表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正夢が見れるなら高次元世界でも無双できる?  作者: ブルーギル
第1章 入学前
5/38

5話 生命の超能力者

 俺は雪夜と別れ、夕食用の食事街で食材を買い、田舎道を通って赤砂寮へ帰る。


 赤砂寮へと続く田舎道は、あたり一面に草原が広がる道。

 その田舎道をずっと下った先にある、森の入り口にポツンとあるボロボロの寮が赤砂寮。


 田舎道は結構な距離があるため、そろそろ自転車でも買おうか悩んでいるところだ。


 そんなことを考えながら、食材の入った袋を片手に田舎道を下っていると、草原に何かが群れているのが目に入った。


 そこには何匹かの動物がいて、その中心には透き通るような緑色の長い髪をしたお姉さんが座っている。


 西に輝く太陽、風に揺らぐ草原。

 あまりに神秘的な光景なので、一瞬見惚れてしまった。


「あら、こんにちは」


 ドキッとした。ジロジロ見すぎたかな……?


「ふふ。大丈夫よ、そういうことじゃないわ。私はあなたにお礼をしたいの」


 え!? 今声を出してなかったはずだけど……。

 あまりに露骨に顔を出して心を読まれたのか……?


「お、お礼……ですか……? すみません、心当たりが無いんですが」


「いいえ。昨日、助けてくれたじゃない」


「助けた? 特に人助けとかは何も……」


「人じゃないわ。ほら、森の中で」


「森……? あ! まさか、あなたはあの小動物の化身!?」


「ふふ、違うわよ。私はあの子のお友達なの。昨日はお友達を救ってくれてありがとう」


「いえいえ、そんな。あれ、どうして俺が助けたって分かったんですか?」


「その前に、自己紹介が遅れたわね。私は【弥生(やよい) 心乃(ここの)】。今年度から6年生の学生よ」


「俺は九重糸です。今年度から1年生です」


 6年生?

 この学校は3年制じゃないのかな。


「ええ、高校に対応する3年間と大学に対応する4年間。この学校には全部で7年間の教育課程があるのよ」


 まただ。まるで俺の心を見透かされているような……。


「糸くん、さっきの質問に戻るわね。私が助けてくれたのを知っているのは、あの子が教えてくれたからなの」


「あの子って、まさかあの小動物が……? あなたは動物とお話ができるとでも言うんですか?」


「ええ。あの子もありがとうって、九重くんにとても感謝していたわ」


「どうして心乃さんは動物とお話ができるんですか?」


「……ねえ糸くん、生命ってなんだと思う?」


 心乃さんは動物を撫でながら、飲みこまれるほど優しい表情で尋ねた。


「生命……。うーん、分かりません」


「難しい問題よね。そのために生物学的な視点から、または宗教的な視点から、命や魂について理解しようとする人は多いわ。でも、命や魂と呼ばれるものは物質の反応やオカルトではなく、1つの次元なのよ」


「命が……次元……?」


「ふふ、詳しいことは学校で習うと思うわ。私はその【生命(いのち)の次元】を人よりも強く感じることが出来るの。そして、いつの間にか干渉出来るようになっていて、魂や生命と意思疎通ができようになったわ。動物や植物、亡くなった人まで」


「人の心が読めるってことですか?」


「ええ」


 草原に吹き抜ける春風に緑色の髪をなびかせ、エメラルドのような瞳で俺を見つめながら彼女は答えた。


 心を読まれていた感覚は、気のせいじゃなかったんだ。


「ごめんなさい、糸くんの心も少し覗かせてもらったわ。お友達の松蔭さんという方を心配しているのね」


「はい……」


「その松蔭さんは、私のように次元に干渉できるみたい。彼女の干渉できる次元は【闇の次元】。まだこの学校には、その次元に干渉できる人はいないわ。だから、【闇の次元】についてはまだ詳しくは分かっていないの」


「【闇の次元】……」


「次元はあまりにも果てしなく、膨大なもの。下手な干渉の仕方をしてしまうと、精神が潰されてしまうかもしれないわ」


 俺には感じることのできない次元という概念。

 それは一体どんな形で存在し、超能力者とどうやって繋がっているのだろう。


「糸くん。近い未来に大変なことが起きるかもしれないけど、どうか松蔭さんを救ってあげてね。それにはこれが役立つかもしれないわ。はい」


 心乃さんは緑色に輝く棒のようなものを渡してきた。


「これは……?」


「ふふ、あの子を助けてくれたお礼よ。あら、スーパーで生ものを買っていいたのね。呼び止めてしまってごめんなさい。また会いましょう」


「は、はい……」


 心乃さんの振る舞い、言葉、存在感。

 その全てに、無能力者の俺にも特別なものを感じた。

 これがチューベローズの、4人の超能力者の一人なんだ。



 ◇◇◇



「え!! 【生命の次元】の超能力者、弥生心乃さんに会った、ですって!?」


 夕ご飯のカレーを食べながら、苺は驚いた。


「そうなんだよ。なんでも人の心が読めるらしくて、俺の心もスケスケだったんだ」


「お兄ちゃんのクラスメイトね。美人で巨乳だって聞いたけど、アンタ変な気起こしてないわよね?」


 ブフォッ!


「起こすわけないだろ! ……起こしてなかったよな?」


「知んないわよ!」


 もし変なこと考えてたら、心乃さんには筒抜けだろう。


「それより、苺のお兄さんも心乃さんと同じ6年生なのか。超能力者ってチューベローズに4人しかいないんでしょ? そのうち2人が同じ学年だなんて偶然だな」


「あら、知らないの? その4人の超能力者は全員同じ学年よ」


「え、そうなのか!?」


「そうよ。10万人に一人と言われる超能力者が4人揃ったその世代のことを、みんな『黄金世代』って呼んでるわ。その黄金世代のおかげで、高次元世界の開拓は急速に進行したの」


「か、かっこいいな」


 苺はなぜかドヤ顔でカレーを食べている。




 21時。

 シャワーを浴びて、ぼーっと携帯を確認すると、メッセージが溜まっていた。


 フィアス軍曹からだ。


 『食糧が尽きた』『ちょっと来て』などなど。

 ちょっと来てって、ここから青月館に行くには相当時間がかかるんだけど。


『明日の午前中に食糧を持っていくよ』


 返信をして、携帯を閉じる。

 ただ、フィアスの数あるメッセージの中の『異様な気配がする』というのに少し不安を覚えていた。




 22時。

 ザーッと雨の音がする。

 今日はなんやかんやでたくさん歩いて疲れていたので、すぐに眠りにつくことができた。



 …………



 雨上がりの朝、青月館へ歩いていく。


 ピンポーン


「昨日なんで来てくれなかったのさ。もうお腹ペコペコだよ~」


「まさか俺の差し入れ以外で何も食べてないなんて思わなかったんだよ。あれ?フィアス、髪の毛染めた?」


「?? 染めてないよ。変わったように見える?」


「あれ……? 気のせいかな、前はもっと真っ黒だったような。まあいっか」


 見間違いだろうか。

 でも、雪夜も高次元世界に来てから髪色が変わったし、あながち気のせいじゃないのかも。


「それはそうと、体調はどう?」


「うん。気分はだいぶ良くなってきたけど、体は重いままかな。ずっとベッドで寝てるの」


「たまには外に出た方がいいんじゃない? 植物には日光も必要なんだぞ」


「誰が植物だ」


「今日、雪夜とお出かけに行く予定なんだけど、一緒に行こうよ。都会の方とか」


「うーん……都会か~。糸がどうしてもって言うならついていくけど……」


「はい決定。40秒で支度しな」


「糸は朝食の支度しな」


 適当にフレンチトーストを作る。




「……ねえ糸、高次元世界に来てから雪夜が凄まじくなっていることに気づいてる?」


 フィアスがフレンチトーストを頬張りながら、唐突な話題を出した。


「凄まじく……? ああ、俺は感じないけど、雪夜は【闇の次元】とやらに干渉してるんだってさ」


「ああ、そういえばバスで変わったおじいさんがそんなこと言ってたね。実はさ、私にも見えるんだ。雪夜の言ってた黒いモヤモヤ」


 フィアスはバスの一件で【逆空間の次元】を認識できる能力者であることは分かってたけど、まさか【闇の次元】まで認識できるのか。


「それでね、昨日の夜から上の階からドス黒い闇が天井を突き抜けてここに流れているんだ。雪夜の部屋……一つ上の階だよね?」


「それだけ雪夜の闇が大きくなっているってこと!?」


 俺は天井を見上げる。


「んん……どこらへん?」


 目を凝らす。


「ほら、こうばーっと広がってるじゃない。まあでも、見えない人には見えないのかもね!」


 フィアスがくすっと笑う。

 悔しいので、頑張って集中していると……


「あ……っ!!! 見えた……!!!」


 こんなあっさり認識できるようになるものなのか。

 見えてしまえばもう疑いはない。ドス黒く漂う闇、はっきりと見える。


「えっ! 見えたの!?」


 面白がっていたフィアスは一瞬驚き、すぐに真剣な顔に戻った。


「もしこれだけの闇が全部雪夜のものだったら、相当ヤバイ気がするんだ」


 確かにフィアスもいくらか闇はまとっているが、比べ物にならないほど天井からの闇は濃く、大きい。


「……雪夜の部屋に行ってみよう」


 俺たちはフレンチトーストを食べ終え、3階の雪夜の部屋へ向かった。




 ピンポーン


「……はい」


 ガチャ


「……糸にフィアス。おはようございます」


 雪夜と対面した瞬間、背筋が凍った。

 闇が見えるようになったせいなのか、昨日の雪夜とは別人に見えた。


 全てを凍てつかせるような冷酷なサファイアのような瞳。

 フィアスの部屋で感じた何倍もの凄まじい黒い威圧感。

 俺は昨日、この状態の雪夜と遊んでいたというのか!?


「お、おはよう雪夜! 昨日の約束通り、い、一緒におでかけいかにゃ……ない?」


 あまりのプレッシャーに噛んでしまった。

 フィアスすらも、雪夜に見えないように俺の服を掴んで小刻みに震えている。


「ええ、構いませんわ。とりあえず上がります?」


「は、はいっ! 喜んで!」


 とても偉い人の誘いを受けるような返事。


「紅茶、淹れますわね」


 雪夜が台所へ向かう。

 ふう、と息をついて少し落ち着く。


「い……糸……」


 そこへ、フィアスが怯えた表情で何かを指さす。

 この角度では足しか見えない。

 まさかこれは……。


「昨日のぬいぐるみだ……」


 フィアスの方へ寄ると、震えながら俺の腕をつかんだ。

 なんと、そのぬいぐるみは首が切断されており、ボロボロに引き裂かれていたのだ。


「紅茶、淹れましたわ」


 雪夜が来るや否や俺たちはもとの席へ戻り、何も見なかった顔で迎える。


「フィアスはしばらくですわね。屋上のバイキング、美味しかったですわよ。今度一緒に行きませんこと?」


「わ、私は糸が作ってくれたご飯でいいかな」


「あら、いつの間にそのようなご関係に?」


 雪夜がこちらをじっと見る。

 怖い怖い。俺はとりあえず首を振っていた。


「……さて、本日はどこへ行きますの?」


「そうだね、駅前の都会の方に行ってみない?」


「都会……ですか。……分かりましたわ」


 雪夜の返事には躊躇いが見られた。

 この時、本人もこれから起こってしまうことに薄々気づいていたのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ