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1.観測者
――忘れた記憶に、涙を流すことはできるだろうか?
宇宙探査員リオ・ハズマは、ある惑星の軌道上に浮かぶ人工衛星「ステーション・アーキ」に降り立った。
この基地は、2037年に地球から送り込まれた観測装置のはずだったが、記録によると「12年で応答が消えた」とされていた。
にもかかわらず、リオは信号を受け取った。たしかに“誰か”が、生きていると。
彼が内部に入ると、そこには人の気配も、音もない。ただ、壁に沿って古びた記録装置が点々と光っていた。
「記憶の欠片を保管します。再生を希望しますか?」
不意に、金属音のような女性の声が響いた。
「再生」
リオが声に出すと、天井のホログラムがゆらめき、青白い光の中に、ひとりの地球人女性が映し出された。
「こんにちは。もしこれを見ているなら、あなたは“観測者”ですね。私はレミニス。この基地の最後の人間です。」
彼女の声は淡々としていた。だが、不思議と涙を誘うような温度があった。