1話 働かされるソフィア
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ソフィア・ルピナスは婚約者であるデルム・エーデルワイス第二王子に対して抗議をしていた。
「ですから、私の開発した魔術を返してください。あれはそもそも私が時間をかけて開発したもので……」
「はぁ……何度言ったら分かるんだ? もうあの魔術は俺が開発したものとして登録してある。もう俺のものだ」
机に足を乗せ、魔術師らしからぬ純白のローブを着ているデルムは、面倒臭そうな表情で金髪の髪をかき揚げる。
「それはデルム様が私の部屋から論文を勝手に持ち出して登録したからです……! 今からでも遅くはありません。全てを話して私に権利の返還を……」
「貴様! 俺が権利を盗んだと言うのか!」
デルムは椅子から立ち上がり、ソフィアへ大きな声で怒鳴った。
ソフィアはその怒気に気圧されながらも反論する。
「じ、事実です……! 現に、デルム様は論文はおろか、メモも提出できていないじゃないですか」
ソフィアがそう言うとデルムは図星を突かれたのか、顔を真っ赤にした。
「なっ、なんて失礼な女だ! もういい、お前の顔など見たくない!」
「あっ、待ってください! うっ……」
デルムが部屋から出て行こうとする。
ソフィアは立ち上がり、デルムを止めようとするが寝不足から来る眩暈のせいでその背中を追いかけることが出来なかった。
バタン! と大きな音を立てて扉が閉じられ、ソフィアは一人部屋に残される。
「……」
ソフィアは立ち上がり、部屋から出た。
「また煙に巻かれた……」
ソフィアはため息をつきながら廊下を歩く。
足取りは重い。自分の開発した魔術の権利をまた取り返すことができなかったからだ。
そして俯きがちに歩いていたので、近づいてくる人物に気づかずにぶつかってしまった。
「いたっ」
ソフィアの鼻が相手の胸に当たった。
「あ、申し訳ありません……」
ソフィアはぶつかってしまった人物に謝ろうと顔を上げて、固まった。
「さ、宰相様……!?」
そこにはこの国の宰相である『氷狼宰相』レオ・サントリナが立っていた。
夜を思わせる漆黒の髪に、『氷狼』の名前の元となった、氷のような鋭さを内包している青の瞳は恐怖すら覚えさせる。
そしてすっと通った鼻筋に真一文字に結ばれた唇は芸術的なまでに整っていた。
身体は剣術を修めているのか、かなり筋肉がついている。しかし大柄というわけではなく、身体は全体的に引き締まっており細身にすら見える。
その青の瞳でじろりと見られたソフィアは慌ててレオに謝罪した。
「も、申し訳ありません!」
「気をつけろ」
レオはソフィアにそれだけ言うと、すたすたと歩いて行った。
ソフィアは安堵のため息を漏らす。
(良かった……)
だが、相手がレオではなくデルムだった場合、確実に長時間ネチネチと嫌味を言われたことだろう。
気をつけなければならない、とソフィアは自分を戒めた。
(これは本格的に疲れてるな……)
そしてふらふらとした足取りでとある部屋までやって来ると、ボロボロの扉を開ける。
その部屋の中は扉の印象通りだった。
長く掃除がされていないのか埃っぽく、部屋のあちこちに紙や本が散らばっている。
そして間取りもかなり小さかった。
ここがソフィアに当てられた研究室だった。
いや、研究室と言えるのかすら怪しい。
なぜなら、ソフィアはもう久しく論文を書いていないのだから。
「毎日ここで雑用三昧……。私、何のために研究所に入ったんだろ……」
ソフィアがこの国立魔術研究所に入ったのは三年前の十七歳の頃。
当時十八歳だったデルムと同じ時期に研究所に入ったソフィアに待っていたのは、『デルムの雑用係』という役目だった。
婚約者だと言う建前で様々な雑用を押し付けられ、朝から晩まで働かされた。
その結果魔術について研究する時間もとれず、三年間ソフィアはほとんど研究者として成果を残せていないのに対して、デルムはソフィアの支援を利用し、様々な研究や功績を残していた。
しかしソフィアは諦めなかった。
自分だけの研究結果を残すために朝から晩まで続く激務の中でコツコツと研究を重ね、三ヶ月前についに新しい魔術を発明した。
だがその魔術はソフィアが研究室を留守にしている間にデルムが論文を盗み出し、名前だけを書き換えた上で自分の魔術として権利を登録してしまった。
当然ソフィアは抗議した。
『デルム様、私の発明した魔術を返してください!』
『知らん。あれは俺が先に発明したんだ』
だが、デルムは自分が魔術を盗んだことを認めなかった。
そもそも自分の発明した魔術であり、論文の盗用は研究者にとって一番嫌悪されている行為だ。
バレてしまえばデルムは研究者の中だけではなく、王子としての地位も地に落ちるだろう。
魔術を盗まれたとはいえデルムは婚約者なので、ソフィアは穏便に魔術の権利を取り戻そうとした。
デルムの名誉を傷つけないように二人きりで説得をしようとした。
それがデルムを増長させた。
デルムはソフィアの「魔術の権利を返して欲しい」という訴えを聞き入れず、最終的に第二王子としての強権まで使って強引に自分の魔術だと主張した。
本来は新しい魔術を登録する際には論文だけではなく、研究中のメモを提出して自分の魔術だと証明しなければならないのだが、デルムはその工程を第二王子の権力を使い飛ばした。
ソフィアの開発した魔術はデルムの魔術として登録され、逆にデルムは「ソフィアが俺の開発した魔術を自分のものだと主張している」と周囲に喧伝するようになった。
今まで何の成果も残してこなかったソフィアの主張は信じられず、ソフィアは研究所の中でも貴族社会の中でも非難の目を浴びるようになった。
数々の功績を残し、新しい魔術まで開発したデルムは研究所の中でも一目置かれるようになった。
「私はただ魔術の研究がしたいだけなのに……」
ソフィアはポツリと呟く。
部屋の中に置かれた、半分曇っている姿見に目が入った。
「酷い顔……」
茶色の髪に、茶色の瞳。容姿は客観的にはそれなりに整っているはずだが、今はとても酷い。
三つ編みのおさげはところどころボサボサになっており、目には酷い隈ができているし、顔はどこか青白い。ローブもボロボロで、まるで第二王子と婚約した貴族令嬢だとは思えない。
もう二日は寝ていない私の顔はひどく疲れ切っていて、まだ二十歳なのにとても老けているように見えた。
このままでは不味い。一旦休憩をしないと。
「とにかく仮眠を……」
机の上に突っ伏して仮眠を取ろうとした時、ソフィアは机の上に一枚のメモと、大量の紙束が置かれていることに気がついた。
この部屋を出て行く時にはなかったメモと紙束だった。
嫌な予感がしたので、そのメモを手に取って内容を見てみる。
──明日までに終わらせておけ。
メモにはそう書かれてあった。
差出人は、ソフィアの婚約者であるデルムからだった。
「……」
机の上の紙束に目をやる。
とても短時間で終わるような量ではない。
どうやら、またソフィアの徹夜が決まったらしい。
「…………はぁ」
もちろん、こんな量の雑用を率先して行いたいわけではない。
ソフィアがこの研究所に入ったのは魔術を研究するためなのだから。
しかし書かれている期日までに終わらせて提出しておかないと、デルムは烈火の如く怒り、ソフィアを何時間でもネチネチと詰り続けるため、ソフィアは嫌々ながらも終わらせていた。
ソフィアはため息をついて、椅子に座るのだった。
そして翌日。
「ソフィア・ルピナス! お前は嫉妬心から俺が魔術の権利を奪ったと嘘をつき、その上デマを言いふらした! お前の醜い嫉妬心にも、虚言癖にもうんざりだ! 俺はお前との婚約を破棄する!」
デルムが公衆の面前で冤罪と共に突然婚約破棄を叩きつけてきた。
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