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【コミカライズ化!】虐げられの魔術師令嬢は、『氷狼宰相』様に溺愛される  作者: 水垣するめ
一章 冤罪で婚約破棄された私は『氷狼宰相』様と婚約することになりました。

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27話 視線

 それからは気を取り直してクレープを食べることにした。

 レオが改めて買ってきてくれたクレープをそれぞれ食べていたのだが、半分ほど食べたところで、レオがとんでもない行動を取り始めた。


「それ、美味そうだな」

「一口食べる?」


 ソフィアがレオにクレープを差し出した。

 レオがソフィアに顔を寄せて、クレープを一口食べる。

 黒いサラサラの髪が目の前に迫る。


「本当だな。美味い」


 親指で口元を拭って、レオが感想を述べた。

 と、その時ソフィアはあることに気がついた。

 自然にレオにクレープを差し出してしまったが、これは──。


「こ、これ間接……!」

「ん、どうした」


 レオの瞳がソフィアの方を向く。


「なんでもない……」


 ソフィアは自分のクレープを見て、すこし逡巡すると覚悟を決めたように目を瞑り、クレープにかぶりついた。




 ソフィアはあることに気がついた。


「レオ……もしかして、疲れてる?」


 レオの顔をよく見ると目には薄く隈ができていた。

 それに表情もよく見れば疲れている時の顔色になっているような気がする。


「いや、別に」

「嘘、疲れてるでしょ」


 レオはソフィアから目を逸らした。


「やっぱり! また無茶したんでしょ!」


 ソフィアが詰め寄るとレオが白状した。


「……少しだけだ」

「あれほど体に悪いことはしない、って言ったのに、なんでまた無茶してるの!」

「いや……ただそうしたくなっただけだ」

「そんなわけないでしょ。何か理由が……」


 ソフィアはレオのバツの悪そうな顔を見て、一つの可能性を思いついた。

 恐る恐るレオに質問する。


「もしかして、今日のデートのため……?」


 宰相という地位にいるレオは多忙だ。

 一日空けるのはそれなりに苦労するだろう。

 もしかして、ソフィアとのデートのために無理をして時間を空けたのだとしたら。ソフィアはそう考えた。


「…………そうだ」


 レオは観念したように頷いた。


「そうなんだ……」

「約束を破った形になってすまない」

「いや、その……ありがとう。私のためにそこまでしてくれたのは、本当に嬉しいから」


 ソフィアはお礼を言った。

 自分のためにそこまでしてくれるのは嬉しかった。


「それと、さっき守ってくれて嬉しかった」

「ん、何度でも守ってやる」


 レオはソフィアの頭に手を乗せて優しく微笑んだ。


「ハッ! 今はこんなことをしてる場合じゃない!」


 ソフィアはハッと我に返る。

 そうだ、今はそんなことをしている場合ではなかった。

 今すぐにレオをどこかで休ませないと……!


「あれほど無茶はしたら駄目だって言ったのに……! 取り敢えず休もう!」


 ちょうどすぐそこにベンチがあったので、少し休むためにレオを連れていく。

 ベンチはちょうど木の陰の下にあり、休むにはピッタリの場所だった。


「ほら、ちょっと横になって」


 ソフィアはベンチに座り、自分の膝をぽんぽんと叩く。


「……すまない」


 レオは横になって、ソフィアの脚に頭を乗せた。

 木漏れ日の中、静かに時間が流れていく。


(髪、サラサラ……)


 実は、ソフィアはレオの漆黒の髪が好きだ。

 サラサラで、それでいて柔らかそうな髪は自分の髪と比べてとても綺麗だと思う。

 それが今目の前にあり、ソフィアは猛烈に髪を触りたい欲求に襲われていた。

 これまでも何度もレオの髪を触ってみたいと思っていたが、機会がなかったのでなかなか触れることができなかった。

 しかし触ってしまうとレオを起こしてしまうだろうし、それになんだか変態みたいだし……。

 レオの髪を触ろうとして、引っ込めてを何回か繰り返していると、レオが薄く目を開けた。


「あ、ごめ──」


 ソフィアが謝ろうとした瞬間、レオがソフィアの腕を掴んで、自分の頭に乗せた。

 それはきっと寝ぼけたうえでの無意識の行動だったが、ソフィアにとっては髪を触っても良いという許可に見えた。

 ゆっくりとレオの頭を撫でる。

 髪の感触を確かめながら、それを忘れないように、ゆっくり、じっくりと撫でていく。

 レオが起きたのは十五分ほど経った時だった。


「ん……少し寝ていたか」

「あっ……」


 微睡の中から目覚めたレオは体を起こす。

 ソフィアは至福の時間が終わってしまった名残惜しさから声が漏れてしまった。


「どうした」

「べ、別に……」


 やましいことをしていた訳ではないが、頭を撫でていたことを何となく隠しながら、ソフィアは首を横に振った。

 帰ろうということになり、ベンチから立ち上がった時のことだった。


「っ……!」


 ソフィアは視線を感じて振り返った。

 しかしいつもの通り、そこには誰もいない。


(間違いない。今、確かに視線を感じた……)


「どうした」


 急に振り返ったソフィアを不思議そうにレオが見ている。

 話すべきか、と思ったがレオは今疲れている。

 それに視線を感じる程度で心配をかけるもの悪いので、ソフィアは視線のことは秘密にしておくことにした。


「ううん。なんでもない」


 そしてソフィアは帰って行った。

 ここで視線について秘密にしていたことが、後々とある事件を引き起こすとは知らずに。

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