第十九話「ギルドへの調査と亞人への配慮」
王都に春の光が戻ったとはいえ、街の空気にはまだ冷たい影が漂っていた。
ギルドマスターの遺した空白、封じられた亞人たちの存在――。
真の平和を築くためには、過去の罪と向き合い、誰も取り残さない未来を作らねばならない。
リュウたちは、再生の第一歩として、ギルドへの調査と亞人への配慮に乗り出す――
王都ルヴェリアの北区――旧ギルド本部。
長年にわたる戦いの爪痕が、今も壁や床に残っていた。
砕けた柱、焦げた魔法陣、そして血の匂い。
静寂だけが広がるその場所で、リュウたちは再び足を踏み入れた。
「……ここがギルドの心臓部だった場所か。」
アサギが呟く。
彼の指先が、黒く焦げた机の上をなぞる。灰が指にまとわりつき、光の中で微かに舞い上がった。
リュウは机の上に散らばった書類を拾い上げ、目を通す。
古い契約書、登録記録、任務履歴……しかし、どれも肝心な部分が塗りつぶされている。
「消されてる……十年前以前の冒険者登録が、まるごと無い。」
リュウの声に、ひびきが眉を寄せる。
「それって、まさか――」
アサギが頷く。
「亞人たちの記録だ。王都から“存在を抹消された”者たちの名。
ギルドマスターが消したんだろう。彼は王国の裏側で、亞人を使って実験をしていた」
エリカが唇を噛みしめた。
「……魔法料理を“進化”させるため、っていう理由で?」
「そうだ。だが、実際には支配の道具にしようとしていた。
“食の力”を、人を操るために使おうとしたんだ」
リュウの拳が震えた。
「そんなの……許せない。食は、誰かを救うためのものだ。誰かを傷つけるためのものじゃない」
空気がわずかに震えた。
焦げた壁の奥、隠し扉の魔法陣が光を放つ。
アサギが素早く印を切ると、隠された地下室への階段が姿を現した。
階段の先には、冷たい空気が満ちていた。
結界の中には、封印されたガラスの棺が並んでいる。
その中に――人ではない存在たちの影が眠っていた。
獣の耳を持つ少女、鱗の腕をした男、翼の折れた天使のような者。
彼らはみな、冷たい眠りの中で、時を止められていた。
ひびきが口元を押さえる。
「これ……亞人たち?」
「……ああ。実験体として、記録を消された者たちだ。」
アサギの声は冷たく、怒りに震えていた。
「ギルドは“人の未来”のためにと言いながら、亞人を犠牲にしていた。
同じ言葉を使って、罪を覆い隠していたんだ」
リュウはゆっくりと近づき、棺のひとつに手を置いた。
「……まだ、生きてる。微かだけど、生命反応がある」
エリカが息を呑む。
「じゃあ……助けられるかも!」
リュウは強く頷いた。
「ギルドを再建するなら、まずは彼らを救わなきゃいけない。
亞人も人も、同じように生きる権利がある」
アサギは短く息を吐くと、肩の力を抜いた。
「お前、ほんと真っ直ぐだな。……だが、それが今の王都に必要なものだ」
リュウは棺にかけられた封印を一つひとつ解除していく。
魔法陣が淡く光り、冷たい空気が温かさを取り戻していった。
その中のひとつ――獣耳の少女が、微かに指を動かした。
「……だれ、なの……?」
かすかな声に、リュウは優しく微笑んだ。
「俺はリュウ。君を助けに来たんだ」
少女は弱々しく瞬きをし、そして涙を一粒だけこぼした。
その涙は、光に照らされながら小さな虹となって砕けた。
「ようやく……会えた……」
その言葉を最後に、少女は再び眠りについた。
リュウは静かに立ち上がり、仲間たちを振り返った。
「この国を本当に変えるためには、彼らの声を聞かないといけない。
亞人も、人も、同じ空の下で生きられる国を――」
アサギが口元に微笑を浮かべた。
「なら、俺たちのやることは決まってる。
ギルドの再生――いや、“共生の組織”を作るんだ」
王都の外では、春の風が再び吹いていた。
それは再生の風。
誰もが生まれ変わるための、優しい息吹だった。
この章では、戦いの後に残る傷跡と責任、そして亞人たちへの配慮を描きました。
真の再生は、単に街や建物を立て直すだけではなく、人々の心と命を取り戻すことから始まる――。
リュウたちの選択は、王都の未来だけでなく、異なる種族が共に生きるための新たな道を示しています。
次章では、亞人たちとの共生に向けた具体的な行動が描かれ、王都の真の再建が動き出します。




