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『魔術師たちの夜【⑥】』

 

 ◆ ◆ ◆



 居間の隣にある部屋。



 部屋と言っても流し台に冷蔵庫と炊飯器が設置されたキッチン。ここは咲が初めて両親にワガママを言って改装してもらった場所だ。



 幸い葛城家は裕福な部類に入る家庭だった為、物心ついた後の咲の初めてのワガママということも手伝い、ふたつ返事で両親はキッチンを作り直してくれた。



 そのキッチンで、咲はエプロンをつけて料理をしていた。明日の昼餉か夕餉か、どちらになるのかは未定だが、その下ごしらえ。



 明日は土曜日で学校も休み。だから少し手の込んだものを作ろうと、今から用意しているのだ。



 鶏肉の臭みを取る作業中に咲の手が止まる。学校帰りに襲撃してきた男女のこと。女が電撃を放ってきたことを思い出す。



「魔術師……」



 そう呟いた咲の顔に浮かぶのは苦痛。



 自分で選んだことだったはずだ。なのにこうして後悔している。魔術師となることを拒んだことを。



 そして黒人の為に戦える舞に嫉妬している自分の身勝手さに、苛立つ。



「あ……」



 その感情が表現されたのは、手。臭みを取るためにボウルの中で揉み込んでいた鶏肉。その中の一つを握り潰していた。



 お姉ちゃんみたいに私もなれたら悩まないですんだんだろうな、と本人が聞いたら怒り出しそうなことを思う。



 舞は悩むよりも即行動するであろうことを咲は誰よりも理解している。姉が魔術師として強くあろうとしてくれているのは自分の為だということも。



「………………」



 かすかな罪悪感が胸に芽生える。それを包み隠すように小さく伸びをする。



「そろそろ寝ようかな」



 キッチンの物を所定の場所へ戻し、食材を冷蔵庫に入れる。



 冷蔵庫の隅。夏場でもない限り、ほとんど舞は冷蔵庫を開けないのだが、万一に備えて隠してあるゼリーが目に入る。



 昼休みに黒人から貰ったゼリー。



 少し悩んでから咲はゼリーを手に取り、キッチンにある椅子に座って食べる。



「おいしい……」



 たった一つのゼリー。これを渡した本人も深い意味はない。ただ元気づけようとしただけ。だが、それは咲にとって重大な意味を持つもの。



 彼女は決めた。黒人を失いたくない。



 そして舞ではなく自分が守ってあげられるくらい強い魔術師になりたいと、この夜、咲は決意した。



 

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