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弱き僕と最強の先輩   作者: マーたん


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第六話 「光を継ぐ者たち ― 亞人との約束 ―」

第五話「琥珀の瞳の少年」で魂の記憶を取り戻したレイナ。

第六話では、その記憶が“約束”として現実の地に導きます。

かつて敵だった亞人たちとの再会、そして“罪と赦し”の物語。


この章では、「強さ」とは何か、「継ぐ」という行為の意味を問い直します。

戦いではなく、言葉と心で結ばれる絆――それこそが“光”の本質なのです。

夜明け前、森は灰色の霧に包まれていた。

 鳥の声もまだなく、世界全体が呼吸を止めたように静かだ。

 その中を、僕とレイナ先輩は歩いていた。


 昨夜の舞の光――琥珀の少年の残像が、まだ瞼の裏に残っている。

 けれどその輝きはもう暖かくはなく、

 どこか、遠い記憶のように淡く滲んでいた。


「……先輩、これからどこへ?」

「南の渓谷。そこに“約束の地”がある。琥珀の子の記憶がそう告げていた」


 “約束の地”。

 その言葉には、どこか懐かしい響きがあった。

 行けば何かが変わる――そんな確信のような予感。


 霧の道を抜けた先に、奇妙な光が見えた。

 淡い青緑の灯りが点々と続いている。

 それは人の作った松明ではない。

 生きている光――植物が放つ、魂の灯火のような輝きだった。


「ここは……」

亞人あじんたちの集落よ」


 レイナ先輩の声は、どこか硬かった。

 彼女は“最強の剣士”として名を馳せた存在。

 しかしその強さゆえに、かつて“異種族討伐”の命を受けていたことがある。

 亞人たちにとって、レイナは“敵”の象徴でもあった。


 青白い光の中、影がひとつ、またひとつと浮かび上がる。

 長い耳を持つ亜人、獣の面をした者、そして翼の痕を背負う女。

 彼らは僕たちを囲み、沈黙のまま見つめていた。


「……久しいな、ヒトの戦士」

 群の中央から現れたのは、白銀の髪を持つ青年だった。

 彼の瞳は琥珀――いや、少し赤みを帯びた“火の色”だった。


「あなたは……」

「俺はリュザ。かつてお前と剣を交えた者だ、レイナ・ヴァルド」


 その瞬間、空気が震えた。

 先輩の指が無意識に剣の柄を握る。

 だがリュザは、静かに首を振った。


「今日は戦うために来たのではないだろう?」

「……ええ。私は、約束を果たしに来た」


 “約束”――

 それが、彼女がこの地を目指した理由。

 過去に果たせなかった、光と影の契約。


「十年前、あなたは言った。“この戦が終わったら、共に新しい道を探そう”と」

 リュザの声は静かだったが、深い哀しみが滲んでいた。

「だが、お前は来なかった。俺たち亞人は追われ、焼かれ、散った」


 レイナ先輩は目を閉じた。

 唇を噛み、拳を握る。

 彼女の手のひらから血が滲む。


「……すべて、私の罪よ。

 でも、私はいまようやく来た。

 過去を償うために――そして、新しい約束を結ぶために」


 沈黙の森の奥で、光が揺れる。

 亞人の子どもたちが、怯えたように木陰から覗いている。

 その瞳は恐れと、わずかな期待の色。


 僕は思わず前に出た。

「彼女は、もう戦うために来たんじゃない。

 あの時の光――琥珀の少年の記憶が、ここに導いたんだ。

 あの舞の意味は、“争いを終わらせること”なんです!」


 リュザは僕を見つめた。

 その視線は鋭くも、どこか懐かしい。

「……お前の瞳。彼と同じだな」


 僕の心臓が跳ねた。

 まるで胸の奥の“光”が反応するように、鼓動が強くなる。


「君もまた、“光を継ぐ者”か」

「光を……継ぐ?」

「そうだ。魂の連なり。ヒトと亞人が、かつて共に歩んだ証だ」


 リュザは右手を差し出した。

 その手の甲には、古い紋様が刻まれていた――

 レイナ先輩の左手に刻まれたものと、同じ印だった。


 二人が手を合わせる。

 印が重なり、淡い光が生まれた。

 それはかつて失われた“約束の契約”の再生だった。


「これで、また始められる」

 レイナ先輩の声が微かに震えた。

 その瞳には涙が浮かんでいたが、光が宿っていた。


 リュザは微笑み、ゆっくりと頷いた。

「ヒトも亞人も、同じ空の下にある。

 忘れるな、アサギ。

 お前も、その約束の証人だ」


 霧が晴れ、朝日が森を照らす。

 白い光の中、レイナ先輩の金の髪が輝いた。

 その姿は、もう戦士ではなく、“希望の継承者”だった。


 ――光は受け継がれた。

 過去と未来をつなぐ、新たな約束として…

“光を継ぐ者”とは、力を受け継ぐ者ではなく、想いを繋ぐ者のこと。

レイナが亞人と再び契約を結んだ瞬間、

彼女は“最強の剣士”から“新しい時代の祈り人”へと変わりました。


アサギがその光の証人となったことで、

物語の中心は彼自身の“覚醒”へと移ります。

彼の弱さはもう欠点ではなく、誰かの痛みを受け止めるための“器”なのです。


次回――

第七話「灰の契約 ― 月下に立つ二人 ―」

過去の血の呪いが再び目を覚まし、

“光を継ぐ者たち”が真に試される夜が訪れる。

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