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05.イダとオリーヴ-Ⅰ-

 ユオンの孫娘イダとその妻オリーヴの物語は、ユオン・ド・ボルドーの続編として13世紀に作られた。

 この百合小説はタイトルの割に、ヒロインのオリーヴは本編を半分過ぎた辺りでようやく登場するし、その百合百合しい場面は終盤に集中している。


 物語の前半は、この物語の前日譚である「クラリスとフローラン」を引き継いでフローランがアラゴンの国王になり、クラリスが娘イダを産んで亡くなる場面で始まり、それからイダの成長や容姿が描かれる。

 曰く、ハヤブサのような瞳、背中まで伸ばした金髪の巻き毛に、雪のように白い肌。形の良い鼻、弓なりの眉、赤い唇に整った歯、繊細な手にほっそりとした指。腰は低目で、弓のような足。胸は無かった。


 それから物語の舞台であるローマに辿り着いて本筋に入るまでが以下の通り。


 アラゴンの王女イダが15歳になったとき、父フローランは教会法を無視して娘に自分との結婚を迫った。その翌日、凱旋した騎士団をフローランが迎えに行った隙に、イダは男装して馬に乗って逃亡する。

 その道中、イダはバライヨンでドイツの騎士団と出会い、彼らと共にローマのオトン王の元へ向かうことを決めた。ローマのオトン王はスペイン及びカスティーリャの王と係争中であり、スペイン人を悔い改めさせる良き機会であるとイダは考えたのだ。

 イダはドイツの騎士たちの信頼を得て同行を許される。

 その初陣は行軍を始めて一ヶ月経った頃。彼女は勇敢に槍を構えてスペインの騎士を打ち破るが、ドイツの騎士たちはスペインの騎士たちに全滅させられてしまい、イダは逃亡して森に隠れた。それから彼女を狙う森の盗賊たちを返り討ちにして、とうとうローマに辿り着いた。



 イダは宮殿の傍で馬を降り、階段を昇って王のもとへと進む。

 そして彼女は丁重に挨拶をする。

「天に御座す主が、ここに集う国王陛下、陛下の廷臣の方々、そして陛下の臣民たちを御救いされますように」

 王の広間に集うローマの人々は彼女の賢明な口振りに深く感心し、静かに立ち尽くして、熱心に耳を傾けた。


「そなたに神の御加護があらんことを」

 偉大な国王は快く挨拶を返す。

「友よ、そなたは何処から来たのか。領地は何処か。両親は誰か。誰を訪ねてこの地に参られたのだ」


「陛下」とイダは答える。

「陛下はすぐに答えを知ることになります。私は1アルパンの土地すら持っていない従騎士Escuiersです。私は長い間、ドイツで奉仕していました。しかしながら私は殆ど勝利を収めたことがありません」

「先日も私は強大な軍勢に遭遇しました。彼らはあなた方の殺戮を誓った者たちです。私は連中の半数を打ち殺したのですが、生き残りたちがスペイン王のもとに向かっているのです」

「それが、私が急いでこの地を訪れた理由です。私はあなた方に避難するようお伝えしに馳せ参じたのです」


 イダの知らせを聞き終えた後、国王は臣民に目を向け、そしてイダを見つめた。

 上背は高く、体格も良い。国王は彼女に逞しさがあるのを見た。将に快男子である、と感じ入る。


 そのとき、王の娘が広間に姿を現した。

 王国中を探しても、かの美しさに並び立つ者はいない。彼女の名はオリーヴ。優しさに満ち溢れた娘だった。多くの貴族たちが立ち上がって娘を出迎える。

 オリーヴは国王オトンの隣席に腰を落ち着けると、従騎士をその優しい瞳で見つめた。


 オトンは再びイダに尋ねる。

「そなたの名と、そして血統を述べよ」


 イダが応える。

「陛下。皆は私のことをタラゴーナのイダと呼んでおります。私の一族がその地に住んでおりますので。私は高名な貴族アインメリ・ナムレ髭伯の従兄弟であり、スコットランドのギルメールの血筋も継いでおります。ですが、私はハードレ家の者によって追放されて以来、大いなる試練に耐えてきました」


「つまり、そなたは我が親族であるな」

 オトンは言う。

「私はそなたをこの地に留めておきたい。そなたには大いなる豪胆さを感じずにはいられぬ」

「オリーヴ。我が娘よ。聞いておるか? 私はお前のためにこの見事な従騎士を留め置きたいと思っているのだ。この御方は必ずやお前の望みに応じるであろう」


 王の娘が言う。

「お父様。五百遍の感謝をお伝えしますわ。これほど嬉しいと思ったことは御座いません」

 ローマの人々は喜びと共にこれを承諾し、イダを歓迎した。


 国王はイダに呼びかける。

「友よ。私に仕え、そして我が命に従って貰いたい」

「私にはとても美しい一人娘がいる。そして当然だが、領地と王国を継ぐことになっている。彼女のため良き振舞いに努めるように。さすればそなたは数多の褒美に与るであろう」


「陛下、感謝申し上げます。私は良き振舞いに努めるでしょう。皆様も喜んで下さると思います」


「それではそなたの良き振舞いについてお尋ねしても宜しいだろうか」


「何なりと」

「私はイエス・キリストに祈りを捧げる方法や、名高き人々と接する方法を知っています。私自身の財産を貧しき人々に与えること、傲慢な人々を叩き出し、誠実な人々を傍に置くこと、そしてもし必要であれば軍旗を掲げ、戦場へ赴く方法さえも存じ上げております。陛下は抗争の渦中で、私をより危険な場所へと送り出すことも出来ます。何故なら私は痛撃を加える方法を知っているからです。もし私に悪意が向けられたとしても、私は自身の身を守る方法を知っていますし、心に抱く怒りを隠す方法も知っています。私は馬の世話の仕方も知っていますし、訓練の仕込み方や、水場への導き方も知っています。勿論、食卓での従者の作法もです」


「主が証人になって下さる。そなたが本当にそのような技量と勇気を持ち合わせているのならば、そなたは我が宮廷で良き待遇を受け、敬意を払われ、愛され、そして大きな尊敬を受けるであろう」

「私はそなたがこの地を訪れたことを喜ばしく思う。そなたには私の傍に仕えることを望んでいる」


 それを聞くと、イダは深々と頭を下げた。

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