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【コミカライズ化!】虐げられの魔術師令嬢は、『氷狼宰相』様に溺愛される  作者: 水垣するめ
一章 冤罪で婚約破棄された私は『氷狼宰相』様と婚約することになりました。

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23話 高級素材の購入

「まさかこんなにヒットするとは……」


 ソフィアが開発し、アメリアが売り出した美容品の数々は瞬く間に王国中で売れるようになった。

 ソフィアの研究熱が高じて生まれた、従来よりも効能が高い美容液は、貴族の間で爆発的に売れた。

 そして今度は平民にも手が出せるようにコストダウンした美容液が売り出されるようになると、それまでの商品は過去となった。

 今ではソフィアの美容液以外ほとんど売れていないらしい。


 そして、デルム派閥の研究者たちについて、自分で作った美容品は持ち帰って良いことにすると、労働に対する不満はかなり減った。

 しかし別の問題が発生した。

 作った過程で少しなら美容品は持って帰ってもいい、と言ったが、美容液を持って帰りすぎる人間が出てきたのだ。

 材料はこちらが出しているので、際限なく持って帰られるとこちらが損をしてしまう。

 これは予想できなかった自分が悪い、とソフィアは反省し、持って帰れるのは一ヶ月に一本まで、ということにした。

 美容液が欲しくなったら買ってもらう。

 ただ、美容品の人気は凄まじい。

 今では新しい美容品を作る予定は無いのかと聞いてくるくらいだ。

 そろそろ新規で新しい魔術師を雇うことになっているので、彼らはもうお役御免になるだろう。


「これはちょっと稼ぎすぎなのでは……」


 ソフィアは今月入ってきた収入が書かれた帳簿を見て呟く。

 そこには一等地に建てられた小さな屋敷なら即金で買えるほどの大金が収まっていた。

 あまりの金額の大きさに、ちょっと現実感がない。


「研究の産物を商品として売り出すだけでこんなに儲かるなんて……」


 これも全て商機を見出してくれたアメリアのおかげだ。

 上機嫌で帳簿を見ていると。

 その時、ソフィアの頭をとある考えがよぎった。

 ──こんなにお金があるんだし、高めの素材をちょっとくらい買っても良いんじゃない?


「で、でも浪費癖が……」


 ソフィアは頭の中で、別の自分がすぐにその考えを否定する。

 いや、これからは定期的に収入を得ることができる。

 だから高級素材で散財しても大丈夫だ。


「じゃ、じゃあちょっと高い素材、買っとこうかな……」


 こんなに大金が入ったんだ。

 今まで高くて手が出せなかった魔術素材も買えるだろう。

 ソフィアが高級素材に触る機会は多くはなかった。

 学生時代は貴重な高級素材は授業の最中に経験として触らせてもらうことしか出来なかったし、王立魔術研究所に入ってからも高級素材を買うことはできなかった。

 研究費が下りなかったので、素材は全部自腹だったし、侯爵家のお金を使うのも気が引けたので、今まで自分が貯めたお小遣いから切り崩すしかなかった。

 そのため、高級素材は滅多に触る機会がなかったが、今はもう違う。


「何を買おう……竜の心臓? それとも断崖絶壁にしか咲かない花? いや、ユニコーンの角も……ふふふ」


 想像するだけで笑い声が漏れてくる。

 高い素材は削って薬に混ぜてもいいし、杖の強化素材にしてもいい。

 何なら、素材を丸ごと使って魔術具を作ったって問題ない。だって、自分のお金で買ったのだから。


「よ、よし! 決めた! 一つだけ買おう!」


 そしてソフィアは決心した。

 高級素材は何個でも買うだけのお金があるのに、一つだけ、と遠慮してしまう辺り、ソフィアはかなりの貧乏性だった。

 侯爵令嬢なのに。


「よし、そうと決まれば早速買いに行こう!」


 ソフィアは立ち上がり、高級素材を買いに素材屋に行くことに決めた。

 普通なら、貴族なら素材屋を呼び寄せて購入するところだが、自分で素材屋へと赴く辺り、やはりソフィアは貧乏性だった。





 そしてソフィアは素材屋の前へとやってきた。

 ソフィアがよく素材を購入している馴染みの素材屋である。


「よ、よし、買うぞ……! 私は買う!」


 ソフィアは自分を鼓舞して、扉を開けた。


「いらっしゃいませ。あれ、ソフィア様」

「こんにちは。フレッド」


 ソフィアが中に入ると店頭に座っていた青年が立ち上がった。

 フレッドは平民なので、ソフィアには基本敬語を使う。そんなソフィアもフレッドに気を遣って、下手に敬語は使わないようにしている。


「今日はどんな御用ですか」

「今日はね……高級素材を買いに来たの!」

「なっ……あの万年金欠のソフィア様が、高級素材!?」


 フレッドは高級素材を買いに来たと言うソフィアに驚愕した。

 そして慌ててソフィアが騙されていないか心配し始める。


「だ、大丈夫ですか!? 誰かに騙されているんじゃないですか?」

「普通に買いに来たのよ」

「まさか、変な薬を飲んだんじゃないですか!?」

「違うよ! まとまったお金が入ったから買いに来たの!」

「本当に?」

「本当に」

「ついに金欠から解放されたんですね……!」


 フレッドは感激していた。

 しかしすぐに商人の顔になる。


「何を買うのかは決まっているんですか?」

「それは……まだ決めていなくて……」

「予算はどらくらいですか?」

「これくらいは出せるわ」


 ソフィアは金額を書いたメモをフレッドに手渡す。

 フレッドはその金額の大きさに驚くが、すぐに冷静になり、素材を取りに行った。


「これがドラゴンの角、心臓、鱗、ユニコーンの角……」


 フレッドは机に素材を並べていく。

 夢にまで見ていた高級素材に、ソフィアは涎を垂らしながら頬を紅潮させる。


「さ、触ってもいい……?」

「はい、大丈夫です」


 ソフィアは恐る恐るドラゴンの角に触れる。


「こ、これはドラゴンの角……久しぶりに触った……」


 ソフィアはうっとりとした表情で次々と素材に触れていく。

 その姿はどこかイケナイ雰囲気を醸し出しており、フレッドは目を逸らした。


「でも、あまりしっくり来ないかも……」


 ソフィアはドラゴンの角を机に戻す。

 並べられた高級素材は、何故かどれもしっくり来なかった。


「せっかく大金が手に入ったから、こう、ドカンと使いたいと言うか……」


 フレッドは考える。


「それなら、この店で扱っている一番高い素材になるのですが……」


 フレッドは立ち上がり、カウンターの方まで探しに行った。

 戻ってきたフレッドの手に小さな袋を持っていた。


「それは?」


 フレッドは袋を広げる。

 そこにはキラキラとした粉が入っていた。


「妖精の鱗粉です。昔、冒険者が運よく妖精から貰ったんだとか。魔力の通りは抜群に良いです」

「その他に効果はないの?」

「実は分かっていないんです。他に妖精の鱗粉を仕入れている店がなくて、情報が圧倒的に少なくて。でも、エルフに確認したところ『これは妖精の鱗粉で間違いない』と言われたそうです」

「妖精の鱗粉なのは間違いない。でもどんな効果があるかは分からない、と……」


 ソフィアは考える。

 非常に貴重な素材だ。この機会を逃したら、手に入るかどうかは分からない。


「分かったわ。これを買う」

「お買い上げありがとうございます!」

「小切手でも大丈夫だよね?」


 ソフィアは金額が書かれた小切手をフレッドに渡す。

 渡すときに、ちょっと手が震えた。

 フレッドは笑顔で受け取った。


「お買上げありがとうございます!」

「よし、これは今から持って帰って……」

「い、いやいや! そんなことはさせられませんよ! 俺がソフィア様の研究室まで運ばせていただきます!」

「え、でも私が持って帰った方が早いのに……」

「そうですけど、こんな大口の取引をしたのに、相手に手渡しで帰らせたって知られたら、ウチの評判に響くんです! 今日この後すぐに責任を持って届けさせていただきますので、どうか俺に届けさせてください!」


 フレッドは切実にソフィアにお願いする。

 今まで小口の取引しかてこなかったので思い至らなかったが、普通は大金を扱う取引は店側が商品を顧客のところまで運ぶのが常識なのだ。

 フレッドに気を遣っていたつもりが、迷惑をかけていた。

 ソフィアは反省する。


「確かにそうね。フレッドの言う通りね。私の考えが足りなかったわ。フレッドが持ってきてもらえる?」

「はい。この後すぐでよろしいですか?」

「うん、私の研究室でいいから」


 ソフィアは研究室の場所を伝えると店を出た。





 そして研究所へと帰ってきた。


「レオ様?」


 部屋の中にはレオがすでにいた。

 本を読んでいたレオは顔を上げる。


「どこに行っていたんだ」

「魔術素材を店まで買いに行ってきました」

「今日は何も買わなかったのか」


 手ぶらで帰ってきたソフィアを見て、レオは何も買わなかったのかと思ったらしい。


「いえ、高額の商品を購入したので、後から運んできてもらってるんです」

「なるほどな」


 レオは納得したのか頷いた。

 ソフィアはいつも通りレオに紅茶を出し、何気ない会話をしていた。

 するとドアがノックされ、扉の向こうから「フレッドです」と聞こえてきた。

 ソフィアは扉を開ける。


「これが妖精の鱗粉となります」

「ありがとう、フレッド。でもこの袋は貰っていいの? 魔術具なんでしょ?」

「それはサービスです」


 フレッドがニッコリと微笑む。


「なら、遠慮なく貰っておくね」


 ソフィアは笑顔でフレッドから妖精の鱗粉を受け取る。

 その姿をレオはじっと見ていた。


「それでは私はこれで失礼します」

「え、せっかく運んできてくれたから、お茶でもどうかと思ったんだけど」

「いえ、これ以上はお邪魔だと思うので」


 フレッドはちら、と奥のレオを見る。

 ソフィアは少し頬を赤くした。


「では、俺はこれで」


 フレッドは頭を下げると、店へと帰っていった。

 ソフィアは妖精の鱗粉が入った袋を握りしめ、今から早速実験をすることにした。


「よし、今から実験を──」


 その時、レオがいきなり後ろから抱きついてきた。

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