



不恰好でもいいから、千鶴の音楽を聞いてみたい。



千鶴は、しばらく、「うーん・・・」と考え込んで、MP3プレイヤーにささっているを差し出した。



「それじゃ、一曲だけ。」



恥ずかしそうに、千鶴はイヤホンを差し出す。

私は、それを受け取って耳にはめた。



―――貴方はもういないのに、あたしは貴方を探してしまう。

あたしの中の思い出のカケラ集めて、夢の中で逢えたら・・・

夕暮れの闇があたしを包んで 夜に堕ちていく・・・・



「キレイな曲だね。」



しっとりとしたキレイなラブソングだ。

胸に静かに響いて、ちょっと切なくなる。



「その曲はね、初恋の人に失恋した時に、書いたんだ。」



千鶴が懐かしそうに言った。



「でもさ、朝音ってこういう曲、好きじゃないよね?ウチのバンドにも合わないだろうし。

だからさ、奏にウチのバンドらしい曲を相談しようって思って・・・・」



「この曲でもいいと思うよ。」



私の言葉に千鶴は目を丸くした。



「美和君、たぶんダメって言わないって思うけど。」



「そ、そうかな・・・」



不安そうな千鶴に、私は、力強くうなづいてみせる。



「うん、そうだよ。美和君は、どんな音楽でも、いいものはいいって言えると思う。

彼は、純粋にいい音楽を届けようとしているから、バンドに合わなくても、やろうって言うと思うよ。」



「・・・ありがと。なんか、奏はすごいね、朝音のこと、ウチより分かっている気がする。」



そうかな?でも、確かに、彼のことは自然と理解出来るような気がする。



テレパシーのように、不思議と分かってしまうのだ。




「・・・同類だから、かな?」



「は?どうるい?」



千鶴が、唖然とした顔をする。



「いやいやいや!奏と朝音が同類とかありえないって!全然違うよ!」



千鶴は全力で首を降る。



「・・・・そう?」



まあ、確かに、私と彼は性格も全然違うし・・・同類というのは違う・・・のかな?




―――それじゃあ、何で私は、彼のことが自然とわかるんだろう。



・・・私の思い込み、なのかな?




でも、美和君も同類って言っていたし・・・。




―――それじゃあ、何なんだろう?



「ウマが合うってだけなんじゃない?同類違うと思うけどなぁ。」



・・・ウマが合う。そうなのだろうか。



千鶴が言うのなら、そうなのかな?



「まあ、でもちょっと奏が羨ましいよ。

ウチなんか喧嘩とかさ、悪口ばっか言い合っているし。」



「でも、それは、千鶴と美和君が仲いいからじゃない?美和君が遠慮しないだけだと思うよ。」



「そうなんだけどさー、別に、女扱いしろとは言わないけど、

ほら、たまには、女の子扱いして貰いたい時とかあるじゃん?」



「・・・まあね。」



「あー!もう!そんな事言っていたら歌いたくなっちゃった!何か歌おうかな!」



千鶴はジャカジャカとアコースティックギター鳴らす。



「千鶴、ギター弾けるの?」



「下手くそだけど、一応ね。それじゃあ、一曲。」



千鶴は、アコースティックギターを鳴らして歌い出した。

歌はうまいのに、ギターは物凄い下手くそな音がして。


そのミスマッチさに、声を出して笑ってしまった。




千鶴の即興ライブの音は、ガラクタのようにガタガタしていて、

その中に、キラリと光る宝石の原石だあった。





END


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