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32話 恋愛白書

今回は番外編。祥太郎の恋です。

これまで、女の子には何人も告白されてきた。

その度に「ごめんね」と断ってきた俺。



だけど、朱里ちゃんから告白されて、初めて俺はどう返事しようか悩んだ。



「祥太郎さん、あたし、祥太郎さんが好きです」



朱里ちゃんの目はまっすぐに俺を見ていた。



朱里ちゃんは、妹の理恵の友達で、親友の朝音の妹。

小さい頃からずっと朱里ちゃんを見ていたから、俺に憧れていることはだいぶ前から分かっていた。

だからいつか、こんな日が来るかなとは思っていたけど・・・。



・・・さて、何て答えよう。



今まで、女の子に告白された時は全然知らない女の子からだったから、「ごめんね」の一言で済んだ。

俺の事を想ってくれていることは有難いけど、

相手のことを全く知らないのに付き合ってもしょうがないかな、と思ったからだ。



だけど、今回は相手のことはよく知っている。



朱里ちゃんは、素直で明るくて可愛い女の子だ。

最近、すごく綺麗になってきていて、ふと笑顔に見惚れてしまう事もある。




・・・だけど、これは恋、なのだろうか。




この気持ちが恋なのかどうか、確信が持てない。

だから、俺は何て答えていいのか分からなかったのだ。



「・・・ごめん、ちょっと考えさせて。」



悩んだ末、俺は、返事を保留することにした。



朱里ちゃんは一瞬だけ、悲しそうな顔をした後、「じゃあ、待ってます。」と綺麗に笑った。




ズキン・・・。




何故か、胸がチクリと傷んだ。




-------



「ちょっと祥太郎!放課後空いてる?」



放課後、千鶴が俺のクラスに来た。



「・・・どうしたの?彼氏と何かあった?」



千鶴が俺のクラスにまでくる時はだいたい彼氏と何かあった時だ。

その度にいつも俺は千鶴の話を聞いていたので、今回もそうではないかと思ったのだ。



「違うっ!祥太郎、今日朱里ちゃんに告白されたでしょ!?その件!」



「えっ、ちょっと・・・何で千鶴がそれを・・・」



千鶴の言葉に俺は内心焦った。

どうして千鶴がそれを知っているのだろう。



「いいから!ほら!行くよ!」



と千鶴に手を掴まれて、ぐいぐい引っ張られる。

千鶴は小さいくせに力持ちで、俺は千鶴が引っ張られるままに歩いて行った。



-------


千鶴は中庭のベンチまで俺を連れて行くと、まず、ベンチに俺を座らせて、



「何で保留にしたの?」



と、俺を真っ直ぐな目で問い詰めた。



千鶴の視線が痛くて、俺は思わず視線をそらしてしまう。



逃げられない。



ここで適当に誤魔化したら千鶴は怒るだろう。



「・・・いや、だって・・・俺、朱里ちゃんのことは可愛いって思うけど・・・

好きなのかどうかは分からないから・・・」



だから俺は、正直な気持ちを千鶴に打ち明けた。



「はー・・・もう!祥太郎は人のこと考えすぎだよ。」



千鶴が呆れたようにため息をついた。



「そうかな?」



「そうだよ!いつもいつも!可愛い女の子ばかりに告られているのに、ぜーんぜんなびかないよね。」



どうして千鶴がその事を知っているのだろう。


俺、別に女の子に告白されても千鶴に言ったことないんだけどな。

「千鶴の情報網は侮れないな」、と言って俺は、思わず苦笑いをした。



「うーん、だって、全然知らない人だったから・・・それなのに付き合うのも失礼かな、って思ってさ。」



「・・・うん、紳士なのは素敵な事だと思うけど、

何のために「まずはお友達から」って言葉があるのよ!どーして使わないの?」



「いや、少しでも気を持たせるのも悪いかなぁ・・・って思って。」



はー、と千鶴は深いため息をついた。



「この草食男子めっ。

それで何人の女の子を泣かせてきたのやら・・・ホント、祥太郎って罪作りな男だよね。」



千鶴が怖い顔でじろりと睨んだ。




・・・そうなのだろうか。




自分ではよく分からない。

今まで告白を断った女の子達も出来るだけ傷つけないように断ったつもりなんだけどな・・・。




「話を戻すけどさ、祥太郎、朱里ちゃんのことどう思ってんの?」



「どうって・・・」



返事に困るような質問だな。

自分の気持ちがよく分からないのに言葉になんて出来ないんだけどな。



「・・・好きか嫌いかで言えば好きだよ。」



「そういうことを聞いているんじゃないの。」



千鶴がますます眉間に皺を寄せた。



「・・・じゃあ、祥太郎はさ、いつも女の子をフっているのに、どーして今回は保留にしたわけ?」



「いや、知っている人から告白されたの初めてだから・・・どうしていいのか分からなくて。」



「好きだったら好きって言っちゃえばいーじゃん。何がひっかかっているのさ?」



確かに千鶴の言うとおりかもしれない。




好きだったら好き。付き合いたくないのなら、断る。




その方がシンプルだし、答えを出してしまった方が朱里ちゃんの為にもなるだろう。



なのに、どうして今、俺は、答えを出せないでいるのだろう・・・。




「・・・やっぱり、親友の妹だからかな。手を出しづらいじゃん。」



「・・・朝音は、そういうの気にしないと思うけど・・・。」



「それでもさ・・・。俺が付き合って、俺だけが幸せになるのも気が引けるし・・・」



「祥太郎は、ホント、優しいんだねぇ。」



千鶴は感心したような顔でうなづいた。



「大丈夫でしょ。朝音はちゃんと祝福するよ。

あいつは奏しか見てないから大丈夫、大丈夫。

これで、祥太郎が奏が好きって言ったら話が違ってくるけどね。」



「・・・それもそうだね。」



俺がうなづくと、千鶴も無言でうなづいた。



「それで、ぶっちゃけさ、祥太郎。朱里ちゃんのこと、好きなの?」



「・・・分からないよ。俺、朝音のように音海ちゃんしか見えないような状態じゃないし・・・でも・・・」



「でも?」



「最初はね、妹みたいなものだと思っていたんだ。理恵の友達だったからね。

でも、朝音が来たばかりの時、朱里ちゃんにさ、朝音のこと相談されたことがあって・・・」



そう、あの時、「お兄ちゃんと留守番するのが嫌だ」と言っていた朱里ちゃん。

そんな朱里ちゃんにあいつはビートルズの話をするといいよ、とアドバイスしたことがある。



「俺がアドバイスした後に「ありがとうございます!」ってすごいキラキラした顔で笑ったんだ。

それから、可愛いなあって思うようになって・・・・。

朱里ちゃんがいると、どうしても彼女の方を見ちゃうんだよね。」



そう、なんでなのかは自分でも分からないけれど・・・・

あの時から無意識に彼女のことが気になるようになったんだ。



「あー。それ、恋だよ。」



千鶴が呆れたような目でそう言った。



「・・・そうなの?」



千鶴があんまりにも簡単に、俺の気持ちを恋と言うので、俺は首をかしげながら千鶴に再確認した。



「うん。だって、朱里ちゃんのことが他の女の子よりも可愛く見えるんでしょ?」



「・・・うん。」



「だったら、それ、立派な恋だよ。」




・・・そうだったのか。




この気持ちが恋なんだ・・・。





何だか不思議だ。


さっきまでは自分の気持ちがよく分からなかったのに、

千鶴に恋と言ってもらって、ようやく自分の気持ちが整理出来たような気がする。




・・・うん、俺、朱里ちゃんのこと、好きだ。




千鶴が俺の背中を力強く叩いた。



「ほら!自分の気持ちも整理出来たことだし、さっさと朱里ちゃんに答え返してあげなよ!」



千鶴に背中を押されて、俺は、ベンチから立ち上がった。



「・・・ありがとう。千鶴。」



俺は、千鶴の方を見て、お礼を言った。



「なーに言ってんの。

祥太郎にはいつも愚痴聞いてもらっているじゃん。お互い様だよっ。」



千鶴はそう言って笑った。



俺は、千鶴に手を振って、音楽科の棟へと走り出す。



朱里ちゃんは、この時間はおそらく練習室にいるのだろう。




俺は、音楽科の練習室棟の窓から朱里ちゃんを探した。




―――いた。




一階の端っこ。朱里ちゃんは一人でオルガンを弾いていた。





俺は、窓を叩く。




朱里ちゃんの手が止まり、びっくりしたような目で俺を見た。




朱里ちゃんが、窓を開ける。



「祥太郎さん!どうしたんですか?」



朱里ちゃんの大きな瞳が俺を映す。


その瞳に吸い込まれそうになった。



「・・・好きだよ。」



「・・・えっ?」



朱里ちゃんの瞳が驚いたように見開いた。



「・・・ごめん。俺、自分の気持ちを整理するまで時間がかかっちゃって・・・。

やっと、自分の気持ちが分かったんだ。俺、朱里ちゃんのこと、好きだよ。」



朱里ちゃんの目に涙が浮かんだ。



「本当ですか?嬉しい・・・・。」



俺は、朱里ちゃんの涙をそっと拭ってやる。



「ごめんね。保留にしちゃって。」



朱里ちゃんは無言で首をふった。



「・・・いいんです。祥太郎さんに、好きって言ってもらえましたから!」



そう言って、朱里ちゃんは綺麗に笑った。



そんな朱里ちゃんが愛おしくて、俺は、彼女に軽く口付けをする。




朱里ちゃんがちょっと恥ずかしそう顔で、俺を見る。




―――ああ、本当に朱里ちゃんは可愛いな。




こんなに可愛い子が俺を好きって言ってくれたんだ。

ちゃんと大事にしてあげよう。




―――絶対に俺が幸せにするんだ。




そんなことを思いながら、俺は、朱里ちゃんに二回目のキスをした。




END

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