37話 実力の証明
「よし……こんな所かな?」
ソフィアは机から顔を上げて、額の汗を拭った。
今、ソフィアは魔術具を作成していた。
先日、ソフィアは盗賊団に誘拐された。
その時にソフィアは盗賊団の頭領であるジルダンに魔術を発動できなくなる魔術具を嵌められてしまった。
そのせいで一切の魔術が使えなくなったソフィアは、囚われている場所から脱出することができず、危険にさらされてしまった。
それから学んだソフィアは、もしまた今度魔術を使えないような状況に陥っても最低限自衛できるように、対抗手段措置としての魔術具を作っていた。
「別に専門じゃ無いけど、今回は上手く作れたかも……」
筒型の魔術具を明かりにかざして確認する。
長さ三十センチほどの装飾の施されていないシンプルな筒には、ソフィアのアイデアが詰まっている。
納得の行く出来であることを確認すると、ソフィアは魔術具に魔力を通してみた。
「よし、問題なく動く」
魔力も通り、魔術具は問題なく動作した。
これで魔術具は完成だ。
「よしっ!」
ソフィアは魔術具の完成を喜ぶ。
そしてしばらくその喜びに浸ると、ソファに深く座った。
「ふぅ……久しぶりに作ったから緊張したぁ」
ソフィアは緊張感で張り詰めていた心を緩めるために、深く息を吐く。
「やっぱり、いつ爆発するか分からないから魔術具作りは怖いな……」
ソフィアはやれやれ、とため息を吐く。
一つ魔術具を作るためだけでも、爆発するかどうか心配していなければならない。
「世の魔術具を作っている職人の人には頭が上がらないなぁ……」
ソフィアは世界の魔術具職人に対して尊敬の意を表した。
ちなみに、ソフィアが爆発するような魔術具ばかりを作っているだけで、普通の魔術具作りなら爆発の心配は存在しない。
その時、研究室の扉を誰かがノックした。
「はい」
ソフィアは返事をする。
扉の向こうから聞き慣れた声が返ってきた。
「俺だ」
「レオ!? ちょっと待って……!」
魔術具を開発していたため、机の上にはいろんな素材が散乱していた。
いつもの光景とはいえ、乙女的に好きな人に部屋が散らかった状態を見せるのは少し嫌だ。
ソフィアは慌てて魔術具の諸々について片付けると、鏡で身だしなみをチェックした。
ついでに服も大丈夫か確認する。
「よし……!」
身だしなみのチェックを終えると、ソフィアは扉を開けてレオを部屋へと招き入れた。
「待たせてごめんね。レオ」
「いいや、気にすることはない」
レオは部屋の中に入ってくると、中をぐるりと見渡してソフィアに聞こえなくらいの小さな声で呟いた。
「…………いつもと比べると片付いているな」
「え? 何か言った?」
「いや、何でもない」
レオは首を振って、慣れた動作でソファの上に座る。
ソフィアはレオに紅茶を振る舞うと、同じようにソファに座った。
「今日はどうしたの?」
「今日の用事はソフィアへの報告だ」
「報告?」
「そろそろ、本格的に動こうと思う」
「動くって、デルム様について?」
「いや、そっちじゃない。盗賊団の方だ」
アメリアのこともあったのでてっきりデルム第二王子のことだと思ったのだが、違うようだった。
考えてみれば当然だが、盗賊団の頭であるジルドンなら雇い主であるデルムのことを白状するだろうし、何よりソフィアを誘拐したまま逃走しているのだ。早く捕まえるに越したことはない。
「ジルドンに依頼主の証言をさせれば、第二王子とロベリアを追い詰めることが可能だからな」
「ジルドンがどこにいるかは分かってるの?」
「ああ、連日の尋問によってアジトの位置を吐いた。先日ソフィアが攫われた時、手下は全員依頼主について話さなかったがアジトは知っている」
そこまで話して紅茶を飲むレオを見て、ソフィアは質問した。
「まさか……レオもそのアジトまで行って盗賊の討伐を?」
レオが頷く。
「ジルドンは盗賊だが、以前打ち合った時に腕があることが分かった。アイツを真正面から倒せるのは騎士団の中でも数人だろう」
「だからって、レオが行く必要は……!」
ソフィアは盗賊団討伐にレオが行くのを止めようとしたが、レオは首を横に振った。
「もう決まったことだ。騎士団の調整も終わって、三日もすれば盗賊団討伐が始まるだろう」
「三日……」
ソフィアは日程を聞くと顎に手を当てた。
「……それ、私も同行してもいい?」
「駄目だ」
「なっ、何で……」
食い気味に否定されたので、ソフィアは困惑した表情を浮かべてレオに質問する。
「危ないからだ。負けることはないだろうが、何が起こるか分からない。もしかしたら盗賊の討ち漏らしがソフィアに危害を加えるかもしれない。そんな危ないところに連れてはいけない」
「で、でも……」
「前回も誘拐されたんだ。また同じことが起こらないとは限らない」
「……」
ソフィアはムスッとした顔になった。
「そんな顔をしても駄目だ」
しかしレオは厳しく、付いてきては駄目だと言う。
段々とソフィアの中に不満が溜まってきた。
さっきからずっと危ないと、言外に戦力外だと言われ続けたソフィアにだって、魔術師としてのプライドはある。
レオに、自分も戦えるのだと証明しなくてはならない、とソフィアは決意した。
「分かった。私が戦える力があるって証明したらいいんだよね?」
「そういう話では……」
「レオ、今からちょっと時間をもらっても良い?」
「ああ、今日はソフィアのために午後の時間は全て空けてきた。どこへでも付き合おう」
前回、自分の言葉足らずのせいでソフィアに誤解を招いてしまったことを反省したレオは、ソフィアとゆっくり過ごすために、仕事を終わらせていた。
そのため、午後は丸々時間が空いている。
この時間をデートや、二人で話したりするための時間にしようとレオは考えていたのだが……。
「じゃあ、今から王都の外の森に魔獣狩りに行かない?」
「……」
ソフィアが提案してきたのは、全く別のことだった。




