14話 決闘の申し込み
間違って同じ話を2回投稿していたので片方を削除しました。教えてくださりありがとうございます。
今日も例に漏れずレオがソフィアの研究室までやって来ていた。
しかし呼び出したのはソフィアの方だった。
新しい魔術を発明したため、レオに報告したかったのだ。
「新しい魔術を発明した?」
「はい、『綺麗な丸い氷を作る魔法』です」
その名の通り、綺麗な球体の氷を作り出す魔術だ。
ソフィアはふふん、と自慢気に胸を張った。
「なるほど…………それだけか?」
「それだけって、これでも綺麗な球体になるように、とか透明な氷を作れるように、とか苦労したんですよ」
「それはそうだろうが……」
「レオ様、何度も言ったじゃないですか。役に立つかどうかじゃないんです。その魔術が発明されたこと自体が重要なんです。いつかその技術を使ってもっとすごい魔術が生まれるかもしれないんですから」
「そうだった。俺の負けだ」
レオは両手を挙げて首を振る。
あまり理解していなさそうなレオに、ソフィアは頬を膨らませた。
「もう、本当に分かっているんですか……!」
ソフィアはレオの肩を叩く。
レオはひとしきり笑った後、本題に入った。
「で、今日はその魔術の権利を登録したいと」
「はい、せっかく発明した魔術を今度は取られたくないので」
前回、発明した『水障壁』の魔術の権利登録を、デルムに押し付けられた仕事が忙しすぎてソフィアは後回しにしてしまっていた。
そのせいでデルムに『水障壁』の魔術を奪われてしまったのは、今になってもソフィアには苦い思い出だ。
「そういうことなら、俺も管理局まで付き合おう」
「良いんですか?」
「分からないことがあったら俺に聞くといい」
「では、お願いしても良いですか」
「もちろんだ」
ソフィアとレオは王宮にある管理局へと向かうことにした。
二人が研究室を出て、王立魔術研究所を出ようとした時のことだった。
「ソフィア!」
ソフィアの名前を叫びながらデルムが向こう側から歩いてきた。
そしてソフィアの前に立ちはだかる。
(なぜここに……まさか新しい魔術のことがバレて)
ソフィアの頭に一瞬その考えが浮かんだが、否定する。
この魔術を発明したのは今日のことであり、レオ以外には誰にも魔術のことは教えていない。つまりデルムはソフィアの新しい魔術が目的で目の前に立ちはだかった訳ではない。
前回の苦い思い出があるので、一旦安堵の息を吐きつつも、ソフィアは今度はなぜデルムがソフィアの元へとやってきたのかを考える。
恐らく、『水障壁』の権利が再審議になった一件かそれに関係するものだろう。
その予想は正しかったが、デルムの次の行動はソフィアにとって予想外だった。
「ソフィア・ルピナス! お前に決闘を申し込む!」
デルムはソフィアを指差すと高らかにソフィアに対して決闘を申し込んだ。
決闘、という言葉に周囲の研究者がざわざわと騒ぎ始める。
「決闘、ですか……?」
「そうだ! 俺と『水障壁』の権利を賭けて勝負しろ!」
「おい……」
「大丈夫です。レオ様」
レオがソフィアの前に立ち、デルムに何か言おうとしたが、ソフィアはそれを手で制した。
レオは納得していなさそうな表情をしながらも引き下がる。
「なぜ私がデルム様と決闘をしなければならないのですか?」
「お前は以前から俺の発明した『水障壁』を自分のものだと言い張り、挙げ句の果てには卑怯な手を使い、俺から『水障壁』の権利を奪い取ろうとしている!」
デルムは自分の都合の良いように改変した事実を周囲に聞こえるように叫ぶ。
本当は自分が『水障壁』を発明していないことを誤魔化すためだろう。これでも世間では一応まだ『水障壁』はデルムの発明した魔術だと通っている。
加えて、レオとソフィアは両者とも世間では悪人として知られている。
それは効果的なようで、周囲にいる研究者はデルムに同情的な、そしてソフィアには侮蔑の視線を向けた。
しかしソフィアはもう恐れない。
真っ向からデルムを見据えて、質問する。
「決闘でどちらが本当の『水障壁』の権利者か決める、ということですか?」
「そうだ。本当に自分の魔術だと言い張るなら決闘を恐れる必要はあるまい? それとも、俺に負けるのが怖いのか?」
安い挑発だ。
この決闘を受けるメリットはソフィアには無い。
このまま放っておけばデルムから『水障壁』の権利は剥奪され、ソフィアの手に戻ってくるだろう。
決闘を受けなかった臆病者、として蔑まれるだろうが、そんな視線や評価はもうどうでも良い。
しかし、
「良いでしょう」
ソフィアは決闘を承諾した。
「っソフィア……!?」
珍しくレオが慌てたような声を出す。
そんなレオに対してソフィアは笑みを返すだけだった。
「でも、それだけで良いんですか?」
「どういうことだ……?」
「どうせならもっと賭け金を増やしましょう。私が勝ったら『水障壁』の権利と、デルム様の持っている研究室全てを要求します」
「なっ……!?」
まさかここで賭け金を増やす提案をされるとは思っていなかったのか、デルムは驚いていた。
ソフィアは挑戦的な笑みをデルムへ向ける。
「どうしましたか。まさか、負けるのが怖いのですか?」
「ッ!?」
自分が言った言葉だった。
「くっ……良いだろう! その代わり、俺はお前を要求する! 俺が勝てば身も心も俺のものになってもらうぞ!」
「構いません」
ソフィアは頷く。
決闘の内容はここにいる全員が聞いており、もう後戻りはできない。
「決闘は明日、正午に行う! 逃げるなよ!」
デルムは決闘の日時を一方的に通達すると、踵を返して戻っていった。
「ソフィア!」
レオは珍しく大きな声を出してソフィアの肩を掴んだ。
レオの表情は不安で満ちており、いつもの平静さはどこにもなかった。
レオはソフィアの身の安全を心配していた。
「どういうつもりだ。あんな条件など、もし負けたら……」
「いえ、それはあり得ません」
ソフィアは断言した。
「私がデルム様に魔術で負けることはありません。私の方が強いですから」
ソフィアは、争いごとが苦手だ。それに加えてかなり気が弱いところがある。
それはまだ短い付き合いのレオも知っているし、普段の気弱そうな雰囲気から決闘なんて卒倒すると思っていた。
それが、ソフィアは決闘に怖気付くどころか、絶対の自信を持った目で「勝つ」と断言していた。
まるで豹変してしまったかのような圧倒的な自信、レオはそれを見て葛藤した。
本当は危険を犯して欲しくない。だがソフィアはこう言っているし……。
レオの頭の中で様々な考えが飛び交う。
レオは長考の末、ソフィアを信じることにした。
「…………分かった。俺に手伝えることがあれば言ってくれ」
「そうですね……」
ソフィアは顎に手を当てて考える。
そして「あ」と何かを思いついたかのように顔を上げた。
「それなら、レオ様に用意して欲しいものがあるんですけど……」
ソフィアは誰にも聞こえないようにレオに耳打ちをする。
用意して欲しいものを聞いたレオは不思議そうに首を捻った。
「……そんなもので良いのか?」
「ええ、これが大事なんです」
「分かった。用意させよう」
「お願いします」
そして、翌日の正午になった。




