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童話集  作者: 服部 泉美
1/2

クリスマスツリーが折れたわけ

あるお金持ちの家に生まれたサントの、小さなクリスマスツリーの物語…




 これは、ある年の十二月ころの物語です。

昔々、フランスに、一つの家族がありまして、それが裕福な家だったわけです。その家には毎年飾られる、大きなクリスマスツリーがありました。

 今年もクリスマスツリーがその家に飾り付けられようとしています。

 ほら、クリスマスツリーやその飾りのしまわれている箱から、話し声が聞こえてきますよ。



「今年こそ、みんなが見てもらえるところに飾られるかしら」

 キラキラ光る、クリスマスボール達が、声を揃えて言い、

「今年は、いつも以上に輝こうかな」

 と、ツリーの一番上に飾られる星が言い、みんなもうすぐやって来るクリスマスで注目を浴びることを夢見ているようです。

 はしゃがない者はいないように感じられました。


 しかし、ここは裕福な家です。壊れたり、汚くなったり、古くなったりすれば、捨てられて、すぐに新しい代えの物がやって来るのです。それは、毎年のように行われている事でしたので、古い物や、汚いもの、壊れたものはただ気持ちが暗くなるばかりでした。

「今年で、捨てられてしまうのかしら」

「捨てられたくないぜ」

「こんな気持ちで待っているのは嫌だよ」

 そんなもの達はみんな悲しい顔をして、箱の中でさえ、他の物より、輝きを失っていきます。

 そして、その中には、プラスチックで作られた小さなクリスマスツリーもありました。

「私も捨てられたくないが、もう限界かもしれない」


 このツリーのつぶやきの後、この家の家政婦、ファルミスさんの手が箱の中に入ってきました。

「あらあら、これはもう駄目ね。こっちも傷ついちゃってるわぁ……」

 次々と飾りたちは捨てられていきます。


 小さなクリスマスツリーの番がやってきました。

「これももう駄目ね。捨てましょう」

 クリスマスツリーは、目を閉じてこの声を聴きました。そして、もう捨てられる、そう思った時でした。


「ねぇ、ファルミスさん、それ、捨てちゃうなら、僕にちょうだいよ」

 この家の末息子である、まだ幼いサントが言いました。

「いえ、サント様、これはもう、使えないのですよ」

「いいんだ。その飾りもちょうだい。」



 こうして、小さなクリスマスツリーはサントの物になりました。

 このクリスマスツリーには、サントの手で飾りが付けられました。


 さて、このクリスマスツリーが捨てられそうになった理由は、幹の部分に深い傷があったからなのです。それでも、捨てられずに済んだので、踏ん張って痛みに耐え、飾られました。


 そこでは、傷がついたり、古くなったりして捨てられそうになった飾りたちが、笑い合い、話をし、とても輝いていました。


「これで充分きれいだ」

 幼いサントは無邪気に笑いました。

 そして、しばらくツリーを眺めていました。



 こうして、数日が過ぎていきました。

 小さなクリスマスツリーと飾りたちは、サントへ感謝してもしきれない思いで毎日を過ごしていました。


「助けていただいたあの幼いサントに、何かお返しができたらいいのだが…」

 クリスマスツリーは呟きました。

「精一杯輝けばいいのよ」

 少し形がひしゃげているものの、美しく儚げな星が、透き通った優しい声で言いました。


 この時、クリスマスツリーはこの美しい星に恋をしました。

 星も、この優しいクリスマスツリーを好きになっていきました。

 そして、お互いの気持ちが通じ合うようになっていきます……。


 ツリーと星は、幸せで胸が一杯でした。そして、その日から二人はより一層輝き始めました。


 幼いサントは、ツリーがより立派になっていくのを、星が輝きを増していくことに気付きました。そして、にっこりと笑いました。


 そして、クリスマス・イブは温かい空気に包まれて過ぎ去りました。



 クリスマス最後の盛り上がりを見せる、十二月二十五日の早朝のこと。サントのプレゼントは、このツリーの下に置かれていました。


 サントは、早起きして、プレゼントを見てみることにしました。

 ツリーと星は、まだ眠っています。


 サントはそっとツリーに近づいて、プレゼントの包まれた箱を取り、そっと開けました。

 中身は、毛の長く可愛らしいテディベアです。サントは、これ以上にない喜び様で、テディベアに頬ずりしたり、高い高いをしてやったりしました。


 するとその時、サントのテディベアに星に引っかかってしまいました。サントは急いで取ろうとしましたが、長い毛は絡まっていく一方です。

 ファルミスさんに取ってもらうため、サントは星をツリーから外して持っていきました。それで、ツリーは目を覚ましました。

 星がいない事に気付きましたが、サントの腕にしっかり抱えられているテディベアに引っかかった星を見て、無事に戻って来るのを祈るしかありませんでした。


「ごめんね、ツリーさん。すぐに、星さん戻すから!」


 そしてサントは部屋を出て、ファルミスさんの所へ走りました。

 朝の早いファルミスさんは暖炉の前で自分の孫にセーターを編んでいるところでした。


「ファルミスさん、星さんが僕のテディベアに引っかかっちゃった!」

「あ、サント様、おはようございます。はいはい、今取ってあげますからね。」

 そう言ってファルミスさんは星を外し始めました。しかし、なかなか上手くいきません。そこで、ファルミスさんはこの星をテディベアに絡まっているところの近くで割ってしまう事にしました。



 バキッ_____

 星の割れる音が、家中に冷たく響きわたりました。


 サントは、ビックリしました。

「ファルミスさん、今、なにしたの?」

「上手く取れそうもなかったので、星を割ってテディベアからとったんですよ。星なら、また別なのを買ってくればいいですからね。ほら、上手く取れたでしょう?」

 ファルミスさんはそう言って笑い、割れた星と、テディベアを見せて、満足そうにしました。




 サントが部屋に戻ってくると、あのクリスマスツリーは、深い傷の所で二つに折れてしまっていました。




自分は、ハッピーエンドより、ちょっと皮肉な終わり方をする童話の方が好きなので、こういう童話が多くなると思います(苦笑)


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