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【コミカライズ化!】虐げられの魔術師令嬢は、『氷狼宰相』様に溺愛される  作者: 水垣するめ
一章 冤罪で婚約破棄された私は『氷狼宰相』様と婚約することになりました。
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5話 氷狼宰相様と婚約

「こ、婚約……!?」


 突然の提案にソフィアは驚いていた。

 昨日婚約破棄されたところなのに、婚約の話が来るとは考えもしなかったのだ。


「婚約ですか……」


 隣で跪いているレオはあまり驚いていないようだ。

 まさかこの展開を予想していたのだろうか。


「ああ、昨日は私の息子であるデルムが一人で愚行を犯して迷惑をかけてしまい申し訳ない。宰相が婚約破棄されたのは息子が原因でもある。二人とも、本当に申し訳なかった」


 国王はソフィアとレオに向かって頭を下げた。


「お顔を上げてください」


 ソフィアは慌てるだけだったが、レオは毅然とした態度で国王にそう言った。

 国王に頭を下げられて眉一つ動かさないのは大した度胸だと言えるだろう。


「ありがとう。実は許してもらえないんじゃないかと昨日からヒヤヒヤしていたんだ」


 許してもらえないなんて、そんな訳がない。

 国王が頭を下げたのなら、その謝罪を受け入れる以外に道はないのだから。


「昨日、ソフィアもレオも婚約破棄されただろう」


 ソフィアは昨日のデルムの言葉を思い出す。

 そう言えばデルムは、隣にいるレオも昨日婚約者である公爵令嬢のロベリアから婚約破棄されたと言っていた。


「そこで一つ提案として、二人が再度婚約してはどうかと思ったのだ」

「お受けいたします」

「うぇっ?」


 レオが即答したため、変な声が出てしまった。

 まさか婚約するかどうかの問いに即答されるとは思っていなかったのだ。


「ソフィアはどうだ?」

「どうと言われましても……」


 ソフィアは展開の急さに困惑していた。一度状況を整理するための時間が欲しい。

 突然いろんなことが起こったため、深呼吸する。


 そう言えば、さっき両親が「受けるかどうかはソフィア次第」と言っていたのはこのことだったのか。

 恐らく予め王家からは手紙がきていたので、そこでこの婚約の話を持ち出したのだろう。

 つまりはソフィアの両親はこの婚約を了承している、ということだ。


(私と宰相様が……婚約?)


 ソフィア側にはメリットしかない。

 デルムに冤罪を着せられて婚約破棄された今、ソフィアがもう一度婚約できるかは怪しい。

 そこで公爵家であり、この国の宰相でもあるレオと婚約できるというのなら、それは願ってもいないことだ。


 しかし、レオが婚約するメリットが分からない。

 レオは宰相なのだから、ソフィアのような侯爵令嬢と婚約しなくても引くて数多のはずなのだ。

 それだけに何故引き受けたのかが分からなかった。

 ソフィアがあまり乗り気ではなかったことに気がついたのか、国王が質問してきた。


「婚約に何か問題があるか?」

「いえ、とてもありがたいと思っています。私なんかが宰相様と婚約してもいいのかと少し困惑していて……」


 ソフィアは正直に胸のうちを話すことにした。


「私はよくお似合いだと思うわ」


 国王の隣に座っていたエリザベス王妃が話に加わってきた。

 ソフィアとエリザベスの両者は以前お茶会で顔を合わせたことがあった。


「彼と婚約するのが嫌ではないのなら、この話は悪くはないと思うけど?」

「ですが……」

「私はソフィアはそれほど卑下するような人間では無いと思うがな。昨日も見ず知らずの老人を助けていたではないか」

「えっ、何故そのことを……」

「何、変装魔術は私の得意な魔術だ」

「っ! その姿は……!」

「すまないが、昨日は試させてもらった」


 気がつけば、国王が昨日助けた老人になっていた。


「そのせいで大切な研究資料を台無しにしてしまい、申し訳ない。あれは研究所に戻るための実績としての唯一の成果だったんだろう?」

「い、いえ……」


 また頭を下げられたソフィアは慌てて自分も頭を下げた。


「だが、君が私を助けてくれたことで、私は宰相との婚約を勧めることを決心した。素晴らしい人間であることに加えて、魔術の腕も一流だ。婚約しても何もおかしくないと思うが?」

「そんな……私は何も実績を残せていません」

「いいや、そんなことはない。私を助けた時肌で感じたが、魔術の操作も多重の発動も並の魔術師では到底到達できないところまで達していた。恐らくずっと研鑽を重ねていたのだろう。誇っていい」

「……ありがとうございます」


 じん、とソフィアの目に涙がたまる。

 研究所ではデルムの雑用ばかりで、そのせいで周囲からは出来損ないだと言われ続けてきた。

 しかし、国王は自分の努力を認めてくれた。それが嬉しかった。

 国王の言葉でソフィアは少しだけ自信が取り戻せたような気がした。


「どうする、あとは自分の気持ちだけだ」

「そうですね……」


 本当にその通りだ。

 断るべき理由なんてどこにもない。あるとすれば自分が釣り合っていないことだけ。


(デメリットはない。あとは私の覚悟だけ)


 ソフィアは覚悟を決め、顔を上げた。


「婚約のお話、お受けいたします」


 ソフィアがそういうと国王とエリザベスが嬉しそうな声を上げた。


「そう! 良かったわ。これで両家に顔向けができるわね」

「では、婚約はすぐに行おう。私が見届け人になろう」


 国王が見届け人になるということはこの婚約は王命になる。

 簡単には破棄できないが、もう後戻りはできない。


「はい。ソフィア、立て」

「は、はいっ」


 レオは頷くと、ソフィアの方を向いてそう言った。

 ソフィアが立つと、レオはソフィアの前に跪き、ソフィアの手を取った。

 そして手の甲に軽くキスをした。


「私、レオ・サントリナはソフィア・ルピナスに対して婚約を申し込む」


 そのマリンブルーの目で見つめられたソフィアは少し照れながら頷く。


「婚約をお受けいたします」


 ソフィアが婚約を受けた。

 この瞬間から、ソフィアとレオは婚約者同士になった。


「書類の関係は後から。まずは二人でゆっくり話でもして、仲を深めると良い」

「はっ、お気遣いありがとうございます」


 レオは国王にお礼を言うと、ソフィアに腕を差し出した。


「えっ?」

「どうした。腕はいいのか」

「あ、えっと、はい」


 ソフィアは言われるがまま、レオの腕をとる。


「それではこれで失礼いたします」

「ああ、今日は急に呼び出してすまなかった。二人の行く末を祝福している」

「し、失礼します」


 レオはそう言うと歩き始めた。

 ソフィアは隣についていく。

 無言の時間が続く。気まずくなったソフィアはレオに行き先を尋ねた。


「あの、宰相様、どちらへ向かわれるのですか?」

「俺の執務部屋だ。机もあるし、話をするのに向いている」


 さっき国王が言っていたゆっくり話をして仲を深めるという言葉を実行するつもりのようだ。


「ソフィア」

「えっ、はい」


 いきなり名前を呼ばれたのでソフィアは肩を跳ねさせる。


「俺のことは名前で呼べ」

「で、でも」

「婚約者になったんだ。構わない」

「それでは……レオ、様」


 流石にいきなり名前を呼び捨ては躊躇いがあったので様をつけながらレオの名前を呼ぶと、レオは軽く頷いた。


「その……レオ様」


 ソフィアは遠慮がちにレオに質問する。


「どうして私と婚約なんかを……。私と婚約しても良い事なんて無いのに……」

「そうか? 俺は婚約できて良かったと思ってるぞ」

「……えっ!?」


 ソフィアはレオの顔を見るが、レオは冷たい無表情からは何の感情も読み取ることができない。


「そ、それはどういう……」

「ついたぞ」


 レオの執務部屋に到着したらしい。

 レオが扉を開けて先に入るように促されたので、ソフィアは部屋の中に入る。

 さすが王宮の中に作られた宰相の執務部屋だけあって、広い。

 部屋の窓側に執務をするための机を置いていて、その手前には来客に対応するための机とソファがある。

 執務机の上には何枚か紙が散らばっていて、忙しさを感じさせた。


 ただ仕事をするための部屋かと言えばそうではなく、絵画や調度品、ティーセットも置いてあり、休憩する時もバッチリ疲れをとることができるだろう。

 そして奥の方には忙しい時に仮眠をとるためのベッドが置いてある。ソフィアは仮眠をとる時も机に突っ伏して寝るだけだったので、簡易的では無い、本格的なベッドが仮眠用として置かれているのはとても羨ましい。


「そこに座れ」


 ソファを指されたのでソフィアは座る。レオもソフィアの対面に座った。


「さて、何から話すか……」


 レオが腕を組んで考える。

 そしてソフィアの顔を見て、とあることに気がついた。


「顔色が悪いな」

「え?」

「目に隈も出来ているし、寝ていないのか」

「はい、実は昨日あまり眠れていなくて。その前も三日徹夜していたので……」


 実は、ソフィアは昨日デルムに婚約破棄されたことを考えており、少しの間しか眠ることができなかった。

 加えて朝から王宮からの召喚状の件もあって、まともに眠っていない。

 化粧で誤魔化していたが、やはり近くで見ると分かってしまうらしい。


「そうか」


 レオはそう言うと立ち上がった。

 いきなり立ち上がったレオに困惑していると、レオはソフィアのそばにやって来て──ソフィアを抱き抱えた。


「──!?」


 ソフィアは声にならない悲鳴をあげる。

 恐ろしく整った顔が近い。

 そしてレオはソフィアを仮眠をとるためのベッドまで運んでいくと、優しく下ろした。


「っ!!」


 ソフィアの心臓が跳ねる。

 自分を抱き抱えているレオに聞こえるのではないか、と思うくらいに心臓の音が大きい。


「ソフィア」


 レオの手が伸びてきて──。

 ソフィアは目を瞑った。


「話す前に少し休んでおけ。そんなに疲れていては話が入ってこないだろう」


 優しく布団をかけられた。


「…………はい」


 ソフィアは小さな声で頷いた。

 そして全くの勘違いをしていたことに気がついて、恥ずかしさに耐えられなくなったソフィアは顔を逸らした。

 さっきまでのドキドキは別の意味のドキドキになっている。

 まともにレオの顔を見ることができないくらい恥ずかしい。

 こんなに感情が昂っていると眠れないかと思ったが、ソフィアの考えに反して、体は疲れていたのかベッドに入るとすぐに眠気が襲ってきた。

 瞼が落ちてくる。


「……おやすみなさい」


 レオの顔を見ながらゆっくりと、ソフィアは眠りに落ちていった。

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