54話 レオへの手紙。
本日4回目投稿。まだ読んでない人はそちらからどうぞ。
オーネスト公爵邸から帰った後。
ソフィアはすぐに解毒薬の解析に取り掛かった。
ロベリアは口では毒ではないと言っていたが、アメリアに毒を盛ったのはロベリアだ。警戒するに越したことはない。
「よし、毒じゃない」
そしてこの瓶に入っている液体が毒ではないことを確認すると、すぐに馬車を飛ばしてアメリアのいるミカエルの屋敷へと飛んで行った。
ロベリアは二週間かけて身を蝕むので今すぐに死ぬことはない、と言っていたが解毒は早ければ早いほどいい。
ソフィアはミカエルの屋敷に到着した。
「薬を持ってきたので、アメリアに会わせて欲しいんです」
そして使用人にそう告げる。
使用人はソフィアの顔は記憶しているので、顔パスでアメリアの元へと通した。
ソフィアはアメリアの部屋へと早歩きで向かう。
アメリアの部屋に到着すると、そっと扉を開けた。
アメリアはベッドの上で寝ていた。
ミカエルがそばについて、心配そうな瞳でアメリアの手を握っていた。
「……ソフィア?」
アメリアは部屋の扉が開かれたことに気がつくと体を起こし、ソフィアの姿を見て首を傾げた。
ミカエルもソフィアに気がついたようで、一体どうしたのかと不思議そうな表情で見ていた。
(やっぱりまだ辛そう……解毒薬では治らないっていうのは本当だったんだ)
アメリアの顔色は研究所に来た時から全く変わっておらず、それよりも悪化しているように見えた。
ロベリアの他の解毒薬が効かないという言葉は本当だったのだと、恐ろしい気分になった。
もしあのままソフィアがロベリアの手紙を無視して、オーネスト公爵邸に行かなかったら、アメリアは死んでいたのかもしれない。
「どうしたの、急に……けほっ」
「アメリア! 大丈夫かい!」
苦しそうに咳をしたアメリアにミカエルは不安そうな表情で手を握る力を強めた。
ソフィアはアメリアに解毒薬の瓶を渡す。
「その、……新しく薬を持ってきたの。これを飲めば多分体調は良くなると思う」
ロベリアが毒を盛ったことは伏せることにした。
ロベリアの話が本当なら、まだこの屋敷にはアメリアに毒を盛った犯人がいるし、口止めをされているのにアメリアにバラしたことが伝われば、またアメリアに毒を盛られるかもしれない。
解毒薬はこれ以外にないのだから、用心するに越したことはない。
それに本人がすぐに自分で密告すると言っていたので、ソフィアがここでバラさなくても犯人はすぐに捕まるだろう。
「本当? ありがとう」
アメリアは少し力無く笑って、ソフィアから瓶を受け取る。
そして瓶の蓋を開けると中身の液体を飲み干した。
アメリアは苦い表情になった。
「……う、やっぱり苦い……」
「苦い方がよく効くんだよ」
ソフィアはクスリと笑う。
これでアメリアの毒は解毒された。
アメリアの死を回避できたことに、ソフィアは安堵する。
「私、もう帰るね」
「えっ……もう少しいれば良いのに」
アメリアはすぐにソフィアが帰ろうとしたことに、少し残念そうな顔になった。
「ううん、私、どうしてもしなくちゃいけないことがあるの」
「それなら強くは引き止めることができないけど……」
「またね、アメリア。お大事に」
「何から何までありがとう、ソフィア」
「ミカエル様も、また」
アメリアとミカエルに別れを告げると、ソフィアは屋敷へと戻った。
自分の部屋の机に座ったソフィアは、自分の持っている中で一番上等な便箋と紙を取り出した。
そしてペンにインクをつけて、手紙にレオへの想いを綴っていく。
愛していること。
レオと出会った時のこと。
婚約者になれて、本当に幸せなこと。
明日の正午に屋敷に来て欲しいこと。
そして最後にもう一度、レオを愛していること。
ソフィアが想像していたよりもスラスラと手紙は書けた。
後はレオに出すだけ。
便箋に手紙を入れたソフィアは、額に当てて目を閉じる。
「絶対に、レオは私のところに来てくれる。大丈夫」
ソフィアは手紙をレオの元へと送った。
明日の朝にはレオの元へと届いて、レオは手紙を読むことだろう。
ロベリアの手紙と同時に。
ソフィアは、レオがソフィアを選んでくれると確信している。
そうは言っても、その日ソフィアはなかなか寝付くことが出来ず、結局夜遅くまで眠ることができなかった。
そして、翌日。
ソフィアはこの日は研究室へと赴かなかった。
今日は大切な日なので、研究室へ行ってもろくに研究に手がつかないだろうと思っていたからだ。
いつもはどんな日でも研究室へと向かっていたソフィアを、両親や使用人は不思議そうに見ていた。
普段はあまり気を遣っていないファッションにも気を遣い、自分をできるだけ飾り立てたソフィアはソワソワと正午が来るのを待っていた。
「そろそろ正午だ」
ソフィアは立ち上がり、門の外でレオが来るのを待っていた。
しかし空を見上げるとどんよりと曇っており、黒い雲がソフィアをどこか不安な気持ちにさせた。
使用人がソフィアに中に戻るように説得する。
「農家出身の使用人が言ってましたが、今日は雨が降るらしいです。早く屋敷の中に戻った方が……」
その農家出身の使用人の天気予報は、必ずと言っていいほど的中する。
だから雨が降るというのも本当なのだろう。
しかしソフィアは優しく首を横に振る。
「大丈夫、私はここで待ってるから」
使用人はソフィアの表情から屋敷の中に戻るつもりはないことを理解して、説得できないと分かったのか渋々屋敷の中へと戻っていった。
正午の鐘が鳴った。
レオがそろそろやってくる。
ソフィアは胸の前で拳を握りしめ、レオが来るのを待っていた。
しかし。
五分待っても。十分待っても。
レオはやって来なかった。
「…………」
ぽつ、ぽつと雨が降ってきた。
それは次第に大雨へと変わっていき、石畳に雨粒の跡を残すと同時に、ソフィアを濡らしていった。




