第三話「影に潜むもの、光に導かれるもの」
迷宮の試練を終えた僕たちは、束の間の安息を得た――はずだった。
しかし、平穏とは決して長く続くものではない。
あの日、僕の中で光った“あの力”が、偶然ではなく何かの兆しであるように感じていた。
そして、最強の先輩――レイナ・ヴァルドとの間に生まれた小さな絆も、まだ脆く、言葉にできないまま揺れている。
第三話では、そんな二人が新たな森の試練に挑む。
恐怖、成長、そして未知なる闇との遭遇。
弱さと強さの境界を越える物語が、再び始まる。
迷宮での試練から数日が経った。
学園は表向き、平穏を取り戻したかのように見えるが、僕には違った。
あの日、僕が先輩――レイナ・ヴァルド――を救った瞬間から、心の奥に小さな変化が生まれていたのだ。
しかしその変化は、まだ揺らぎや迷いに包まれ、はっきりとは言葉にできなかった。
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学園での朝
朝の学園は、いつも通りの活気に満ちていた。
生徒たちの笑い声や杖を振る音が、廊下や訓練場に響く。
僕は朝食を口に運びながら、昨日の出来事を反芻する。
迷宮で見つけた光――あれは偶然なのか、それとも、僕に宿った力なのか。
その疑問は僕を眠れぬ夜に追いやったが、同時に小さな勇気も与えてくれた。
「お前、今日も遅刻か?」
レイナの声が背後から低く響く。
振り返ると、いつもの冷たい表情のまま、先輩は腕組みをして立っていた。
「……すみません」
小さく答えると、先輩は無言で頷き、教室へと向かう。
言葉少なだが、昨日よりも視線の端に僕を意識していることがわかった。
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特別実習の告知
朝の集会で担任教官が告げる。
「今回の任務は、学園周辺の森に潜む異形の魔獣の討伐だ。チームを組んで行動する」
その瞬間、僕の胸は再び高鳴る。
怖い、でも――昨日の光が、少しだけ自分を支えてくれる。
レイナは当然僕と同じチームに組まれた。
「……足手まといにならないでくれよ」
傲慢で冷たい言葉。
でも、僕は以前ほど萎縮しなかった。
「……はい」
震えた声だが、心の中には確かな決意が芽生えていた。
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森への出発
森は濃い霧に包まれ、視界はわずか数歩先までしか届かない。
葉の間から差し込む光が、木々の影を揺らす。
足元の枝や落ち葉がカサリと音を立てるたび、緊張が胸に押し寄せる。
「気を抜くな」
先輩の低い声が、背後から響く。
その声に僕の心は少し落ち着いた。
恐怖に押し潰されそうな僕を支えてくれるのは、孤高の先輩の存在だった。
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魔獣の出現
森の奥深く、低くうなりを上げる影が現れた。
黒い鱗と赤い瞳を持つ魔獣――数匹が僕たちを囲む。
レイナは即座に魔力を解放し、光の刃で一体を吹き飛ばす。
しかし、数が多く、完全制圧には時間がかかる状況だった。
僕は杖を握りしめ、足が震える。
恐怖で動けない僕の隣で、先輩は冷静に敵を斬り伏せる。
でも、昨日の迷宮で得たあの光の記憶が、僕を動かした。
「僕も…何かしなきゃ」
自然に心の奥から力が湧き、杖を魔獣に向けて差し出す。
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偶然ではない力
森の奥、苔むした古代碑石に微かに光る紋章が見えた。
僕は杖を触れると、昨日よりも強い光が僕の体を包み、魔獣の動きを封じた。
「……お前、本当に使えるのか?」
先輩の声には驚きと困惑、そしてわずかな期待が混ざっていた。
僕は息を切らしながらも、光を保つ。
先輩の魔力と連動させると、二人の力はまるでひとつの光となり、森に潜む魔獣たちは次々に倒されていった。
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闇の兆し
戦闘が終わり、森の奥に漂う異様な気配に気づく。
先輩も眉をひそめた。
「まだ、何かいる……」
その言葉に、僕の胸は再び緊張で締め付けられる。
昨日も今日も、危険は終わっていなかった。
しかし、僕は以前より少し強くなっていた。
弱くても、僕には戦える瞬間がある。
そして、孤高の先輩と心を通わせることもできる――。
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心の距離と絆
帰路、夕陽が森を黄金色に染める。
僕は先輩の横を歩きながら、言葉を探す。
「……先輩、ありがとうございました」
小さな声で告げると、レイナは一瞬微笑む。
普段の傲慢さは変わらないが、瞳には確かな温もりが宿った。
迷宮や森の戦いを通して、僕たちの心の距離は確かに縮まった。
影と光、弱さと強さ――
二人の物語は、まだ始まったばかりだった。
第三話では、主人公が初めて「自分の意思」で杖を握り、光を生み出しました。
それは偶然ではなく、確かに彼自身の心の変化によるものです。
レイナとの関係も、冷たい上下関係から、わずかに信頼の芽が生まれる瞬間へと進みました。
けれど、その光の裏には必ず“影”がある。
森の奥に潜む正体不明の存在――
それが二人の運命をどう変えるのか、次の章で少しずつ明らかになります。
「弱さ」と「強さ」、
「孤独」と「信頼」、
そして「光」と「影」。
この物語は、そのすべてが交わる場所へ、ゆっくりと進んでいきます。




