“連れていって”と言う者は、全員連れていきますわ
コメディーです。
少しでも笑っていただけたら嬉しいです。
「なあ〜アリア〜。そろそろさ〜、離婚してくんない?」
──寝癖、王冠ずれてる、そしてチキンの骨をくわえたまま。
それが、我が国の王、ダメオ三世である。
「……」
わたくし、アリア・ツーレテイクは、心の中で静かに深呼吸した。
──来ましたわね。ついにこの阿呆が。
「いやさ〜、俺もさ〜。やっぱミナミナがいいな〜って思ってさ〜。知ってるでしょ? あの子、舌出して笑うのが可愛いんだよね〜。テヘペロって! アリアもやってみなよ、テヘペロ!」
「……陛下。まず、舌をおしまいください。そして、その口の中の骨を出してからお話しになって」
「あっ、これ? ランチのチキン〜。でもまだ味するから、取っとこうと思って!」
「ゴミです。それに、あなたは玉座をチキンの骨で作ろうとしていたではありませんか!」
「だって〜、チキン大好きなんだもん。チキンに囲まれて暮らしたいんだもんっ!」
「“もんっ”じゃありません! 全然かわいくない!」
「え〜ひど〜い〜。アリア、すぐ怒る〜。そういうとこだぞ〜」
「ではお尋ねしますが──わたくしとの離婚理由は?」
「だからさ〜。ミナミナが、“正妃になりたい〜”って言っててさ〜。ね? かわいいっしょ?」
「つまり、わたくしを側妃に降格させ、政務だけをやらせて、正妃は“テヘペロガール”に譲れと?」
「うんうん! わかってる〜! さすが俺の嫁〜!」
「離婚は了承いたしました。ですが──」
くるりと振り返り、わたくしは凛とした声で言い放った。
「わたくしは王宮を出てまいります。そして、“連れていって”と言う者は──全員連れていきますわ」
「へっ?」
「政務官、財務官、軍司令、衛兵長、侍女長、料理長、猫、犬、トイレットペーパー……彼らはわたくしの指示で動いております」
「いや、トイレットペーパーも!?」
ちょうどそのとき、ヒラヒラでフリフリのドレス姿のミナミナが、シャボン玉を吹きながら登場した。
「キャハッ☆ ダメオ様〜! アリアさんいなくなるってマジですの〜? やった〜! 今日からわたくしが王妃ぃ〜♡」
「喜んでる場合ですか!!」
思わず、ティアラを投げた。宰相がナイスキャッチ。
「では陛下。“愛と直感”だけで、この国を回してみなさいませ」
そう告げて、わたくしは一礼し、その場を後にした。
◇
王宮の門前には、すでに多くの者が集まっていた。
「アリア様、私も一緒に連れていってください!」
料理長。
いつも味付けが濃すぎる。
健康のためには置いていきたいところだけれど、彼の忠誠を尊重しましょう。
「アリア様、私も……!」
えーと、誰かしら?
顔には見覚えが──たしか門番の……。
「ありがとう、ジェイムス」
「……ジャイムスです」
あら、間違えましたわ。テヘペロ。
でも“ジャイムス”って言いづらくない?
“ジェイムス”でよくない?
「ヒヒーン、ヒヒ、ヒヒーン!」
──馬!?
『私も連れていって!』ってことかしら……?
……まあ、いたらいたで助かりますわね。
「アリア様……ワシも連れていってくだされ……」
──誰?
このおじいさん、誰!?
見たことないんですけど……。しかもプルプル震えていますわ。ついて来れるのかしら……?
「アリア殿、拙者も連れていくでござる!」
──さ、侍!?
この世界観に侍は存在しないはずですわよね!? しかも「ござる」って、本当に言われるのね。
「アナタハ神ヲ信ジマスカ?」
──宗教勧誘!?
この人、そもそも城にいなかったわよね!?
ていうか「連れていって」すら言ってないし!!
だから、連れていかなくてOKかしら……?
「ははははは! 我輩も連れていけ! お前に暗黒の世界を見せてやろう!」
──悪魔!?
悪魔まで来るの!?
この国の警備、どうなってますの!?
ジャイムス、ちゃんと仕事しなさいよ!
え、悪魔も連れていくの!?
「僕も連れていってください」
──また知らない方ですわ。
どこから湧いてきたのかしら?
「……失礼ですが、どなた?」
「昨日、助けていただいたトイレットペーパーの精です」
──トイレットペーパーの精!?
助けた記憶はありませんけれど……
でも、大事ですわよね、トイレットペーパー。
そのとき──
「アリア〜! 待って〜!」
──この声は。
「おい、アリア〜! オレも連れてってくれよ〜!」
バカ王──ダメオ三世が、玉座用のクッションを抱えて走ってくるではありませんか。チキンの骨をくわえながら。
その後ろには、ミナミナがヒラヒラのフリフリドレスで、ガニ股ハイヒールダッシュ中。
「アリア様〜! わたくしも連れていってくださいませ〜!」
……いや、お前も来るんかい!
こうして──
わたくしたちは、新たな場所へと旅立ちました。
いやいや、『“連れていって”と言う者は全員連れていきます』とは言いましたけども……。
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