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殺人



ちょっとシリアス。


今の内に言っておきますが……あれはショウ&オルソンの考え方であって、作者とは違います。







「…今まで何人、殺したか憶えてるか?」


依頼が終わり、事務所兼自宅の居間で俺とオルソンは、使用した武器のクリーニングをしていた。


今日の依頼は……まぁ俺達らしい仕事……いや“相応しい”が妥当か。


まぁ…“その手”の依頼だった訳だ。


クリーニング、いくら魔法で弾丸無限、作動不良なしにしたとしても、染み付いた行為は中々、抜けない。


というよりも、これをしないと自分の“恋人達”は、そっぽを向いてしまうか…俺に噛み付いてくる。


出来るだけ淋しい思いをさせない為の作業−俺の師匠はそう教えた。



その神聖な儀式の最中だ。


愛銃を分解掃除しながら、相棒が唐突に口を開いたのは。


「…なんだ、いきなり?」


「いやさ、ちょっと気になってな」


質問の意味を噛み砕き、答えを弾き出す。


それが終わると、AK-47の特徴なのかオルソンよりも早くクリーニングが終了した為、手早く組み立てると銃床にクリーニングキットを戻す。


次いでポケットからタバコを取り出して火を点け、腰掛けているソファにもたれ掛かった。



「……憶えてねぇ……」


唇から細く紫煙を吐き出しながら解答すると、相棒は短く、そうか、とだけ言った。


「…お前はどうだ? まさか、馬鹿正直に数えてる訳じゃないだろ?」


僅かに口角を上げ、タバコを咥えたまま問い掛ける。


「まぁな。…ハァ…無意味な質問だとは判ってたさ」


「じゃあ…なんで?」


「言ったろ? “少し気になったんだ”」


「そうだったな…」


吐き出した紫煙越しにオルソンと俺の視線が交差するが、相棒は視線を自分の手元にある愛銃に戻した。


今は…インナーバレルにオイルを注す作業をやっている。


僅かに溜まった灰をテーブルに置かれた灰皿に叩いて落とした。


「…たまに思うんだけどよ」


「あん?」


「セックスと殺人って、似てねぇか?」


「……は?」


上手く解釈が出来なかったが…ニコチンが回った頭をフル回転させ、その意味を察した。


すると苦笑が零れた。


「…メイク・ラブ、じゃなくてか?」


「あぁ。ついでにファックでもねぇよ。そっちが記憶に残るからな」


「なるほど…面白い…上手い例えだぜ」



なるほど……そう考えれば、セックスと殺人は似たり寄ったりだ。



簡単な事だ。



最初と最近の相手は憶えているが、その間の相手は憶えていない。



セックスと殺人は似たり寄ったりかも知れないな。



もし『今まで、これだけの人数とヤッた』と指折り数えて言う奴は、ほぼ間違いなくハッタリをかましている。



もし傭兵や軍人が『これだけの敵を殺した』と指折り数えて言えば、そいつは間違いなく傭兵や軍人ではない。


ハッタリだ。


殺伐とした生活を送っている傭兵や軍人が、いちいち数えて憶えている訳がない。


いるとすれば…余程の馬鹿か阿呆。


もしくは…駆け出しの青二才。



傭兵を格好良くみせるかに心砕くのはハリウッド映画やフィクションだ。



あんなガチガチでムキムキな傭兵はお目に掛かった試しがない。


ついでに言えば…仁義に溢れている傭兵にも、だ。


どんなに取り繕った所で傭兵は詰まるところ…“殺し屋”。


金を貰って人殺しに荷担するのだから、間違ってはいない。


“戦争の狗”とも謂われるが……もっと相応しい形容がある。


“ハイエナ”だ。


それも腐肉あさりの。



まさに狂気。



傭兵なんて職に就く奴等は、だいたい兇状持ちの犯罪者か、戦争狂いの異常者だけ。



それを考えると……俺は前者か。


相棒は……おや、どれにも当て嵌まらないな……まぁ良い。


「お前は、17で。俺は…19…いや20歳で処女喪失か」


「…あぁ。どうやら…俺達は根っからの殺人機械みたいだな」


短くなったタバコを灰皿に押し潰すと、新しいのを取り出して火を点けた。


殺人機械。


まぁ良くも悪くも…的を射た形容だ。


別段、気にはしていない。


殺すか殺されるかの状況で気にしている方が馬鹿だ。


唯一、胸を張れるとすれば……“非戦闘員”を一人だけしか殺していない、という事だな。


そもそも、“殺人を犯してはならない”と明文している法律は、俺の知っている範囲では存在しない。


もちろん、それを犯せば、なんらかの罰則は甘んじて受けなければならない。


それが刑罰。


しかし…法律には“殺してはならない”とは書かれていない。


だが、何故、それを万人が勘違いして解釈しているのか。


簡単な事だ。


そう教えられたから。


そんなモノを作り出したのは、人間が生み出した道徳倫理。


そんなモノで腹が膨れるほど世界は優しくない。


事実、十字軍時代にその軍団が何をやったかを知っていれば、その“道徳倫理”とやらは意味を成さないモノだと判る。



…これでは理論武装だ。


らしくない思考に嘲笑と苦笑が零れた。


「気味悪ぃな…変なモンでも食ったか?」


「お前の料理」


「オイッ!? 三ッ星シェフも唸る俺の飯を食っておいて、そりゃねぇだろ!?」


今度は苦笑だけが漏れた。


「悪い、冗談だ」


「ハァ…。飯にすっか」


クリーニングが終わり、組み立てられた愛銃をソファに立て掛けると、相棒はキッチンへと向かって歩き始める。


「オルソン」


「あぁ?」


「卵以外にしてくれよ?」


「お前がアレルギー持ちだとは知らなかったな」


「言ってろ…」


リクエストには……応えてくれるだろう……たぶん。



キッチンに相棒の姿が消えてしばらく経つと、何かが焼けて、水分が爆ぜる音が響いてくる。


すると、やおやらに玄関のドアが開かれ、息せき切って従業員が飛び込んできた。


「ベルゼー、どうした?」


「ショウさん、貴族の屋敷が燃えているって大変な騒ぎになってますよ!」


なんだ……。


「それが?」


「いや…それが、って…」


「俺にも店にも関係ないからな」


「まぁ…そうでしょうけど…」


ベルゼーは納得がいかないのか、顔をしかめる。


「…飯は食ったか?」


「は?…いえ、まだですけど…」


「なら食ってけ。ジャスミンも呼ぶと良い」


「…良いんですか?」


「…大勢で食った方が美味いからな」


「判りました、直ぐに呼んできます!」


来た時と同様にベルゼーは慌てて、玄関をくぐって行った。


「…シェフ」


「あいよ−」


「二人前追加だ」


「畏まりました−」


調子の良い、名シェフの返事を聞くと再びタバコを灰皿に捨てて、タバコを咥えた。





玄関のドアがノックされる。


「…どうぞ」


「お邪魔します」


客かと思っていたが、来たのは馴染みのお得意さん。


「…エルザか…どうした?」


新聞の記事に眼を通しながら問い掛ける。


今日の一面見出しは、一昨日の家事についてだ。


「…ある貴族の屋敷が家事になったのを知っていますか?」


「あぁ。知らない奴がいるなら、是非ともお目に掛かりたい」


簡潔に彼女へ返事をする。


「……その貴族なのですが…焼死体から複数の小さな穴が見付かったそうです」


「ほう?」


「辛うじて確認できる程だったそうですが。それが、衛兵と思しき遺体からも複数発見されました」


「へぇ…。なら槍か弓矢で襲撃されて、その後に火を点けられたのか…物騒な世の中になったな」


「…………」


読み終わった新聞を畳み、テーブルに放り投げる。


溜め息を吐いて、来た時から突っ立っているエルザに視線を向ける。


「…それで、続きがあるんだろ?」


「その貴族は、かねてから黒い噂がありました。税の横領、市民への暴力行為。…そして…誘拐」


「有りがちな話だ。…予想だが…恋人か妻を誘拐された男が怒り狂って、その貴族をなぶり殺しにでもしたんだろうよ」


「…………」


エルザの視線が俺の眼を…身体を射抜く。


「…本当の事を話して下さい」


「何を?」


「貴方が…“なんでも屋ローランド”が」


「そうだ」


「ッ!?」


面白いように驚愕するエルザに向かって、口角を上げてみせる。


「と、言ったらどうする?」


「…………」


「拷問にでも掛けるか?」


「……いえ……信じましょう」


「そうか」


数瞬、互いの視線が交差し合った。


「帰ります…」


「そうか。気を付けて帰れよ」


「……ありがとう……」


何に対しての“ありがとう”なのかは知らないが、感謝の言葉は素直に受け取っておこう。


静かにドアが閉まる音が響き、テーブルに放り投げていたタバコを手に取って、火を点けると−


「……全く…因果な商売だ……」


そう呟いた。

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