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【コミカライズ化!】虐げられの魔術師令嬢は、『氷狼宰相』様に溺愛される  作者: 水垣するめ
二章 『氷狼宰相』様と婚約した私は溺愛されます!

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43話 盗賊団討伐(1)

 盗賊団討伐の日になった。

 森の中に建てられたテントの中には盗賊団討伐の本部が設置されており、最終的な作戦会議が行われていた。


「盗賊団はこの山を越えた、一つ先の山に潜伏している。構成員は約五十名。中には盗賊団の頭と見られるジルドンという男もいることが確認されている。ジルドンは高い戦闘力があり、加えて魔術封じの魔術具を持っているので、魔術師は警戒すること!」


「「「ハッ!」」」


 今回、騎士団を率いる隊長であるジークリヒは、手短に注意事項を伝えた。

 それに対して騎士たちはよく訓練されていることが分かる、揃った声で返事をした。

 ソフィアとレオの方はというと、テントの後方で彼らの話を聞いていた。

 一応ソフィアとレオは今回の作戦を行う同じ仲間となっているので、作戦会議には参加している。


「それで、今回の作戦だが、先日飛び抜けた実力を見せたソフィア様の討伐案を採用することとなった。ソフィア様、もう一度今回の作戦についてご説明いただけますか?」


 ジークリヒがソフィアに今回の作戦の説明を求める。

 先日、盗賊団討伐における作戦をソフィアはジークリヒに一つの案として提案したのだが、ジークリヒはそれを気に入ってしまい、本当に作戦が採用されることとなったのだ。


「は、はい……」


 その場にいた騎士全員の視線がこちらを向いたので、ソフィアは少し緊張しながらも、前に出て今回の作戦を説明した。

 ソフィアが提案したのは至ってシンプルな作戦だ。


「盗賊団についてですが、私の魔術を使い、全員を捕縛します。その後、魔術によって捕縛された盗賊団を皆さんが一人ずつ無力化してください」


 ソフィアの発表した計画に、騎士たちは困惑していた。

 一応事前に騎士たちには作戦は説明されていたはずだが、実際に聞いてみるとやはり混乱するらしい。


「作戦開始の前にできるだけ疑問は解消しておきたいので、質問などがあれば受け付けます」

「質問、よろしいですか」


 騎士の一人が手を挙げる。

 手を挙げたのは、先日の模擬戦でソフィアに大敗を喫して、ソフィアを睨んでいた乱暴な騎士のムックだった。

 ソフィアが気に食わないから、少しでも粗を探してやる、という魂胆が透け透けの表情だった。


「盗賊団を魔術で一人残らず捕縛するのは可能なのですか? 少し荒唐無稽だと思いますが」

「可能です」


 ソフィアは断言する。

 魔術に関しては、ソフィアが引くことはない。

 キッパリと断言したソフィアに、ムックは少し気圧されながらもさらに質問をする。


「し、しかし魔術で捕縛すると言っても、逃す場合があるのでは?」

「それはないと思います。私の新しい魔術は山を丸ごと覆うので」


 ソフィアの言葉に他の騎士は驚いていた。


「や、山を魔術で覆う?」

「そんなの無理だろ」

「そ、そんなことができるのか……?」

「いや、以前の模擬戦で何を見たんだ。できるに決まってるだろう」


 騎士たちの評価は賛否両論だった。

 聞いている限りは賛成の意見の方が多そうだった。

 ムックは負けじとソフィアに質問する。


「し、しかし! 万が一ということがあります! その時はどうするのですか!」

「可能性としてはあります」


 確かに、可能性論としては失敗はないとは言い切れないので、頷かざるを得ない。

 だが、ムックのしていることは殆ど揚げ足取りだ。可能性を挙げていけばキリがない。

 ソフィアが肯定したのを見て、ムックは愉悦の笑みを浮かべた。


「ハッ! やはりそうでしょう! この作戦は穴だらけ──」

「しかし、それは私のせいではないかと」

「は?」

「私が受け取った情報は『盗賊団は全員山の中に潜伏している』という情報です。山以外にも潜伏しているというなら、魔術の範囲を広げています。もし盗賊団を逃したとすれば、それは予め情報を集めきれていなかった方の責任ではないかと」


 ソフィアは一切臆さずに、作戦が失敗する時は自分の責任ではないと告げる。

 言外に『魔術では失敗しない』というニュアンスを含ませて。


「そもそも、非の打ち所がない、万に一つも失敗する可能性がない作戦なんて存在するんですか? あるなら今すぐに提案してください。私も喜んで推薦させていただきますので」


 これはソフィアの本心だった。

 ソフィアは魔術を失敗するつもりはないとはいえ、万が一はあり得る。

 そのためより失敗するリスクの少ない作戦があるなら、ソフィアの魔術を使う機会がなくてもそちらを採用するべきだと思っていた。


「このっ……!」


 ムックは眉を吊り上げてソフィアに向かって怒鳴ろうとする。

 しかしそれをジークリヒが制した。


「ムック、いい加減にしろ」


 先ほどからソフィアに対して突っかかっているムックに、ついにジークリヒは咎めた。


「これは騎士団で検討を重ねて採用した作戦だ。お前如きが口を挟んでいいものではない」


 ムックに対して有無を言わさぬ声でそう言うジークリヒの口調は、この盗賊団討伐隊を背負う隊長として威厳を感じさせた。

 隊長としてムックを諌めようとしているのだろう。


「ですが、極力リスクは減らさないと!」

「極力リスクを減らしたのが、この作戦だと言っているんだ。これ以外では戦闘は避けられず、騎士団にも被害が出る。魔術で捕縛すればその心配はなくなる」

「屈強なる騎士団が盗賊如きに遅れを取るとは思えません!」

「お前、何を言っているんだ……? 自分で言ったことと矛盾してるぞ。リスクを減らすのに、戦闘行為を許容するのか?」


 ジークリヒは呆れた様子でため息をついている。

 周囲の騎士は、あまりにも分かりやすく論破されたムックを見て笑う。

 テントの中が控えめな笑い声で満たされた。朗らかな笑いではなく、どちらかといえば失笑に近かったが。


「なっ……! なっ……!」


 ムックは顔を真っ赤にして怒る。

 何か言い返したかったが、完全に論破されたので何も思いつかない、といった顔だった。


「お前が私怨でソフィア様に突っかかっているのは誰の目から見ても明らかだ。これ以上しつこいようなら作戦から外す。それでもまだ続けるか?」

「なっ……!? ぐっ……!」


 流石に作戦を外されるとなれば黙らざるを得ないのか、ムックはジークリヒへの反論をやめた。

 ただ、まだムックの怒りは収まっていないようで、悔しそうに拳を握りしめていた。

 ムックは怒りのぶつける場所を探して、キョロキョロと辺りを見渡し、最終的にソフィアを睨んだ。


(いや、何で私……)


 確かにムックからすれば、全ての始まりはソフィアなのだろうが、ソフィアはただ疑問に答えていただけだ。

 ムックが恥を被ったのは自分自身の言動の結果だし、八つ当たりをされても困る。


「他に作戦に異議を唱える者はいるか!」


 ジークリヒは騎士団に問う。

 流石にもうソフィアの提案した作戦に異議を唱える者はいなかった。


「それでは、作戦の開始時刻になるまで、それぞれ準備を。ソフィア様と宰相様の護衛には第一班をつける。以上!」

「「「ハッ!」」」


 ジークリヒに言われた第一班は勢いよく返事をする。

 しかしその中に未だにソフィアを睨んで不服そうにしているムックを見つけたソフィアは手を挙げて、ジークリヒの名前を呼んだ。


「ジークリヒ隊長。一つよろしいでしょうか」

「はい、なんでしょうか」

「私からお願いがあります。護衛から彼を外してください。先ほどから睨まれており、まともに作戦をこなせないと考えます」


 ソフィアは先程からソフィアを睨んでいるムックを指差した。

 ムックは急にソフィアから名指しで班を外すように言われ、驚いていた。


「なっ!? お前、何を──」


 ムックはただ悔し紛れにソフィアを睨んでいただけなのだろうが、護衛という近くに自分にお門違いの恨みを抱いている人間がいるというのは、かなり怖い。

 いつ剣を抜いて襲ってくるかも分からないし、万全を期すには護衛から外れてもらった方がいい。

 そのソフィアの気持ちをジークリヒは察したのか、ソフィアのお願いを受け入れた。


「尤もですな。了解しました」

「えっ」

「ムック! お前は第一班から外し、第十班に入れる! 捕縛された盗賊団を捕える仕事をこなせ!」

「そんな! 俺を雑用係にするつもりですか!?」


 ムックは信じられないと言った目でジークリヒに抗議する。

 どうやらムックは精鋭である第一班から、雑用係である第十班へと向かわされたようだ。

 滅多にないほどの転落ぶりだが、事情を知っている人間からすれば同情すら湧かない処遇だろう。


「これは隊長命令だ」

「待ってください! いくらなんでもそれはあんまりです! 俺はもっと良い作戦があると思っただけで……」


(どの口が……完全に私をこきろおすつもりだったくせに……)


 ソフィアは、今までの言動は騎士団のことを考えてのことだと、白々しく忠臣ぶるムックを冷めた目で見つめる。


「黙れ、そもそも一介の騎士にすぎないお前が、審議の上決められた作戦に口を出し、隊長である私に意見をすること自体がおかしいのだ! 上司に従うことのできない騎士などまともに扱うことすらできないだろう!」


 ジークリヒの言葉は正しい。

 戦場において隊長の言葉に反発した命令を聞けない騎士に、誰が大切な役目を任せると言うのだろう。

 雑用どころか、今すぐにでも王都に送り返されてもおかしくない言動だということに、ムックは気づいているのだろうか。


「〜〜ッ!!」

「悔やむなら、一度警告したのに態度を改めなかった自分自身を悔め! いいな!」


 ジークリヒはムックに確認する。

 ムックは顔を真っ赤にしてソフィアを睨みつけ、しかし隊長であるジークリヒの言葉に逆らえば今度こそ王都へと送り返されると考えたのか、観念したように項垂れた。


「………………はい」


 ムックはか細い声で返事をする。

 しかし、前髪で遮られ、隠れた顔は。

 唇から血が出るほど噛み締め、ソフィアを血走った目で睨んでいた。


 そして、作戦が始まった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ムックは単なるナルシスト+脳筋・・( *´艸`)なのでしょうかね。 ここまで、ソフィアを認められない気持ちって何なんだろうって・・それとも、過去の体験の中に女性を見下す原点があったのか・・何…
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