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『月夜の下、魔術師は眠る【終】』

 

 ◆ ◆ ◆



 何故こうなってしまったんだろうな、と月宮礼司はいった。



「私は手伝ってくれていた親友に礼を言いたかっただけなのに、どこでどう間違ったんだ……」



 呼吸は浅く、そして速い。誰が見ても、医者でなくとも彼が死にかけているのが手に取るように分かる。



 貫かれた心臓からドックドックと溢れる血液は、体外に排出された瞬間に灰へと変化する。



「教えてくれないか、春木黒人」



「……あんたが悪魔なんてもんに頼ったからだ」



 黒人は知らない。悪魔に騙され、肉体と魂を保存する『魔法』をかける為に息子を一度殺そう、と言われ、手にかけたことを。



 普通の親なら、できない!! と断っていただろう。しかしその頃、月宮礼司の息子は心臓の発作で目を覚ます以外は眠り続けていた。



 彼の息子は苦しむ為にだけ目を覚ます人生だったのである。



 耐えられなかった。だからつい、悪魔の甘言に乗せられてしまった。



「あんたの息子はさ、不幸なんかじゃなかったと思う。そのままのあんたが、最期の瞬間まで父親として手を握っててやるだけでよかったんだと思うぜ」



 ああそんなことでよかったのか、と月宮礼司は自嘲に笑う。



 悪魔と契約した代償だったのか、今までずっと思い出せなかった息子と親友の笑顔、そして『本当の願い』を思い出し、彼は泣いた。



 思い出した願いは、もう絶対に叶わない願い。



「私はただ……」



 息子の苦痛を和らげ、同じ場所へ、天国へ逝きたかっただけなのにな、と。



 だが、悪魔と契約を交わした人間の魂はが天へ昇ることはなく、そして苦痛を和らげる為に幸せだった頃の記憶を呼び覚ますのに次元の剣を欲したのに親友を殺してしまった。



 月宮礼司は息子と親友に心の中で何度も謝罪し――この世から跡形もなく消滅した。



 

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