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54話 遊園地デートの落とし穴

6月も中盤に入った。

梅雨が始まり、通学路の紫陽花がだんだん綺麗に咲いてきている。



「おはようっ、奏ちゃん!」



朝の通学路で飛鳥が声をかけてきた。



「おはよう、飛鳥。」



「ねえねえ、今日の朝のテレビ見た?」



「うん、見た見た。」



「すごいね!本当に「夜明け一番星」の曲がCMで流れていたねー。」



飛鳥がまるで自分のことのように喜びながらそう言った。


そう、夜明け一番星のデビュー曲が超有名なCMのタイアップが決まったらしく、

今日はそのCMの放送開場日なのだ。



CMには朝音達は出ていないけど、曲とCMの内容がマッチしていて、いいCMだった。




「きっと、デビュー曲売れるんじゃないかなぁ・・・楽しみだね。」




その飛鳥の言葉通り、

夜明け一番星のデビュー曲はデビューしたての新人としてはなかなかの好セールスを記録した。



朝音にメールでおめでとうと言ったら、

彼は「ま、当然でしょ。俺の作った曲だし」というクールな返事が返ってきた。


----------


8月中旬。

私は朝音と遊園地に行く約束をしていた。



初めての遊園地デート。楽しみ・・・なんだけど、一つだけ不安なことがある。



そう、それは、朝音のことだ。



夜明け一番星のデビュー曲が売れている為、

夜明け一番星は音楽番組だけではなく、

今やニュースやドキュメンタリー、バライティなど沢山のテレビやラジオ番組や雑誌で

特集されるようになった。


おかけで、朝音も大忙しらしく、最近全くと言っていい程、メールやLINEの返事が返ってこない。



・・・今日のデートの待ち合わせ時間を書いたメールだけが届いたので、

今日はデートが出来る・・・と思うんだけど、大丈夫なのかなぁ・・・。



そもそも最近、夜明け一番星の世間の注目度がアップしている中で、

デートなんかして大丈夫なのだろうか。

朝音は写真撮られても平気・・・って言っていたけど、

デビューしていきなりスキャンダルとかやっぱり良くないよなぁ・・・。




・・・と、まあ、色んなことを考えながら、私も何だかんだで待ち合わせ時間に来てしまった。

一応、カンカン帽に伊達眼鏡で変装をしているので大丈夫だろう・・・。



待ち合わせ場所に行くと、もう既に朝音がいた。

彼は黒のポロシャツにジーンズというかなりシンプルな格好で待ち合わせ場所に立っている。



「ねえ、あれ・・・もしかして、ほら、夜明け一番星のボーカルじゃない?」



「まさかー!似ているだけじゃない?」



私の隣にいる中学生らしき女の子二人組が遠巻きに朝音を見ながらきゃあきゃあ言っている。


まずい。朝音、全く変装とかしてないし・・・も、もし、バレたらと思うと、彼に声をかけられない。



「あ、ねえねえ、こっちに来るよ?」



隣の女の子のその言葉ではっとして朝音を見ると、彼は一直線にこっちにむかってきていた。



「どうしたの?奏?眼鏡なんかかけて。」



朝音が不思議そうな顔をして私の眼鏡を取り外した。


中学生らしき隣の女の子達の視線を感じる。

「ねえ、声の感じとか似ているよね・・・」という声が聞こえる。やばい。



「な、何でもないっ。さ、行こう。」



私は慌てて朝音の腕を取ってその場を離れた。



「何。もしかして、バレるの怖いの?」



朝音がニヤニヤ笑いながらそう言った。



「俺は別に騒ぎになっても構わないけど。」



・・・・朝音はいつもそうだ。



私が困るの知っていて、わざと人前で見せつけるようにキスをしたり、抱き締めたりする。

たぶん、今回もそうなんだ。恥ずかしがる私を見てからかいたいんだろう。



「もうっ。朝音ったら。」



私は精一杯彼を睨んでみるけど、彼はニヤニヤ笑うだけでまるで反省している様子はない。



「いや、こんな可愛い彼女がいると周りに見せつけたくってな。」



本当にこの人はもう・・・・。



私は呆れたようにため息をつくが、彼はずっとニヤニヤしている。

なんだかんだ言いながらも、この小学生のようなニヤニヤ笑いを見ると、私も強く嫌って言えなくなる。



付き合ってから、朝音は本当に変わったと思う。


前は素直に自分の気持ちが言えなかったのに(今でもそういう時はあるけど)

今ではかなり素直に言うようになった。



こういう付き合う前には見られなかった変化を見るのが最近のちょっとしたマイブームになっている。



「それにしても、遊園地なんて珍しいね。朝音、子供は嫌いって言ってなかったっけ?」



「うん、嫌いだけど?」



「・・・じゃあ、何で遊園地なの?たくさん子供いるじゃない。」



「・・・俺と遊園地行くのやだ?」



「・・・・いやじゃないけど・・・」



何だろう。何か話をはぐらかされているような気がする。



・・・気のせいかな。



「じゃあ、いいじゃん。俺が奏と遊園地楽しみたいの。」



・・・私も朝音と遊園地を楽しみたいのは同じだけど・・・



何だろう。なんか朝音が変な事を企んでいるような気がする。



・・・気のせいかな。気のせい、だよね。



私は無理矢理自分を納得させながら彼と一緒に遊園地へと向かった。



---------



遊園地はとても楽しかった。

遊園地になんて行くのは小学校の時以来だったから、久しぶりに童心に返って楽しめた。




だけど。




遊園地デートから二週間した新学期の日、私はとんでもない事を知ることとなる。



「おはよう、奏ちゃん!」



「おはよう。」



新学期、下駄箱で飛鳥と会った。


私は靴を脱いで飛鳥の元へと小走りで向かう。



「ねえねえ、奏ちゃん・・・昨日発売のウエンズディ見た?」



ウエンズディとは有名なゴシップ誌だ。


すごく嫌な予感を感じながら、私は首を振った。



「ウエンズディ?見てないけど・・」



「あ、あのね、これ・・・」



飛鳥は鞄の中からウエンズディを取り出して、私にある記事を見せてくれた。



そこには「今CMソングで話題の夜明け一番星ボーカル美和朝音のデート現場を激写!

お相手は同じ学校のヴァイオリン奏者音海奏!」という見出しと、

私と朝音の遊園地デートの写真が載っている。



その記事を見て、心臓がバクバク鳴る。



動揺で記事の内容が頭に入らず、記事の見出しと、写真だけが脳内に強くインプットされていた。



「・・・・小さな記事だけど・・・。

結構ネットで話題になっているみたいで・・・

その、遊んでいるとか・・どうせ別れるだろとか・・・・嫌なことばかり書かれているの。

奏ちゃん、事務所の人から何か言われた?」



私は黙って首を降る。



「・・・美和君は、何か言っていた?」



「ううん、初めて知った・・・」



恐れていたことが、現実になってしまった。



・・・もし、この記事を読んだら、私の両親は・・・・・

朝音は、大丈夫だと言っていたけど・・・それでも、両親への恐怖の方が気持ち的に勝る。



血の気がさーっと引いて行くことを感じる。



「奏ちゃん?顔色悪いよ?だ、大丈夫?保健室行こうか?」



「だ、大丈夫・・・。大丈夫だから・・・」



私は首を振って、出来るだけ大丈夫なように明るく笑って見せた。



飛鳥が不安そうな顔をしながら私を見る。



「奏ちゃんが大丈夫というならいいけど・・・無理はしないでね。」



「うん・・・・」



その時、鞄の中でケータイのバイブが鳴った。

鞄からケータイを取り出すと、事務所のマネージャーさんからだった。



「あ、マネージャーさんだ・・・。ごめんね、電話出るね。」



私は飛鳥に断りを入れてから電話に出た。



「もしもし?」



「もしもし、音海さん?昨日のウエンズディ見たかしら?」



マネージャーさんは慌てたような感じだった。

少なくとも怒っている様子はない。



「あ、はい、さっき、友達が教えてくれて・・・」



「彼と付き合っているの?」



「ええ、まあ・・・」



「それなら、これから何を聞かれても「彼とは友達です」って言ってね。

絶対付き合っていることを他の人に言ってはダメよ。」



マネージャーさんが強く念を押すようにそう言った。



「で、でも・・・・。

私、嘘は付きたくないです。」



付き合っているのに、付き合ってないなんて言えない。



だって、私、朝音のこと好きだもん。

嘘なんか付きたくない。



「・・・あのね、音海さん。

貴方はまだCDは出していないけれど、芸能事務所と契約している芸能人なのよ。

芸能人はファンの人を大事にすることも仕事。

まだ若いのに彼氏がいますなんて言ったらファンががっかりするでしょう。」



私はマネージャーさんの言っていることがイマイチよく分からなかった。



私が目指しているのはヴァイオリンを弾くヴァイオリニストであって、芸能人ではない。

別にヴァイオリンの演奏に彼氏がいる・いないなんて関係ないと思う。



いいヴァイオリンの演奏が出来ればそれでいい・・・と思っているのだけど、どうやら違うらしい。



「とにかく、絶対に付き合っているって言わないで。」



マネージャーさんは強く念を押して電話を切った。




私の中でもやもやした気持ちが広がる。



―――どうして、好きで付き合っているのに皆に言ってはいけないの?




どうしてファンに正直に言ってはいけないの?

嘘を言われた方がずっとずっと傷つくような気がするのに。




「マネージャーさん、何て?」



飛鳥が心配そうに私を見ながら声をかけた。



「・・・付き合っているって言うなって。」



「そっか・・・・。奏ちゃん、事務所と契約しているもんね。」



飛鳥は納得したようにうなづいた。



「・・・・ねえ、飛鳥。どうして付き合っているって言っちゃいけないのかな・・・」



「えっ?それは・・・やっぱり、問題になるからじゃないの?

・・よ、よく分からないけど。」



そういうもん・・・なのかな。



無理矢理納得させようとするけど、胸のもやもやはスッキリしないまま。



私はメールの画面を開いてこの件を朝音にメールしてみた。

すぐに朝音から返信が返って来る。



「俺、昨日小松さんから言われて知ったよ。

付き合っているって言うなって言われたけど、俺には関係ないね。」



関係ない・・・?



なんだか嫌な予感を抱えながら、わたしはメールの返信を打ち込む。



「関係ないって、どういうこと?」



「今夜6時。俺のラジオ聞いて。」



朝音の返信にはそれだけしか書かれてなかった。

夜明け一番星はデビューの頃から始まった

毎週木曜日夜6時から30分生放送のラジオ番組を持っている。



朝音の言う「ラジオ」とはそのことだろう。



まさか・・・・朝音・・・。



朝音のメールで私の中の不安がますます大きくなった。




きっと、遊園地デート行こうって言い出したことも。

全然変装をしていなかったことも。




私たちのことを世間に言う気なのかな・・・・・・・・。



END

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