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5話 兄妹と賭け

日曜日。 初めてライブハウスという所に来た。


この町にはいくつかライブハウスがあるけど、

一番狭いライブハウス・LI-musicという所で皆はライブをやるらしい。


ここは、楽器屋さんの地下にあるライブハウスで、

何でも、ここのオーナーさんが、音羽学園の生徒たちが

気軽にライブできるようにと作ったライブハウスだ。

主に音羽学園の高等部や大学部の生徒が利用している・・・らしい。



「あ、音海先輩、先輩も来ていたんですか?」



ライブハウスに着くなり、美和君の妹・・・朱里さんに話しかけられた。


綺麗な顔立ちに、小さめの背はまるでお人形さんのように可愛い。

愛嬌のある笑顔は同性でも見惚れてしまう魅力がある。


・・・やっぱり、この二人が兄妹なんて嘘みたい。



改めて見て見ると、全然似てないや。



「・・・うん、誘われたから。」



「えっ?先輩、お兄ちゃんと知り合いだったんですかー?

むー。お兄ちゃんったら、早く言ってくれれば良かったのにー。」



「・・・美和君と、学校の話しないの?」



「お兄ちゃんったら、学校のこと、何にも話してくれないんですよ!

それに、あたしがバンドのライブ見にくるのもあんまりよく思ってないみたいで・・・・

何 でなんですかねー?」



朱里さんは不満そうに頬をぷくっと膨らませた。

そんな仕草でさえ、可愛く見えてしまうのだから、美人というのは得だよなぁと思う。



「・・・恥ずかしいから、とか?」



「ですかね?」



朱里さんは、首を少しかしげながら笑った。


その時、照明が暗くなり、SEが止まった。


ステージのはじまりだ。



大きな拍手で美和君達が登場し、楽器をセットする。

藁科君がドラムスティックでカウントをして、演奏がはじまった。




---------




夜明け一番星のステージ凄かった。

・・・いや、凄いという言葉が正しいのか分からなかったけど、

たった四つの楽器で、色んな音を出して、まるで、色鮮やかな絵画のようだった。


それぞれの曲の持つ世界観とか、雰囲気が、最大限に引き出されていて、

音楽のコンサートというよりは、まるで、長編小説を読んだ後のような、そんな気分。


ステージ上で自由自在に踊る音と、魂のこもった美和君の歌声がマッチしていて、

とにかく、すごいという一言でしか表せない。



こんなの初めて。良すぎて、全然褒め言葉も出てこないの。



そんな興奮冷めやまない気持ちを胸に、私は朱里さんと楽屋に行った。



「あっ!奏!それに朱里ちゃんじゃない!ライブ、どうだった!?」



千鶴がタオルで汗を拭きながら出迎えてくれた。



「もー!最高でしたよ!!」



「うん、すごく良かった。」



「そっかー!良かったー!楽しんで貰えたみたいだねー!」



千鶴が嬉しそうに笑う。 良かった。月並みな言葉しか言えなかったけど、喜んで貰えたみたい。



「・・・・朱里、お前、来るなぅて言っただろ。」



楽屋奥で水を飲んでいた美和君が、じろり、と朱里さんを睨みながら言った。



「だってー!お兄ちゃんの初ワンマンだもん!見に来るに決まってんじゃん!

それに、お兄ちゃんが来るなぅて言われても、チケット買っちゃったしー。」



ねーっと、言って、朱里さんと千鶴が笑い あう。

・・・なるほど。千鶴が朱里さんにチケット売ったのか。


美和君は、千鶴を睨んでいる。


・・・でも、朱里さんが見るのが本気で嫌ってわけじゃなさそう。

やっぱり、ちょっと、恥ずかしいのかな?



「お、朱里ちゃんに音海ちゃん。見に来てくれたんだ、ありがとう。」



控室のドアが開いて、藁科君と酒井田君が入ってきた。



「わわっ!し、祥太郎さん!」



藁科君を見るなり、朱里さんの顔が真っ赤に染まる。



・・・あれ?朱里さんって・・・もしかして・・・



「あ、やっぱり、分かるよね?朱里ちゃん、祥太郎に惚れてんのよ。」



千鶴が小声でそう伝えてくれた。



「あ、やっぱり?」



「なんかねー。一目惚れだったんだってー、可愛いよねぇー。」



と、千鶴が羨ましそうに朱里さんを見た。



・・・・・私は、恋とか愛とかよく分からないけれど・・・・。



でも、顔を真っ赤にしながら一生懸命藁科君と

喋っている朱里さんは、確かに可愛いかもしれない。



ふと、美和君を見ると、苦い顔をしていた。

そう、例えるなら、可愛い娘を嫁に出す前のお父さんみたいな・・・そういう類の複雑そうな渋い顔だ。



・・・そっか、美和君が、朱里さんに来て欲しくないって言っていたのは、

藁科君と喋る朱里さんが見たくなかったからなんだ。



・・・・美和君、何だかんだ言いながらも朱里さんのこと、好きなんだろうなぁ。



・・・いいな。兄妹って。羨ましい。

私にお兄ちゃんがいたなら、こんな風に大事にして貰えたのかな・・・。



私のお兄ちゃんは、産まれる前に母親のお腹の中で亡くなっている。

だから、私は、戸籍上は一人っ子なので、兄弟はいない。



だからなのかな、すごく羨ましく感じるの。





「俺、帰るわ。」



美和君がギターケースと荷物を持って立ち上がる。



「ええっ?帰るって・・・打ち上げは?」



千鶴が呆気に取られたように言った。



「しない。それより、今日のライブのビデオを見て、反省点を洗い出さないと・・・」



そう言って、美和君は、控室を出て行った。



「さすが、美和君だね。常に向上心を怠らないその姿勢・・・僕も見習わないと・・・」



酒井田君が尊敬の眼差しで、美和君の出て行った方向を見る。



「ええーっ?打ち上げなし?うっそー。」



「まあまあ、千鶴。明日も学校だし、反省点を洗い出すのも大事なことだから。」



落胆する千鶴に藁科君がすかさずフォローする。



「・・・すみません。お兄ちゃん、あんな感じで・・・」



朱里さんは、申し訳なさそうに身を縮こませた。



「いいよ。別に。朝音があんな感じなのは、皆分かっていることだから。」



藁科君が朱里さんににっこり笑いかけて、朱里さんの顔がまた真っ赤に染まった。



「・・・・それじゃ、私も、帰ろうかな。」



「えっ?奏も?」



「・・・うん、明日も学校だから。」



そっか、じゃあね、と言う千鶴に手を振って、私は、ライブの控室を出る。




・・・たぶん、急げば間に合うはずだよね。



ライブハウスを出て、少し、道に迷う。



―――そういえば、美和君の家ってどこなんだろう。全然知らないや。


仕方ないので、直感で、こっちだと思った方向を走る。




ライブハウスの前にあった坂を登った所で、美和君の背中が見えた。



「美和君!」



私は、大きな声で美和君を呼ぶ。


美和君が、立ち止まり、くるりと、振り向いた。



「・・・追って来たの?」



「うん、えっと、お礼を言いたくて・・・」



「は?お礼?」



美和君の表情が曇る。



「別に、俺は何もしてないけど?」



「そんなことないよ!夜明け一番星のステージ見て良かった。

本当にすごいステージだし・・・心がね、音楽で満たされて、幸せなの。

だから、いいパフォーマ ンスをしてくれて、ありがとうって、言いたくて・・・・」



美和君は、何も言わずにじっと私の話を聞いていた。


私の話が終わった後、少し、渋い顔をしながら、



「・・・なんだ、そんなこと。別に、言葉にして言わなくていいじゃん。恥ずかしい奴。」



と、ぼそぼそと言った。



「・・・恥ずかしくてもいいもん。私は、お礼を言いたかっただけなんだから。

音楽を聞いて、こんな気持ちになったのって、すごい久しぶりだったし・・・」



「やめてよ。俺がいい事したみたいじゃん。」



「そうだよ!私にとっては、すごく意味のあることだったよ!

美和君が呼んでくれて良かった。バンドの音を聞いて良かった。

最近ね、私、ようやく、いい音が 出るようになったんだ。

・・・まだ、過去の自分は越えられそうにないけどね。」



「あっそ。」



美和君は気のない返事をする。



たぶん、これは、美和君の照れ隠し。

彼の不器用さが微笑ましく感じる。 たぶん、笑ったら怒られるだろうけど。





「あのね、私、賭けに出ようって思うんだ。」



「賭け?」



「今度のコンクールの自由曲、先生が推薦してくれた曲じゃなくて、

自分で弾きたい曲を弾こうって思うんだ。」



「・・・それ、まずいんじゃない。」



「そうだね。私、ほら、中学時代の成績良くなかったからさ、

奨学金取りやめになっちゃって。崖っぷちなんだ。

しかも私の弾きたい曲は先生のより難易度低いし・・・。

そんなことして、結果出せなきゃ、普通科に行 くことになると思う。」



この学園の音楽科は、そういうとこ、ものすごくドライだ。

だけど、音楽でご飯を食べるのは本当に難しいことで、

そういう人材を育てる教育方針だから、伸びない芽は、普通科へと転学させられてしまう。


音楽科の人は、それを普通科落ちと呼んでいて、

だからなのか、あまり普通科をよく思っている人はいない。



「たぶん、普通科に行ったら、寮を追い出されるし、両親も・・・・何か言ってくるだろうな。」



「それが分かっていて、それでも挑戦するんだ?」



美和君は、私を試すように挑発的に言った。



「うん。」



私は、美和君の目をまっすぐ見て、力強くうなづいた。



「いいね。その姿勢。俺は嫌いじゃないよ。

ま、頑張ったら。お前なら、普通科に言ってもやれるだろ。」



美和君は、満足そうにニヤリと笑った。



「うん。頑張る。ありがとう、美和君。」



「・・・・だから、その、お礼言うのやめろって。俺はお前が思っているほどいい奴じゃないよ。」



「そんなことないよ。美和君はいい人だよ。」



私がそう言うと、彼は、困惑したような顔をしながら私に、背を向けた。



「お前、帰れよ。音羽学園の寮はこっちじゃないだろ。」



そう言って、早足で、すたすたと歩き出した。




私は、そんな彼の背中を見えなくなるまで見送った。







--------




その夜、おばあちゃんから電話がかかってきた。



「高校には慣れたかい?」



「・・・うん。あのね、おばあちゃん、私、おばあちゃんにたくさん聞いてもらいたい事があるんだ。」



そうかい、とおばあちゃんは、嬉しそうな返事をした。



何から話そうかな。千鶴のこと、今日のライブのこと、自由曲のこと、

ヴァイオリンのこと、 美和君のこと・・・話したいことはたくさんある。




おばあちゃんに、たくさん聞いてもらいたい。



それでね、少しでも安心して欲しいんだ。

ずっと心配ばかりかけていたし、おばあちゃんは、私をこの学園に入学させたことを後悔しているから。



私は元気だよって。



友達が出来たんだよって。



ヴァイオリンがね、ちゃんと鳴るようになったんだよって。




・・・音楽を楽しめるようになったんだよって、おばあちゃんに話そう。



たくさん話をして、おばあちゃんの不安が少しでも消えてくれればいい。



ライブの後の日曜の夜は、星空がすごく綺麗で、

まるで、これから始まる未来のように、キラキラ輝いていた。



END


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