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【コミカライズ化!】虐げられの魔術師令嬢は、『氷狼宰相』様に溺愛される  作者: 水垣するめ
一章 冤罪で婚約破棄された私は『氷狼宰相』様と婚約することになりました。

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28話 誘拐

 視線は、それからもずっと感じていた。

 研究所の中でも、家に帰ってもどこからでも視線を感じた。

 後ろを振り返ってもいつも誰もいないので、薄気味悪さを感じながら過ごしていた。

 ソフィアは尚もレオには相談しなかった。


 それが仇となった。

 その日は、なんてことのない、普通の日だった。

 いつものように研究に没頭していたソフィアが軽く伸びをしながら窓を見ると、外はもう陽がほとんど沈みかけていた。


「もうこんな時間……」


 時計を見ると、時刻は六時。

 たまに研究室にこもって過ごす日があるが、今日はなんとなく帰って寝たい気分だったので、帰ることにした。

 研究所を出て、少し歩いていると。


「っ!?」


 後ろから誰かがソフィアを羽交締めにしてきた。

 近づかれるまで全く気配に気が付かなかった。

 ソフィアを襲った人間は複数人の犯行組で、一人が羽交締めしている間に、もう一人が懐から布を取り出した。

 そして口元に布を当てられた。

 つんと鼻を刺激する薬品臭。

 これは吸い込んだらまずい!

 そう考えた瞬間ソフィアの意思に反して瞼が落ちてきた。

 抗いようのない眠気。布に染み込ませてあったのは、どうやら睡眠薬のようだった。


「そのまま眠っててくれよ」


 野太い男の声を聞きながら、ソフィアは眠気の中に落ちていった。




 ソフィアは目を開けた。

 固い床に寝かされているようで、体が痛い。


「ここは……」


 そう言えば、どうしてこんな所に──。


「っ!」


 その瞬間、ソフィアは拉致されてここまできたことを思い出した。

 素早く起きあがろうとするが、腕を縛られているようで、起き上がるのに手間取った。


「私は、連れさられた……?」


 ソフィアは周囲を見渡す。

 石畳の床に、幾つかの木箱が置かれている。

 壁面の蝋燭の灯りが部屋を薄暗く照らしていた。

 窓は無い。恐らく地下か、窓の無い建物だろう。

 体感時間だが、気絶していた時間はそれほど長くはない。恐らく王都からは出ていないだろう。


「取り敢えず魔術で脱出を……」


 ソフィアは魔術を使い、腕の拘束縄を解こうとした。

 しかし魔力をこめ、魔術を発動しようとした瞬間、魔力が掻き乱され発動に失敗した。


「なっ、これはまさか魔術を封じる魔術具……!?」


 ソフィアは驚愕した。

 魔術具はたとえシンプルな構造の物でもとても高価な代物だ。

 魔術の発動を阻害する魔術具なんて、一体どれほど高価か想像さえつかない。

 ただの人攫いがこんな魔術具を持っているはずはないので、恐らくソフィアを連れ去ったのは貴族か、かなりの金持ちの平民だろう。

 と、悠長に分析していたが、魔術を封じられてしまった今、ソフィアにここから自力で脱出する手段は無い。

 窓がなく、密閉された空間であるここで叫んでも助けが来るとは思えない。

 助けが来る前に、恐らくソフィアを連れ去った者がやってくるだろう。

 あとはレオが自分が連れ去られたことに気づいて、助けにきてくれることを祈るしかない。


(私を連れ去る目的は何? 見た目はとてもお金を持っていそうじゃないし、それこそ魔術絡みでないと奪うものなんて……。それとも私が宰相であるレオの婚約者だから?)


 ソフィアはそこまで考えて、ある可能性に思い至った。

 その時、扉が開かれた。


「お、起きたみてぇだな」


 扉から入ってきたのは、明らかに盗賊のような見た目の男達だった。

 人数は三人。しかし扉の外に見張が見えたことから、さらに仲間がいることが分かった。

 盗賊のリーダーと思われる眼帯をして髭を生やした大男が、ソフィアを見てニヤリと笑った。

 ソフィアの背筋を冷たいものが走り抜けた。


「っ……!」


 ソフィアは警戒して後ずさる。

 せめてもの強がりで男を睨む。

「おっと、安心してくれ。俺は手を出すつもりはねえよ」

 大男はおどけたように肩をすくめた。


「なんで私を拉致したの」


 男は顎の髭を触りながら考える。


「ふむ……そうだな、俺はここに交渉しにきたんだ」

「誘拐しといて、交渉?」


 随分と荒っぽい交渉もあったものだ。


「ハハハ、すまねえな。お貴族様とはこうでもしないと交渉のテーブルに着くことすら出来ねえと思ったんでな」


(よく言う。こんなの殆ど脅しなのに……)


「まあ、名前だけでも覚えていってくれや。俺の名前はジルドン。盗賊団のリーダーをやっている」


 ジルドンと名乗った男はソフィアの前へと手を差し出してくる。


「ああ、そうだった。握手はできないんだっけな」


 ジルドンが笑うと、部下の男達も大きな声で笑った。


「どうだ、魔法が発動できねえだろう。それ、結構高かったみたいだぜ。俺は貰ったからどれくらいするのか分からねえけどな」


 やはりソフィアの予想通り、このソフィアの腕を縛っている魔術封じの魔術具は誰かから提供されたものらしい。


「あなたの後ろにいるのは誰」

「ハハッ! 教えるわけねえだろ! まあ、雇われているのは正解だ」


 ジルドンが大声で笑う。

 やはり誰かから雇われた盗賊らしい。


「さて、交渉の時間だ」


 ジルドンの表情が変わった。

 冷徹で、残忍さを感じさせるその表情にソフィアは気圧された。

 ジルドンはソフィアの前に白紙の紙とペンを差し出した。


「ここに自分の名前と『水障壁の権利を放棄します』と書け。そうしたら無事に解放してやる」

「っ! やっぱりデルム王子の差し金ね!」


 『水障壁』の権利を手放せなんて言うのはデルムしかいない。

 正攻法で『水障壁』の権利を奪うことができなくなったから、こうして無理やり拉致してでも取りにきたのだろう。


「さあな。俺は誰に雇われたかは話さねえ。そら、書け。そうしたら無事に家に帰れるんだからよ。早く書いた方がいいぜ。あまりにも時間がかかると、何をするか分からねえ」


 ジルドンはソフィアの目の前に紙を差し出す。


「絶対に嫌」


 ソフィアが選んだのは拒絶だった。


「私は死んでも『水障壁』の権利は手放さない。それに、時間が無いのはそっちでしょ」

「……何?」

「もう少しすれば私が誘拐されたことは知れ渡る。そうなると困るのはあなた達の方じゃないの?」

「……」


 少なくとも一日も経てばレオがソフィアの誘拐に気づいて王都中を捜索し始めるだろう。

 そうなればすぐにソフィアが誘拐されている場所なんて突き止められるはずだ。

 だから、ソフィアは時間を稼ぐだけでいい。


「あー……そこに気づいちまったか」


 ソフィアは勝利を確信して笑みを浮かべる。


「じゃあ、しょうがねえな」


 ジルドンは次の瞬間、ソフィアの頬を拳で殴った。

 ソフィアよりも一回りは大きい体から放たれた殴打に簡単に吹き飛ばされ、地面に転がった。

 ジルドンの部下たちが歓声を上げる。


「な、なんで……」

「あ? 盗賊の言葉を信じたのかよ」


 その言葉でソフィアは自分の考えを思い直した。

 そうだ、目の前にいるのは、盗賊なのだ。

 ジルドンはソフィアの側まで近づくと髪を掴み、持ち上げる。


「う、あ──」


 ソフィアの顔が苦痛に歪められた。


「残念だったな」


 ジルドンが冷徹な瞳でソフィアの目を見ている。


「念書を取るためならどんな手荒な手段でも取って良いって言われてんだ。お前が念書を書くって言うまで、どんなことでもやるぞ?」

「お頭ー、俺たち、良いっすか?」

「もう我慢できないっすよ」


 その時、部下の二人が割って入ってきた。

 部下の二人がソフィアを下卑た目で見つめている。

 彼らがソフィアで何をしようとしているのか、簡単に分かった。


「ひっ」


 目の前に迫った暴力。理不尽。

 ソフィアは悲鳴をあげた。


「いや、まだだ」


 しかしジルドンは部下を手で制した。

 部下たちが不満の声を上げるが、ジルドンは気にせずにソフィアを見下ろす。


「十五分後、また帰ってくる。それまでに自分がどうするべきか考えとけ。次断ったら、どうなるか分かってるだろうな?」


 ジルドンは不穏な言葉を言い残すと部屋から出ていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 誘拐犯が顔と名前を晒していたら もう生きて帰さないと言う表れですよね。 権利放棄したところで殺されるのがわかっているなんて交渉として成り立たないのでは? せめて顔と名前をわからなくしていれば…
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