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【コミカライズ化!】虐げられの魔術師令嬢は、『氷狼宰相』様に溺愛される  作者: 水垣するめ
一章 冤罪で婚約破棄された私は『氷狼宰相』様と婚約することになりました。

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21話 アメリアの訪問

 アメリアの体調不良の原因を突き止めた翌日。


「待って……私、昨日よく考えたらとんでもないことをしなかった!?」


 ソフィアは昨日の自分の行動を思い返し、頭を抱えていた。

 紅茶の匂いを嗅いだり、その次は化粧品を物色して匂いを嗅いだり。

 魔術が絡んだせいで研究気質な部分が出てきたとはいえ、側から見たらどう考えても不審者だ。


「どうしよう……絶対変な奴だって思われた……!」

 ちなみに、ソフィアと関わる人間はほとんどソフィアが変人だというのを知っているが、ソフィア自身はそのことを知らない。


「はぁ……もしかして嫌われたかも……」


 ソフィアは落ち込む。

 誰にも言っていないが、アメリアはソフィアにとって、少し憧れている部分があった。

 ソフィアは自分が普通の貴族令嬢とは違うのを自覚している。

 だからこそ、まさに貴族令嬢然としたアメリアに憧れていたのだ。


「何であんなことをしたんだ私……!」


 そして悶えているとレオがやってきた。


「レオ様、今日もいらっしゃったんですね」


 レオは机に突っ伏して唸り声をあげているソフィアを大して気にすることなく、ソフィアの対面に座る。

 ソフィアの奇行もレオにとっては日常茶飯事だった。


「ああ、今日は用事があってやってきたんだ」

「まるでいつもは無いみたいな言い方ですね」

「ん……まあ、そうだな。いつも用事はある」


 レオに似つかわしくない、煮え切らない返事だ。

 レオは咳払いをして話を変える。


「それでだ、今日は第一王子とアメリア様から伝言を預かってきた」

「伝言?」

「ああ、『昨日のお礼がしたいから、お茶でも一緒にどうですか』だそうだ」


 レオは単刀直入に伝言を伝えた。


「えっ」


 ソフィアは固まった。 


「お、お茶を一緒にどうかって! 本当ですかそれ!」

「別にお茶くらい、そんなにかしこまることはないだろう」

「そ、そうですけど! 緊張するじゃないですか!」

「そうか? 俺は緊張しないが」

「それはレオ様があの二人と親しいからです! 普通の人なら誰だって緊張しますよ!」

「そんなものか」

「はい、そうです」

「では、初めに謝っておく」

「え?」


 ソフィアがレオの言葉に首を傾げた時。

 ノックと共に、研究室の扉が開かれた。


「こんにちは、お邪魔するわね」

「押しかけてきて申し訳ない。どうしてもアメリアが行きたいと聞かなくて……」


 扉からアメリアと申し訳なさそうな表情のミカエルが入ってきた。


「レオ様……?」

「どうしてもソフィアに早く会いたいということだったから、連れてきた」


 レオは至って冷静にそう言った。


(やっぱりこの人、天然だ……!)


 レオの顔を見ながら、ソフィアはそう確信するのだった。





 取り敢えずソフィアはレオとアメリアとミカエルの三人に紅茶を出す。

 紅茶は部屋にある一番高い茶葉を使った。

 テーブルはソフィアがたくさん紙や本を広げられるように大きなものを買ったので、四人が座っても問題なく広かった。

 アメリアは部屋の中を興味深そうに見渡す。


「私、魔術師の方の研究室を初めて見たから、本当に新鮮だわ」

「そんなに面白いでしょうか……」


 ソフィアは嬉しいどころか、少し恥ずかしかった。

 研究室の中はいつも通り紙や本が散乱していたからだ。

 アメリアとミカエルが来ると分かっていたならもっと整理整頓していたのに、いきなり来たから掃除する暇もなかった。

 だが追い返す訳にもいかないので、こうしてソフィアは精一杯二人をもてなしていた。


「今日は押しかけてきて本当にごめんなさい。どうしても顔を合わせてお礼を言いたかったから」

「それと、研究室が見たかったんだろう?」

「ミカエル様! それは言わないでください!」


 アメリアは頬を膨らませてミカエルに抗議する。

 本人の美貌も相まって、その仕草はとても可愛らしい。


「いつもはどんな研究をしているの?」

「私は特に特定の分野を極めているわけではなく、色々な分野を摘んでいるだけなのですが……そうですね。例えば最近の研究では、肌の艶を良くする魔術薬について研究していました」


 なるべくアメリアの退屈しなさそうな、美容系の話題にしてみた。

 あの美容品の数を見るに、美容にはかなり拘っているはずだ。

 しかしソフィアの予想に反して……。


「肌の艶を良くする魔術薬……?」


 アメリアがボソリと呟く。


「は、はい……」

「そんなものがあるの!?」


 アメリアの食いつきは予想以上だった。

 退屈するどころではなく、興味津々だった。


「そ、それは今ここにあるの!?」

「は、はい。ここに……」


 アメリアの食いつき具合に若干引きながらも、ソフィアはその魔術薬を用意した。


「これは魔力を通して煮込むと効能が倍になる薬草に目をつけて作ったものです。一日置いてあるので、魔力に関しては大丈夫です。美容液として使うときには肌に塗ってください」


 アメリアは瓶から薬を手に取り、肌に当てる。


「こ、これは……」


 魔術薬を肌に塗った途端、アメリアの肌が艶を持ち始めた。


「いくつか化粧水や美容液を使っていると、肌に良いものが分かるようになるけれど、断言するわ。これは間違いなく今までのどの美容液よりも、良い」

「そうですか?」

「ええ、肌にすごく馴染むし、一度塗っただけでハリが出てきてる。これはすごい発明品ね……」


 アメリアは手鏡を覗きながら驚嘆の声を漏らす。


「これに入っているのはその薬草だけなの?」

「いえ、他にも入っています。色んな成分の薬草を混ぜているので、傷薬や、栄養剤としても使えますよ」

「そ、そんな万能薬じゃないの?」

「万能ではありませんが、出来ることは多いですね。ただ、色々入れてる分、コスト自体はかなりかかっています。あと味もかなり不味いです」


 この魔術薬は魔力を通せば効能が変わる薬草をありったけ混ぜたものなので、当然味は悪い。

 というか、かなり悪い。どんなに我慢強い人間でも、これを飲めば顰めっ面になることは間違いないだろう。

 価格も高いので、気軽に飲めるのは貴族だけだろう。


「うん、それなら薬草を抜いて……あとは量産体制だけ確立すれば、必ず売れる」


 アメリアは魔術薬の瓶を眺めながらブツブツと独り言を呟いていた。

 ちなみにミカエルはお手上げだと言わんばかりに天井を見上げ、レオはいつもの無表情で紅茶を飲んでいる。


「アメリアさん?」


 アメリアはソフィアの方を振り返って質問した。


「他に同じようなのは無いの? 薬だったり、なんでも良いから」

「ええと……美容系の薬なら十種類ほどありますけど……」

「十種類!?」

「そんなにあるのかい!?」


 アメリアだけではなく、ミカエルまでも驚いていた。


「後は病気系と、傷薬がいくつか……」

「…………」


 アメリアは呆然としていた。

 そしてハッと我に返ると、とびきりの笑顔になった。


「私、決めたわ。ソフィア」

「は、はいっ!」


 アメリアは勢いよくソフィアの方を振り向くと、ソフィアの手を握った。


「これ、商品として売り出さない!?」

「うえっ!?」


 予想だにしない言葉に変な声が出てしまった。


「私が商会を作るから、そこで商品を出しましょう!」

「しょ、商会を作る……?」

「私が商会でソフィアの研究で商品にできそうなのを売り出すから、ソフィアは研究をしてくれればいいわ。商会の運営とか、面倒くさいことは私が全部請け負う。それで運営費などの諸々を差し引いた売り上げは二人で半分ずつ取る。どうかしら?」

「え、えっと」


 怒涛の勢いで次々並べられる言葉にソフィアは困惑していた。

 というか、さっきから薄々気づいてはいたが。

 第一印象は奥ゆかしい、上品な公爵令嬢だと思っていた。

 だが、実はアメリアはお淑やかな公爵令嬢などではないのかもしれない。


「もちろん、商会は私が運営するし、ソフィアは開発だけしてくれれば良いわ!」

「ごめん、ソフィア」


 ミカエルが申し訳なさそうな表情でソフィアに謝罪する。


「アメリアはちょっと、商才に溢れてるところがあって、商売の話を聞くと人間が変わるんだ」

「ちょっと……」

「まるでどこかで見たような光景だな」

「どこかで見た?」

「……いや、何でもない」


 ポロッと漏れたレオの呟きを、ソフィアがたまたま拾うとレオは少し気まずそうに目を逸らした。

 レオの不可解な言動に首を傾げながら、ソフィアは目の前のアメリアに意識を戻した。


「どうかしら!」


 目をキラキラと輝かせ、ソフィアの手を握るアメリアからは溢れる情熱が火傷せんばかりに溢れ出している。

 ソフィアは一度冷静になって考える。


(結果を商品化しても、デメリットは……ない)


 アメリアが商会の運営や商品化などの面倒臭い部分を担ってくれると言っている。

 自分は研究に専念して、その上で利益の半分も貰えるとなれば、これは破格の条件だと言って良いだろう。


「でも、半分も貰うなんて……」

「それは良いの。私のは商会の運営をさせてもらえるだけで嬉しいから」

「ソフィア。アメリアは商会を運営するのが大好きで、商売をすることに喜びを見出す人間なんだ」


 ミカエルがアメリアの言葉に補足を入れてくる。

 レオが「本当にどこかで聞いた話だ」と呟いているのが聞こえたが、ソフィアには意味が分からなかったので取り敢えず気にしないことにした。


「そうなの、商売をさせてもらえるだけでも嬉しいの。私、以前もいくつか商会を持っていたのだけれど、両親に「そろそろ落ち着きなさい」って全部取り上げられてしまったのよ。だから、商売をしたいの。いえ、させてもらえないかしら!」


 興奮しているせいか少し頬を紅潮させているアメリアは急かすようにソフィアに答えを聞く。

 アメリアは商売のノウハウも持っているようだ。

 加えて、その上で商売に関する全てを担ってくれる。

 この話を受けない手はない。

 だけど、何だろう。

 ソフィアの中で、アメリアに対する憧れがガラガラと音を立てて崩れていくのを感じる。


「わ、分かりました。では、それでお願いします」

「ありがとう!」


 アメリアは今まで見た中で一番の笑顔を浮かべて、ソフィアの手をぶんぶんと振る。


「まずは量産体制を確立して、商会を作って、商品を作って。うふふ…………やることは山ほどあるわね」


 アメリアは恍惚の笑みを浮かべながらビジネスをどう展開するか呟いている。


「……」


 ソフィアはその姿をどこか残念そうに見つめていた。


「問題は量産するための人手をどうやって確保するかね」


 アメリアのその呟きを聞いて、ソフィアはとあることを思い出した。


「私、人手の伝手ならあります……」

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