『魔術師たちの夜【⑤】』
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その夜、舞が自分の部屋のベッドに横になったのは午前零時を過ぎた頃だった。
部屋の明かりを消した暗い中で、舞は今日の出来事を思い起こす。
魔術で人を傷付けた。後悔はしていない。ただ久しぶりの血の臭いが鼻を突いて眠れないだけ。
「――Or」
魔術を発動させる。光の魔術。蛍の光のように、小さな黄緑色の粒が宙を舞う。下から上へ。左から右へ。
自由に軌道を変えて漂うだけの、なんの殺傷性もない魔術が、部屋を暖かい光で満たす。
最初から人を傷つける魔術を覚えたかったわけではない。ただ舞は妹を守りたいだけだった。
魔術師となる為に産まれて、でも魔術師になることを拒んだ咲を守る為に身につけた力。
「だったはずなのにね……」
今日の、これまでの自分の姿を思い浮かべる。
楽しんでいた。人を傷つけることをではない。ハイレベルな魔術に驚愕し、恐怖する男の姿を見て、強く興奮した。
ギリッ、と砕けんばかりの力で奥歯を噛んだ。ギュッ、と拳を作る。ズキッ、と手に痛みが走るが、それでも握力を弱めようとは思わない。
最低だった自分を戒める為の痛み。
戦っている最中、男に言われるまで黒人のことも、そして咲のことも忘れていた。妹の為に努力して得た力なのに。
パンッ!! と部屋を満たしていた光が弾け散る。小さなビー玉サイズだった光が粉雪のように降り注いで消える。
「私は弱い……。心が、こんなにも弱い…………」
命のやり取りという一般的には特殊な空間。だがしかし、魔術師にとっては当たり前の世界。
その狂気に呑まれた自分を恥、舞は決意を新たにする。
戦闘の空気に呑まれないだけの強さを得る、と。それが咲と黒人を守ることに繋がると信じて。




