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1話 運命の出逢い

この話は青春ラブストーリーです。

ぶっちゃけ、管理人の好きなものをたくさん詰め込んだ趣味全開の設定です。

メインの二人が恋愛以前の問題からはじまるので、本格的にラブ的な展開が来るのはだいぶあとになります・・・ごめんなさい・・・・!

超ゆっくりと、丁寧に心の変化を書く話となってますので、気長にお付き合い頂けたら幸いです。


あの頃は、光輝く舞台の中心で、私はたくさんの人から拍手喝采を受けていた。


でも、今は―――


-------



「おー、うちのクラス、音海奏がいるのか!」



4月。新しい出会いと生活の始まりの時。


私、音海奏は高校生になった。

クラス発表の紙が貼ってある学校のエントランスで、誰かも分からない男子生徒の声を聞いた。



「・・・お前、知らねーのかよ?音海奏は中学でダメになったって噂なんだぞ。」



その友達らしき男子生徒が、声を上げた男子生徒に向かって言った。



「えっ?マジかよ?だって、小学6年の時、あんなにすごい演奏をしていたのに?」



「・・・今は見る影も無いってさ。」



「あー、そうか。音海も大した事ない一発屋だったんだな。」




・・・・今日も、また、誰かが私を嘲笑う声が聞こえる。




・・・・またか。この学校に通ってからずっとそうだ。



私立音羽学園。

音羽市の中心にある、中高大一環の音楽の世界では抜群の知名度を持つ学園だ。



OBには、有名なヴァイオリニスト、世界的な指揮者、ミリオンヒットを飛ばしたバンドや、

国民的ブームを起こしたアイドルまで、ジャンルを問わず、「音楽」で成功した人物の名前が連なる。



「この学園に入れば、音楽で成功できる」



そんな噂が立つくらい、すごい学園で、この学校・・・

特に高等部の芸能科や音楽科に入学する人はエリートと呼ばれるくらいすごい人ばかりだ。



私は、小学六年の時、全国の音楽コンクールヴァイオリン部門で、

金賞を取り、この学校にスカウトされて、この学校の中等部に入った。



・・・・この学校に入った時、誰もが私の成功を信じて疑わなかった。



「将来は、この世界を担うヴァイオリニストになれる」



と、大人たちは口を揃えて言っていた。




だけど、私を待っていたのは――――


-----------------------



入学式が終わって、私は、ヴァイオリンを持って普通科の屋上へと向かう。


入学式が終わったとはいえ、音楽科の生徒にゆっくり学校に慣れて・・・という時間は与えられない。

すぐに春の学内選考のコンクールがはじまるからだ。


本当は、音楽科は音楽科で練習室という立派な施設があるけれど、

私はそこに行く気にはなれなかった。



・・・音楽科の人と一緒にいると、また、嘲笑の対象になるし、

それなら、まだ「何で音楽科がここにいるんだ?」という目で見られる普通科の方がマシだ。



・・・と、いうことに春休みの時に気がついたので、私は極力練習室は使わないようにしているのだ。



普通科の人達の私を不審がる視線をかいくぐり、私は、屋上に着いて、カバンから楽譜を取り出す。


コンクールの為に弾く曲は決まっているけど、

まず、私は、コンクールでは弾く予定のないパガニーニの「ラ・カンパネラ」を取り出す。



・・・この曲は、私がヴァイオリンをはじめたきっかけの曲だ。



私のおばあちゃんはヴァイオリニストで、昔のコンサートで、よくこの曲を弾いていたらしい。


昔のコンサートの映像の中の、力強くも美しいおばあちゃんの演奏に魅了されて、私は、ヴァイオリンをはじめた。



私はヴァイオリンをはじめてからずっと、この曲は練習し続けている・・・つまり、習慣のようなものだ。

この曲はとても難しくて、最初は全然弾けなかったけれど、

今ではなんとかミスをせず、最後まで弾けるようになった。



・・・・でも、たとえ技術が上がったとしても、音がついてこない。

昔・・・・それこそ、小学六年の時は、ミスをしながらも、

おばあちゃんみたく弾けたと感じた時があったのに、今ではさっぱりだ。



ただ、楽譜をなぞっているだけのような・・・そんな音を出しながら、私は「ラ・カンパネラ」を弾く。




―――どうしてこんな風にしか弾けないんだろう。




昔は、音楽の神様が私の音を導いてくれているような気がした。

こう弓を動かせば、こういう音が出ると自然に分かって、ヴァイオリンを弾くのが楽しかった。




―――だけど、今は同じように弓を動かしてもあの時のようなキラキラした音は出ない。





私の人生は、あのコンクールが絶頂期だったのだろうか。

音楽科の人が毎日言っているように、私は、もう、終わって、しまったのだろうか。





――――こんなに弾くことが、辛くて苦しいのに、どうして弾くことを辞められないのだろうか。





演奏中なのに、涙が出そうになった。





泣きたい気持ちを押さえて、私は、なんとか最後まで弾く。

人様には聞かせられないような、ボロボロの演奏だった。最悪だ。



「・・・・驚いた。まさか音海奏がこんな演奏をするなんて・・・」



私の後ろから、声が聞こえる。




・・・・誰かに、聞かれた?




恐る恐る後ろを向くと、そこには普通科の男子生徒が立っていた。

ぼさぼさの黒髪に、黒いメガネ、冷たい表情。

お世辞にも愛想がいいとは言えないような感じの人だ。



「・・・い、いつから・・・。」



「たぶん、最初から。入学式ダルくてここでサボっていたら、ヴァイオリンの演奏が聞こえたから・・・。」



入学式、ということはこの人、私と同い年なのか・・・



「・・・あの、どうして普通科の人が私を知っているの?」



ああ、そのことか、とその人は私の質問にたんたんと答えた。



「俺の妹、この学園の中等部にいるんだよね。

オルガンやっていて、アンタのファンなんだ。美和朱里っていうの。知らない?」



「・・・ああ。」



確か、私の一個下で10年に一度のオルガンの天才って呼ばれている人だ。



・・・でも、美和さんのお兄さんがこの人?



美和さんは、確か、いつもニコニコしていて可愛らしい女の子・・・。

目の前にいるこの人とは何もかもが正反対のような子だ。



「・・・似てないね。」



「よく言われるよ。」



―――あ、今、少し、この人の雰囲気が柔らかくなったような気がする。


・・・もしかして、笑ったのかな?



「それよりも、どうしたんだ?」



美和君は、まっすぐ私を見て問いかける。

その静かな目に、何もかも見透かされているようで・・・・誤魔化しが聞かないな、と思った。



この人は、私の音を聞いて、私がおかしくなっていることに気づいたんだ。

だから、下手に言葉で誤魔化しても・・・すぐ分かってしまうだろう。



言葉と違って、音は嘘をつかないから。



―――本当なら、初対面の人に話すようなことではないけど・・・





「・・・演奏を聞いたなら、わかるでしょ?

もう、小学六年の時のような音が出なくなったの。」



「・・・いつから?」



「・・・この学校に入った時・・・中1からかな。」



「・・・シチアリーノ。」



「えっ?」



「聞こえなかった?シチアリーノ、弾いてよ。」



美和君は、静かにそう言った。




私は黙って、ヴァイオリンを弾き始める。



―――シチアリーノ。それは、小学六年のあのコンクールで、私が自由曲として弾いた曲。



あのコンクールでこの曲を弾いている時、本当に自分の理想の音が出ていた。

ずっと夢中で弾き続けて、気がついたら、

会場中の人がスタンディングオペレーションで、大きな拍手喝采を私に送っていた。



あの時の充実感と、嬉しさは、まさに、人生の絶頂と呼んでもいいくらいだった。





―――でも、今は、あの時のような音を、私は出せない。





「下手くそ。」



演奏が終わるなり、美和君はそう言った。



・・・そう言われても仕方のない、グタグタの演奏。



凹むけれど、これが今の私の精一杯。

・・・彼の言葉を認めるしかない。



「お前は、そんなんじゃないだろ。もっと、もっと、すごい音が出せるはずだ。」



美和君は、不甲斐ない演奏をした私に怒っているみたいだった。




―――ああ、この三年間、よく見て来た風景だ。



こうして、人は私の音に絶望し、私を嘲笑うんだ。




・・・・この人も、そうなんだ。





―――暗く、冷たい闇が私を包む。




きっと、この闇に堕ちたら、私はもう、戻れない。



だけど、もう、私は疲れてしまった。



きっと、堕ちてしまった方が楽になるんだ―――




「おい、音海!!」








闇に堕ちようとした私の手を、美和君が掴む。



私は、闇から一気に現実に引き戻された。





「俺は、お前に失望したりしないし、嘲笑もしない。」




美和君は、まっすぐ私を見つめている。



美和君の手から伝わる熱が、私を温めて行く。



その冷たくて温かい目に、私は、引き込まれる。




「・・・どう、して?」




だって、他の人は皆私に失望して、離れてしまったのに、

どうしてこの人は、私の中に入ろうとするのだろう。



「・・・お前がこんなにボロボロでも、音楽を辞めないからだ。」



・・・確かに、私は、こんな風になってもヴァイオリンを弾くことを辞められない。

きっと、辞められたら楽になるのに、それでも、みっともなく、ヴァイオリンにしがみついている。



「お前は、音楽がなければ生きていけないやつだ。だから、音楽を捨てちゃいけない。」



「・・・どうして、そんなことが分かるの?」



「・・・さあ・・・・ただのカンだ。

とにかく、お前の伸びのある音は・・・世界にも通用すると思う。

同じ音楽を志す者として、お前の才能を失うのが惜しい。

俺は、本当に才能のないヤツには、こんなことは言わない。

お前に才能があるから、もう一度ああいう音を出せると分かっているから、失望してないだけだ。」



美和君の言葉は、お世辞にも優しい言葉ではなかった。

だけど、厳しさの裏に、彼の優しさを見た気がした。



美和君は、まだ、私に期待しているんだね。



まだ、私が、完全にダメになってないから、失望してないんだよね。




・・・・・また、ああいう音を出せる日はくるのかな。


・・・・・美和君の納得できるような演奏を聴かせられることができるのかな。




「お前、俺のバンドを見にこないか?」



美和君が急に私に聞いて来た。




「・・・バンド?」



「ロックバンド。夜明け一番星っていう名前。」




・・・夜明け一番星。



夜明けなのに、一番星なんて、変な名前だ。

だけど、何故かそれが彼の捻くれさを表しているようで、彼が歌うバンドの名前としてしっくりきた。




今はただ、苦しい夜にいるけれど、





・・・・私にも、いつか夜明けが来るのかな。




いつか、一番星のように、もう一度輝ける日が来るのかな。





―――分からないけど、今は、彼の音楽を聞いてみたいと思った。





ロックバンドなんて、ちゃんと聞いたことがないけれど、彼が歌う所を見られるのならば、見てみたい。




「うん、行く。」



私がうなづくと、彼は、私の手から離れて、




「じゃあ、行くぞ。」



と、短い言葉をかけた。




・・・まだ、音楽の神様は、私を見捨ててなかったのかもしれない。




またあの時のように、キラキラと輝く音を弾ける日が来るのかもしれない。





―――それは、運命のような、必然的だったような、そんな不思議な出逢い。




もう、きっと、私は、あの闇に堕ちることはない。





――――そんな、根拠のない確信を胸に、私は、美和君と共に学校を出た。



END




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